80)ホソバタイセイ(生薬名:タイセイヨウ)の抗がん作用

図:アブラナ科植物のホソバタイセイは、葉が「大青葉(タイセイヨウ)」、根が「板藍根(バンランコン)」という生薬になる。この植物に含まれるグルコブラシシンには抗菌・抗がん作用が認められている。グルコブラシシンは加水分解してインドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol)になり、さらに胃の中の酸性の条件下では、インドール-3-カルビノールが2個重合したジインドリルメタン(3,3'-diindolylmethane)になる。ジンドリルメタンの抗がん作用が多く報告され、米国ではサプリメントとして販売されている。。

80)ホソバタイセイ(生薬名:タイセイヨウ)の抗がん作用

【ホソバタイセイとは】
ホソバタイセイ(Isatis tinctoria)は,古代のブリトン人とケルト人が戦争に出陣するときの化粧の青色顔料として用いていたアブラナ科の植物です。日本でも、藍染めの原料として知られていますが、化学染料の出現とともに栽培がすたれてきています。
この藍染めの原料成分であるインジカンには抗菌・抗ウイルス作用や抗炎症作用があり、薬草として世界各国で民間薬や伝統医療に利用されています。
漢方では、葉は「
大青葉(タイセイヨウ)」、根は「板藍根(バンランコン)」という生薬名で使用されています。
タイセイヨウもバンランコンも
清熱涼血・解毒の効能があり、風邪、インフルエンザ、肺炎、はしか、ウイルス性肝炎、脳炎、髄膜炎、急性腸炎、丹毒など様々な感染症の治療に用いられています。
中国では風邪や扁桃炎の治療にタイセイヨウやバンランコンを含む製剤が大衆薬として多く使用されています。さらに中国では、日本脳炎、インフルエンザ、ウイルス性肝炎などのウイルス性疾患に対する臨床研究が行われ、バンランコンの注射液なども開発されています。
このようにホソバタイセイには、抗菌・抗ウイルス作用や抗炎症作用が古くから利用されていますが、近年では抗がん作用の研究も多く発表されています。ホソバタイセイに含まれる抗がん成分として
グルコブラシシン(Glucobrassicin)とその代謝産物であるインドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol)ジインドリルメタン(3,3'-diindolylmethane)があります(上図参照)
 
イタリアのボローニャ大学のStefania Galletti氏らの研究チームは,ホソバタイセイに抗がん化合物グルコブラシシンが豊富に含まれていることを確認し,Journal of the Science of Food and Agriculture(2006; 86: 1833-1838)に発表しています。この化合物を含む植物として、従来、ブロッコリーがその代表でした。この報告では、ホソバタイセイには、同じアブラナ科に属すブロッコリーに比べ,グルコブラシシンの含有量が20倍も豊富であることを確認しています。このグ
ルコブラシシンは特に乳がんや前立腺がんに効果があることが知られています

【グルコブラシシンは植物が生体防御に利用している】
植物は病原菌からの感染や、動物から食べられるのを防ぐために、生体防御物質や毒になるものをもっています。
グルコブラシシンはホソバタイセイが病原菌の感染から身を守るために作られていることが推測されています。つまり、ホソバタイセイの葉に病原性ウイルスを感染させたり、機械的に傷をつけるとグルコブラシシンが多く作られてくることから、グルコブラシシンはホソバタイセイの生体防御の役割をしていると考えられているのです。
このような物質は、人間でも抗菌作用や抗ウイルス作用が期待できます。また、抗菌・抗ウイルス作用をもった成分の中には抗がん作用を示すものもあります。
実際、植物から見つかる抗がん物質の多くは、植物が自分を守るための生体防御成分のことが多いのです。つまり、
植物が自分の生体防御の為に持っている成分は、人間の病気を治したり、生体防御力を高める薬効が期待できるのです。

【グルコブラシシンとは】
Glucobrassicin(グルコブラシシン)はブロッコリーやケールやホソバタイセイなどのアブラナ科の植物や野菜に含まれています。
このグルコブラシシンは加水分解して
インドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol, I3C)になり、さらに胃の中の酸性の条件下では、I3Cが2個重合したジインドリルメタン(3,3'-diindolylmethane, DIM)になります。
I3CとDIMは、乳がん細胞や前立腺がん細胞など多くのがん細胞の増殖を抑えたり、アポトーシス(細胞死)を引き起こすなどの直接的な抗がん作用が報告されています。
さらに、エストロゲンの代謝を促進する酵素を誘導して乳がん細胞の増殖を抑える効果や、ダメージを受けたDNAを修復する酵素を誘導する作用が報告されています。
米国では、インドール-3-カルビノールもジインドリルメタンもどちらもサプリメントとして販売されています。

インドール-3-カルビノールは不安定で、胃の中の酸性の条件下でジインドリルメタンになります。ジインドリルメタンは消化管から容易に吸収され、体中の臓器や組織に移行することが知られています。ジインドリルメタンには強力な抗がん作用が報告されていますので、がんの予防や治療における有用性が指摘されています。

【インドール-3-カルビノールとジインドリルメタンの抗がん作用】
アブラナ科植物に含まれるIndole-3-carbinolおよびこれが酸性の条件下で生成される重合体の3,3'-diindolylmethaneの抗がん作用に関しては、極めて多くの研究がなされています。乳がんや前立腺癌をはじめ、その他多くのがん細胞の増殖を抑え、細胞死(アポトーシス)を誘導することが報告されています。以下のような研究報告があります。

○ジインドリルメタンは転写因子のNF-κBを不活性化し、乳がん細胞における抗がん剤によるアポトーシス誘導を亢進する
がん細胞内の核内のNF-κBが活性化すると、この転写因子によって発現する遺伝子の働きによって、がん細胞は死ににくくなり、抗がん剤に対して抵抗性になる。
タキソテールに対する乳がん細胞の感受性(抗がん剤による死にやすさ)がジインドリルメタンによって亢進することが報告されており、その機序として、NF-κB活性をジインドリルメタンが阻害する作用が関与していることが報告されている。
つまり、ジインドリルメタンはNF-κB活性を阻害することによって、乳がん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があると報告されている。Mol Cancer Ther. 6(10):2757-65, 2007
○ジインドリルメタンは抗がん剤のパクリタキセルの抗腫瘍効果を高める
浸潤性の乳がんの25~30%はHER2/neu がん遺伝子を過剰発現しているが、HER2/neu 陽性乳がんは、増殖が早く抗がん剤に抵抗性であり、治療が困難である。HER2/neuを過剰発現している乳がん細胞は抗がん剤の パクリタキセルに対して抵抗性である。ジインドリルメタンがパクリタキセルの抗腫瘍効果を高めるかどうかを検討したところ、DIMとパクリタキセルを併用すると、HER2/neu陽性の乳がん細胞の増殖を抑制しアポトーシスを誘導する効果を相乗的に高めることが示された。
J Surg Res. 132(2):208-13. 2006
○ジインドリルメタンはDNAトポイソメラーゼの活性を阻害する
DNAトポイソメラーゼは、DNAの一部を切断し、再結合させる働きをもち、DNAの複製に必要な酵素。したがって、トポイソメラーゼ阻害剤は抗がん作用がある。
ジインドリルメタンがDNAトポイソメラーゼIIαを強く阻害し、トポイソメラーゼIやIIβも部分的に阻害する作用がある。そして、培養肝臓がん細胞HepG2を用いて、ジインドリルメタンがDNA合成を阻害し細胞分裂を阻害する効果莪あることが報告されている。
Mol Pharmacol. 69(4):1320-1327, 2006
○ジインドリルメタンはマウスの免疫能を高める
マウスにジインドリルメタンを経口投与によって摂取させると、脾臓のリンパ球が増加し、インターロイキン-6(IL-6)やIL-12、インターフェロン-γ、顆粒球コロニー増殖刺激因子 の産生が高まり、ウイルス感染に対する抵抗力が高まることが報告されている。J Nutr Biochem. 19(5):336-44, 2008
○ジインドリルメタンを添加した培養液で乳がん細胞を培養すると、survivin遺伝子の発現が抑制された
Survivinはアポトーシスを阻害する蛋白質で、乳がんを含め多くのヒトがん細胞で過剰に発現していることが知られている。ジインドリルメタンは乳がん細胞のsurvivinの発現を抑制することによって増殖を抑制し、アポトーシスを誘導する可能性が報告されている。Cancer Res. 66(9):4952-60.2006
○インドール-3-カルビノールはがん抑制遺伝子のp53を活性化する
インドール-3-カルビノールはがん抑制遺伝子のp53を活性化して、p21(waf1/cip1)の量を増やし、このp21(waf1/cip1)蛋白がサイクリン依存性キナーゼ2の活性を抑制するので、その結果、前立腺がん細胞(LNCaP細胞)の増殖が抑えられる。
Biochem Pharmacol 72(12):1714-23, 2006
○ ジインドリルメタンは、がん抑制遺伝子のp27kipを活性化することによってがん細胞にアポトーシスを誘導する
ジインドリルメタンは、がん細胞内のがん抑制遺伝子のp27(kip)蛋白の量を増し、活性化することによって、がん細胞のアポトーシスを誘導することが報告されている。Mol Cancer Ther 7(2): 341-9, 2008
○ ジインドリルメタンは乳がんや卵巣がんの転移や浸潤を抑制する
乳がん細胞にある受容体のCXCR4と、それに結合する増殖因子のCXCL12は、乳がんや卵巣がんなど多くのがん細胞の転移能や浸潤性と関連している。培養した乳がん細胞と卵巣がん細胞を用いた実験で、ジインドリルメタンが、がん細胞のCXCR4とCXCL12の発現を遺伝子転写のレベルで抑制した。この作用は、ジインドリルメタンが、乳がんや卵巣がんなど多くのがん細胞の浸潤性や転移能を低下させる作用と関連している可能性が示唆された。Cancer Lett 265(1):113-123, 2008
○ジインドリルメタンは低酸素によって誘導される転写因子のHIF-1の発現量を減少させる
がん細胞が低酸素状態になったときに活性化される転写因子のhypoxia-inducible factor (HIF)-1alpha の発現を、ジインドリルメタンは阻害する。HIF-1alphaは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの血管新生に関与する蛋白質の発現を誘導する。したがって、ジインドリルメタンは、腫瘍の血管新生を阻害してがん細胞の増殖を抑制する効果が示唆された。Biochem Pharmacol 75(9):1858-67, 2008
○ジインドリルメタンは前立腺がん細胞の増殖を抑える
アンドロゲン依存性前立腺がん細胞(LNCaP)に対する抗腫瘍効果は50%増殖阻止濃度がインドール-3-カルビノールが150μMであったのに対して、ジンドリルメタンは50μMであった。
ジインドリルメタンは増殖刺激を受けたLNCaP細胞のDNA合成と細胞分裂を抑制した。また、アンドロゲン受容体、サイクリンD1、cdk4の発現やAktのリン酸化など、細胞増殖に関わるシグナルを抑制した。これらの結果より、ジインドリルメタンは前立腺がんの発生予防や治療に有用な食事由来の新しい抗がん物質であることが示された。Prostate 66(5):453-62, 2006

その他、多くの研究によってジインドリルメタンの抗がん作用が報告されています。乳がんや前立腺がん以外にも、卵巣がん、肺がん、膵臓がん等多くのがんに対して抗腫瘍効果を発揮することが報告されています。副作用が無いので、がんの再発予防にも有用です。
アメリカではジンドリルメタンのサプリメントが販売されており、その中で、消化管からの吸収の良い
DIM-Proが推奨されています。(DIM-PROについてはこちらへ
また、がんの漢方治療でも、感染予防や抗がん作用を目的にタイセイヨウやバンランコンを使うのは有用と考えます

 

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