129) 白樺の癌:カバノアナタケ(チャーガ)

図:カバノアナタケ(チャーガ)は白樺に寄生するキノコで、「白樺の癌」といも言われる。ロシアなど東欧ではがん治療の民間薬として古くから使用されている。ロシアのノーベル賞作家のソルジェニーツィンの代表作の一つの『ガン病棟』の中でも記述されている

129) 白樺の癌:カバノアナタケ(チャーガ)

【白樺の樹皮・樹液には様々な薬効成分が含まれる】
124話で
ベツリン酸(betulinic acid)の抗がん作用について紹介しました。ベツリン酸は、がん細胞にアポトーシスを誘導する作用や、血管新生阻害作用などが報告されています。白樺の樹皮に多く含まれていて、betulinic acidの名前は白樺の学名のBetula platyphyllaに由来します。ベツリン(betulin)やベツリン酸(betulinic acid)やその誘導体は、抗がん剤や抗ウイルス剤として開発研究が行なわれています。
白樺の樹皮や樹液にはベツリン酸の他にも、様々な栄養物質や薬効成分が含まれています。
白樺(シラカバ、またはシラカンバ)は冷涼な気候に生息する樹木です。
白樺の樹皮や樹液にはサポニンや多糖類、アミノ酸、ミネラルなどの栄養分が多く含まれていて、様々な用途に利用されています。
白樺の樹液は人工甘味料キシリトールの原料になり、樹液をそのまま飲料や食品への添加物としても利用されています。また、樹液に含まれる成分にヒトの表皮の保湿を促進する効用があることから化粧品にも利用されています。
白樺の材を乾留して採取したタールを樺木タールや樺油といい、抗菌成分や抗炎症作用をもった成分が含まれ、外用薬として皮膚病や関節炎などの治療に使われています。
日本では白樺の樹液はミネラルなどが豊富とされ、健康食品の素材としても利用されています。

【白樺の樹液を養分にして育つカバノアナタケ(チャーガ)】
白樺に寄生するキノコがあります。日本ではカバノアナタケ(樺孔茸または樺穴茸)、外国ではチャーガ(Chaga,Charga)と呼ばれています。
学名はInonotus Obliquusで、タバコウロコタケ科サビアナタケ属のキノコの一種です。白樺の木の幹に寄生し、ロシア、中国、フィンランド、北海道東部などの寒冷地に生成しています。
カバノアナタケは白樺に寄生して内部に食い込み、白樺の樹液を養分として数年~数十年かけてゆっくり成長していきます。成長が遅いために希少とされ「幻のキノコ」と呼ばれています。
外見は石炭のような黒く硬い塊を形成し、表面は黒くひび割れたような亀裂が縦横に走り、中身は黄褐色です。
10cm~20cmの大きさになるのに10年以上かかり、最後には寄生した宿木を枯らせてしまう程の生命力を持っています。したがって、「
白樺の癌」と呼ばれることもあります(後述)。
免疫力を高める
βグルカンなどの多糖類の他、白樺の樹液に含まれるミネラルサポニンなどを濃縮して含んでいます。抗菌作用や抗がん作用をもった成分も見つかっています。白樺樹皮に含まれる抗がん成分として知られているベツリン酸を人体が吸収しやすい形で濃縮して含んでいます。
『毒をもって毒を制する』というのが抗がん剤治療の考え方ですが、チャーガは、『
植物の癌で人の癌を治療する』というものかもしれません。

【白樺の癌】
ロシアでは昔から、白樺の全てを利用していました。木材はもちろん、樹皮や樹液や葉などは民間療法にも用いられていました。白樺に寄生するチャーガも、胃腸の状態を良くし、抵抗力を高める効果が知られ、健康維持のための健康茶として古くから飲まれていました。
東ヨーロッパの諸国では、がんや胃潰瘍など様々な病気の民間療法として使用されていることが16世紀ころから記録が残っています。茸の中で、抗がん作用が最も強いという記載もあります。
ロシアのノーベル賞作家
ソルジェニーツィンの著書の「ガン病棟」にチャーガががんの民間薬として書かれていることから、がん患者の間で評判になりました。
「ガン病棟」は1955年当時のソビエト社会を背景に、ある総合病院のがん病棟で苦悩する患者たちを描いた、生と死の壮大な長編小説で、ソルジェニーツィンの代表作の一つです。その小説の中に「
白樺の癌」という章があり、そこにはチャーガについて以下のような内容の記述があります。

モスクワ郊外のアレクサンドロフ郡の病院に何十年も同じ病院に勤めている医者が、その病院に来る農民の患者にはめったに癌が見られないという事実に気がついた。
そこでその医者は調査を始め、そのあたり一帯の百姓たちは、お茶代を節約するために、茶ではなくチャーガというものを煎じている、ということを発見した。
チャーガは白樺の茸と言われているが、実際は白樺の癌というべきもので、白樺の木に寄生する妙な格好の、表面が黒くて内側は暗褐色の瘤のようなもの。
ロシアの百姓たちは、それとは気づかずに、そのチャーガでもって何世紀ものあいだ癌から救われていたのではなかろうかと、その医師は思った。そして、その医者はチャーガの抗がん作用や、煎じ方や飲み方などを研究し、多くのがん患者を治療した。
さらに小説のこの章の中では、がん病棟に入院しているがん患者が、このチャーガを入手するために奔走する有様や、民間療法に対する各々の考えなども記述されています
ガン病棟(上)新潮文庫(小笠原豊樹訳)p202~230(11:白樺の癌)からの要約

チャーガの科学的な研究は乏しく、人間での抗がん作用に関する研究はほとんど見当たりません。したがって、チャーガの抗がん作用も、民間療法として使用されてきた臨床経験や体験談のレベルです。
しかし、
白樺の樹皮に含まれるベツリン酸などの抗がん成分を濃縮し、キノコに含まれるβグルカンなどの多糖類による免疫増強作用を有していることから、抗がん作用は十分に期待できます。

ガン病棟の小説の中には、キノコの煎じ薬を飲んでいるがん患者に対して医師(ガンガルトという名前)の気持ちを述べた次のような一節があります。
ガンガルト自身はサルノコシカケの効能を信じていなかった。そんなものが効くということは聞いたことも教わったこともない。ただ、いずれにせよ、これはトリカブトの根とは違って、無害である。患者が信じているのなら、それだけでも何かの役に立つかもしれない。」ガン病棟(下)新潮文庫p116

サルノコシカケやカバノアナタケ(チャーガ)などのキノコの抗がん作用に対する患者の期待は、ロシアも日本も50年以上前から存在し、それに対する医者側の気持ちも、ほとんど変わっていないようです。
がんに対するキノコの有効性に関しては科学的根拠は乏しく、多くは経験や言い伝えのレベルですが、ワラをもすがる思いのがん患者にとっては、キノコの抗がん作用に大きな期待を持ちたいと思っています。『無害であれば、患者が信じているなら、それだけでも何かの役に立つかもしれない』としか言えないのは今の同じで、50年間あまり進歩がないような気もします。
ソルジェニツィンの「がん病棟」は、がん治療に関係する人(患者も医師も)にとって、考えさせる小説です。
(文責:福田一典)

 

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