345)漢方治療(中医薬治療)は肺がんの抗がん剤治療の効果を高める

図:ステージIIIとIVの進行肺がん患者の抗がん剤治療において、中医薬を併用した場合の効果を検討した24のランダム化臨床試験のデータをメタ解析した報告がある。抗がん剤治療に中医薬治療を併用すると、(1)毒性(副作用)を軽減し、(2)生存率を向上し、(3)奏功率を高め、(4)全身状態(KPS)を改善することが示されている。

345)漢方治療(中医薬治療)は肺がんの抗がん剤治療の効果を高める

【進行非小細胞性肺がんの補助療法としての中医薬治療の有効性】
進行した非小細胞性肺がんに対して白金製剤(シスプラチンなど)を使用した抗がん剤治療に黄耆を含む漢方製剤を併用すると、生存率や奏功率が上昇し副作用が軽減されるというメタ解析の結果(J Clin Oncol. 24:419-430, 2006)については18話で紹介しています。
メタ解析とは、過去に行われたランダム化比較試験の中から信頼できるものを全て選び、統計的に総合評価を行うことによって、その治療法の有効性を評価する方法です。
この2006年の論文では、白金製剤を使った抗がん剤治療を受けた進行した非小細胞性肺がん患者において、抗がん剤単独のグループと、抗がん剤治療に黄耆を含む漢方薬を併用したグループに分けて比較検討された34のランダム化臨床試験(患者総数2815人)の結果をメタ解析の統計的手法で検討しています。
その結果、抗がん剤治療に黄耆(オウギ)を含む漢方薬を併用することによって、2年後の死亡数が2~3割程度減少し、奏功率(腫瘍が縮小する率)やQOL(生活の質)の改善率は30%以上上昇し、高度の骨髄障害の頻度が半分以下になることが示されています。
最近の論文で、ステージIIIからIVの進行した非小細胞性肺がん患者の抗がん剤治療に中医薬(漢方薬)治療を併用した場合の有効性を検討した24の臨床試験のデータをメタ解析した結果が報告されています。その論文の要旨の日本語訳を以下に示します。

The efficacy of Chinese herbal medicine as an adjunctive therapy for advanced non-small cell lung cancer: a systematic review and meta-analysis.(進行非小細胞性肺がんの補助療法としての中医薬治療の有効性:系統的レビューとメタ解析)PLoS One. 2013;8(2):e57604.
【要旨】
進行した非小細胞性肺がんの治療において、標準治療と補完・代替医療との併用、特に中医薬治療(Chinese herbal medicine)の併用に関して多くの研究が行われている。しかし、その有効性に関しては十分に検討されていない。
この研究の目的は、進行した非小細胞性肺がんの治療において、標準的な抗がん剤治療に中医薬治療を併用した場合の有効性を評価することにある。
11のデータベースを検索し、条件に合う24の臨床試験を選び出した。これらの臨床試験に含まれる2109人の患者のデータを解析した。2109人のうち、1064人は抗がん剤治療と中医薬の併用による治療を受け、1039人は抗がん剤治療のみを受けた(6人の患者は脱落した)
抗がん剤治療単独群に比べて、抗がん剤と中医薬を併用した群は1年生存率が著明に向上した。(相対比 = 1.36, 95% 信頼区間 = 1.15-1.60, p = 0.0003). その他に、併用群では奏功率 (相対比 = 1.36, 95% 信頼区間 = 1.19-1.56, p<1.0E-5) や、カルノフスキー・パフォーマンス・スコア (Karnofsky performance score)で評価した全身状態の改善の率(相対比 = 2.90, 95% 信頼区間 = 1.62-5.18, p = 0.0003)も向上した.
一方、副作用に関しては、併用群で著明な軽減が認められた。例えば、グレード3~4の吐き気や嘔吐の頻度は併用群で顕著に低減した (相対比 = 0.24, 95%信頼区間 = 0.12-0.50, p = 0.0001) 。ヘモグロビンや血小板の減少の頻度も併用群では低下した。
さらに、この研究では、非小細胞性肺がんに高頻度に使用される生薬が同定された。
この系統的レヴューによる、進行した非小細胞性肺がんの治療において、中医薬治療は抗がん剤治療の補助療法として有用で、抗がん剤の副作用を軽減し、生存率を向上し、抗がん剤による腫瘍の縮小効果(奏功率)を高め、全身状態を良くする効果があることが示された。
しかしながら、今回検討したランダム化比較臨床試験の多くは小規模なものばかりで、大規模なランダム化試験は含まれていないので、今後はさらに大規模な臨床試験の実施が必要である。

このメタ解析の結果はトップの表にまとめています。
1年生存率は抗がん剤単独群が40.5%に対して抗がん剤+中医薬併用群が55.7%で生存率は36%の向上です。
短期的な抗腫瘍効果の指標である奏功率(完全奏功と部分奏功)は、抗がん剤単独群が28.3%に対して抗がん剤+中医薬併用群が38.3%で、これも36%の向上を認めています。
患者の全身状態はカルノフスキーのパフォーマンスステータス(Karnofsky Performance Status:KPS)で評価していますが、このKPSが治療後に改善した割合は、抗がん剤単独群が10.9%に対して抗がん剤+中医薬併用群が35.2%で、全身状態の改善した割合は3.25倍に向上しています。
副作用については、吐き気や骨髄抑制(白血球・ヘモグロビン・血小板の減少)について比較されていますが、全ての検討項目において、中医薬を併用することによって副作用が軽減することが示されています。特に、グレードIII~IVの重度の副作用の発生率が低下することが示されています。

以上の結果から、この論文の結論は、「進行非小細胞性肺がんの抗がん剤治療に中医薬治療を併用すると、毒性(副作用)を軽減し、生存率を向上し、奏功率を高め、全身状態(KPS)を改善することが示された」となっています。「ただし、個々の臨床試験の規模が小さいので、大規模な臨床試験での確認が必要である」という条件もついています。
このメタ解析では、ステージIIIとIVに絞っています。早期の肺がんで行った臨床試験を含めると結果にばらつきが大きくなるのと、進行しているほど治療効果の差が出やすいので、進行がんに絞ったと記述されています。
また、ランダム化臨床試験の質を評価する指標としてJadad score(ハダッドスコア)があります。5点満点で3点以上あれば比較的質の高いランダム化試験となります。このメタ解析では、Jadad scoreが3点以上のもののみを集めて解析してます。したがって、この結果はかなり信頼性が高いと言えます。
一般的に、メタ解析で有効性が示されれば、かなりエビデンスが高いという評価になります。しかし、大規模なランダム化試験で有意な結果がでなければ、確定とは言えません。
このメタ解析の元になった臨床試験は全て中国で実施されたもので、24の臨床試験で2100人程度のデータを集めているので、一つの臨床試験の規模は平均で100人弱なので、小規模と言わざるを得ません。信頼のおける大規模なランダム化臨床試験が必要だというコメントです。
しかし、抗がん剤治療に漢方薬や中医薬を併用しても、悪い結果になる可能性は低く、むしろ良い効果が得られると言えます

また、この論文では、非小細胞性肺がんに高頻度に使用される生薬としては、黄蓍(オウギ)、南沙参(ナンシャジン)、麦門冬(バクモンドウ)、甘草(カンゾウ)、茯苓(ブクリョウ)、白花蛇舌草(ビャッカジャゼツソウ)、天門冬(テンモンドウ)、桃仁(トウニン)、田七人参(デンシチニンジン)が挙げられています。これらの生薬については以下にまてめていますが、その薬効から予想されるものです。

この他にも、肺がんの治療に役立つ生薬は多くありますが、肺がんの抗がん剤治療の漢方治療にこれらの生薬を中心にした処方を併用することは有効性が高いと思います。

 

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