501)医療大麻を考える(その13):大麻は脳細胞を保護する

図:大麻に含まれるカンナビノイド(特にΔ9テトラヒドロカンナビノール)が作用する受容体(CB1)は、図に示すような脳の様々な領域に存在し、それらの領域は多彩な精神活動や脳機能制御に関わっている。したがって、大麻を過剰に摂取すれば精神機能や運動機能に障害を引き起こす。しかし、適度な量を使用すれば、有用な薬効となりうる。

501)医療大麻を考える(その13):大麻は脳細胞を保護する

【アメリカ合衆国はカンナビノイドを神経保護剤として特許を登録している】
マスコミも含めて多くの日本人は、「大麻は神経毒」「大麻は人を凶暴にする」という間違った考えに洗脳されています。
医学的には、「大麻成分は神経細胞を保護する」「大麻は人の攻撃性を弱める」というのが事実であり、多くの研究によって証明されています。
少なくとも、アルコールやニコチンや他の幾つかの医薬品に比べれば、大麻の神経毒性はほとんど無いと言えるレベルです。「アルコールは人を凶暴にし、大麻は人をおとなしくする」というのは薬物依存の研究領域では常識です。
アメリカ合衆国の規制物質法(Controlled Substances Act)では、大麻はヘロインと同じスケジュールIに分類されています。スケジュールIは「濫用の危険があり、医療用途がない」物質です。

しかし、アメリカ合衆国は「Cannabinoids as antioxidants and neuroprotectants(抗酸化剤および神経保護剤としてのカンナビノイド)」という特許を登録しています。
特許番号はUS 6630507 B1で、1999年4月に出願し、2003年10月に公開しています。
出願人(Assignee)は「The United States of America as represented by the Department of Health and Human Services」となっています。
Department of Health and Human Services(HHS)はアメリカ合衆国の保健福祉省で、アメリカ合衆国連邦政府が管轄する米国政府の機関です。日本の厚生労働省に相当します。
HHSは11の部局から構成されますが、その部局として、国立衛生研究所(NIH)や食品医薬品局(FDA)や薬物乱用・精神衛生サービス局(SAMHSA)などがあります。
発明者(inventors)のAidan J. Hampson、 Julius Axelrod、 Maurizio Grimaldiの3人が国立精神衛生研究所 (NIMH)に所属し、このNIMHはNIH(国立衛生研究所)の管轄で、NIHはHHS(保健福祉省)の1部局なので、出願人がアメリカ合衆国になっているのです。この特許の要約を以下に訳しています。(原文はこちら

【要約】
カンナビノイドはNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体の拮抗作用とは関係なく、抗酸化作用を有することを発見した。
この新規に発見された性質は、虚血性疾患や加齢関連疾患や炎症性疾患や自己免疫疾患のような酸化傷害に起因する様々な疾患の治療と予防にカンナビノイドが有益であることを示している。
脳卒中や脳外傷のような虚血性脳障害の進行を抑える目的や、アルツハイマー病やパーキンソン病やHIV認知症のような神経変性疾患の治療の目的において、カンナビノイドが神経保護剤として利用できることが明らかになった。
カンナビジオールのような精神作用を有しないカンナビノイドは特に使用に有利である。それは、本発明の方法において、高用量で使用した場合に、精神作用のあるカンナビノイドによる毒性を避けることができるからである。神経保護作用のある抗酸化剤として有用なカンナビノイドは構造式(I)のRグループがH、CH3、およびCOCH3のものである。

構造式(I)

この特許の元になったのが以下の論文です。

Cannabidiol and (-)Delta9-tetrahydrocannabinol are neuroprotective antioxidants.(カンナビジオールとデルタ9-テトラヒドロカンナビノールは神経保護作用のある抗酸化剤である)Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 Jul 7;95(14):8268-73.
Hampson AJ1, Grimaldi M, Axelrod J, Wink D. 

培養したラット大脳皮質の神経細胞に興奮性神経伝達物質のグルタミン酸などを投与して神経細胞傷害を引き起こす実験系で、カンナビジオール(CBD)とデルタ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が神経保護作用を示すことが報告されています。
その作用メカニズムは、カンナビノイド受容体を介するものでなく、抗酸化作用によるものでした。カンナビジオールはビタミンCやビタミンE(αトコフェロール)よりもより強力な抗酸化作用と神経保護作用を示すと言っています。

この特許は現在、KannaLife Sciences, Inc.が独占的実施権(Exclusive License)をNIH(国立衛生研究所)から得ており、カンナビノイドの医薬品としての商品化が進められています。(関連するニュース記事はこちらへ
KannaLife Sciences, Inc.はMedical Marijuana, Inc.の投資先企業(portfolio company)の一つです。Medical Marijuana, Inc.は米国で合法化された医療大麻関連のビジネス領域において米国で最初に設立された株式会社で、ヘンプオイルや医療大麻関連の多くの企業に投資しています。

このように米国では規制物質法で大麻をスケジュールI(乱用の危険があって、医療用途がない)に分類して、いまだに大麻の医療効果を認めていないのですが、日本の厚労省に相当するHHS(米国保健福祉省)は、すでに大麻の医療効果を認めており、大麻成分からFDA(米国食品医薬品局)が承認する医薬品の開発を進めているのです。

【THCはアルツハイマー病の治療薬として注目されている】
大麻がアルツハイマー病の治療に有効である可能性を示す論文は数多くあります。最近、以下のような論文があります。

Amyloid proteotoxicity initiates an inflammatory response blocked by cannabinoids (アミロイドのタンパク質毒性はカンナビノイドによって遮断される炎症反応を起動する)npj Aging and Mechanisms of Disease (2016) 2, 16012; doi:10.1038/npjamd.2016.12; published online 23 June 2016

【要旨】
脳組織におけるアミロイドβやその他の凝集たんぱく質は加齢とともに増加し、しばしば神経細胞内に認められる。しかしながら、神経細胞内のアミロイドと老化と神経変性の間の関連に関するメカニズムについては十分に解明されていない。
ヒトの中枢神経系の神経細胞の細胞株を用い、アミロイドβの発現を誘導してアミロイドβのたんぱく質毒性を解析できる動物実験モデルを用い、細胞内のアミロイドβによって引き起こされる細胞死の特徴を検討した。
細胞内のアミロイドβは毒性のある炎症反応を引き起こし、最終的に神経細胞死を誘導した。
アミロイドβは多数の炎症性サイトカインの遺伝子発現を誘導し、アラキドン酸とエイコサノイドの両方を増やした。エイコサノイドには神経細胞保護作用のあるプロスタグランジンと細胞死を促進するロイコトリエンも含まれている。
テトラヒドロカンナビノールのようなカンナビノイドは細胞内のアミロイドβの除去を促進し、炎症反応を阻止し、神経細胞保護作用を示した。
以上の結果から、神経細胞内のアミロイドβの蓄積によって引き起こされる複雑で自己触媒的な炎症反応が存在することが示され、このたんぱく質毒性の初期の作用はカンナビノイド受容体によって阻止されることが示された。 

この論文では言及していませんが、「複雑で自己触媒的な炎症反応」というのはNLRPインフラマソームかもしれません。 NLRPインフラマソームの活性化がアルツハイマー病の発症に関連していることが知られています。(498話参照)
アルツハイマー病は老年性認知症の原因としては最も頻度が高い神経変性疾患です。(認知症やアルツハイマー病については481話参照)
アルツハイマー病の脳の病理所見で最も特徴的なのが「老人班」です。この老人班はアミロイドβペプチド(Aβ)の蓄積から構成されています。
Aβはアミロイド前駆体たんぱく質(APP)から酵素(βおよびγセクレターゼ)によって切断されて産生される38〜43アミノ酸からなるペプチドです。
脳内のAβの濃度はAβの産生と除去(クリアランス)のバランスによって決定され、そのバランスが破綻することによって脳内Aβが増加し、Aβの蓄積・凝集によって神経細胞障害が引き起こされ、最終的にアルツハイマー病が発症します。
アルツハイマー病では脳組織内にアミロイドβたんぱく質の凝集塊が蓄積することによって神経細胞内で炎症反応が起こって、細胞死が引き起こされます。
この論文では、テトラヒドロカンナビノール(THC)は「神経細胞内のアミロイドβの除去を促進し、炎症反応を阻止し、神経細胞保護作用を示した」ので、アルツハイマー病の発症や進行の防止に有用である可能性があると考察しています。

この論文は、ソーク生物学研究所(米国)のDavid Schubertが率いる研究チームで、組織培養モデルを利用して、こうしたタンパク質凝集体の毒性作用を研究しています。
この研究では、アミロイドβの産生が炎症反応を起動して、最終的にそれがニューロンの死につながることが明らかにされました。
一方で、重要な防御機構も発見されました。
つまり、脳は内因性カンナビノイドを生成してアミロイドβの排除を促進すると言っています。内因性カンナビノイドは毒性成分の除去促進と炎症抑制によって脳神経を守る役割を担っているのです。
マリフアナ(大麻)の有効成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)のようなカンナビノイドによる処置でも炎症が抑制されて細胞死がされることを示しています。その結果、大麻がこの難病のアルツハイマー病における神経障害を予防する治療薬になる可能性を示唆しています。
この研究結果はソーク研究所からプレスリリースされています。
その内容の日本語訳は以下です。(原文はこちら

2016年6月27日
カンナビノイドは老人班を形成するアルツハイマー病たんぱく質を神経細胞から除去する。

ヒトの神経細胞におけるアミロイドβの量をTHCが減らす作用があることをソーク研究所の基礎研究でみつかる。

ラホヤ(La Jolla)発:
マリファナ(大麻)に含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)とその他の成分が、アルツハイマー病の発症に関連する毒性たんぱく質のアミロイドβの神経細胞からの除去を促進することができるという予備的証拠を、ソーク研究所の研究者たちが発見した。
これらの探索的研究は培養した神経細胞を用いて行われたが、アルツハイマー病における炎症の関与を示し、この病気に対する新規の治療法を開発する手がかりを提供するかもしれない。
「カンナビノイドがアルツハイマー病の症状に対して神経保護的に作用することを示す証拠は他の複数の研究で示されているが、我々の研究結果はカンナビノイドが神経細胞内における炎症とアミロイドβ沈着の両方に作用することを初めて示した。」と、この論文の共著者であるソーク研究所のデビッド・シューベルルト(David Shubert)教授は述べている。

アルツハイマー病は進行性の神経変性疾患で、記憶力が低下し、日常生活を遂行する個人の能力を極度に障害する。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)のデータによると、米国では500万人以上のアルツハイマー病の患者がいて、死亡の主要な原因にもなっている。
しかも、アルツハイマー病は認知症の原因で最も多い病気であり、今後50年間で患者数は3倍になると予想されている。
アルツハイマー病の症状や病理学的な老人班が出現する前に、老化した脳の神経細胞内にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することがかなり以前から知られている。
アミロイドβはアルツハイマー病の特徴である老人班の主要な構成成分である。しかし、この病気の発症過程におけるアミロイドβや老人班の正確な役割については、まだ不明な点が多く残されている。

「Aging and Mechanisms of Disease(加齢と疾患のメカニズム)」という学術雑誌の2016年6月号に発表された論文では、ソーク研究所の研究チームは、アルツハイマー病の神経細胞のようにアミロイドβを過剰に産生するように改変した神経細胞を作成し、研究を行った。
アミロイドβの蓄積が増えると細胞内に炎症が引き起こされ、神経細胞死の頻度が高まることを、研究者たちは発見した。
彼らは、神経細胞にTHC(テトラヒドロカンナビノール)を投与すると細胞内のアミロイドβたんぱく質の量が減少し、このたんぱく質によって引き起こされる炎症反応が消失し、その結果、神経細胞は生存できるようになった。

「脳内の炎症がアルツハイマー病における神経ダメージの主要な原因になっている。しかし、この炎症は脳内における免疫細胞によって引き起こされると長く考えられていて、神経細胞そのものが引き起こすとは考えられていなかった。」と、シューベルト教授の研究室のポストドクター(博士号取得後)の研究者で、この論文の筆頭著者であるアントニオ・クライス(Antonio Currais)は述べている。
「アミロイドβに対する炎症反応の分子メカニズムを解明した結果、細胞死から自分を守るために、神経細胞自身がTHC様の物質を産生していることが明らかになった。」

脳の神経細胞は内因性カンナビノイドによって活性化さる受容体として知られるスイッチを持っている。内因性カンナビノイドは体内で作られる脂質由来の物質で、脳内における細胞間のシグナル伝達に使われている。
マリファナの精神活性作用はTHCによって引き起こされる。THCは内因性カンナビノイドが作用するのと同じ受容体を活性化するので内因性カンナビノイドと同様の作用を発揮する。
身体活動が内因性カンナビノイドの産生を高めることが知られており、運動がアルツハイマー病の進行を遅くする可能性が複数の研究で示されている。

この研究チームの発見は、培養細胞を使った実験モデルで得られた結果なので、THCやその類縁の物質をアルツハイマー病の治療に応用するためには、臨床試験で有効性が証明されなければならないと、シューベルト教授は強調している。

今回とは別の実験において、シューベルト教授の研究室は、J147と命名されたアルツハイマー病治療の候補薬を見つけている。このJ147もまた神経細胞に蓄積したアミロイドβを除去し、神経細胞内と脳内の両方における炎症反応を減弱させる。 
研究者らは、J147の研究中に、アミロイドβの除去と炎症の抑制に内因性カンナビノイドが関与していることを発見した。

この論文の他の著者は、カリフォルニア大学サンディエゴ校のOswald Quehenberger と Aaron Armando、ソーク研究所のPamela Maher and Daniel Daughtery が含まれている。
この研究はアメリカ国立衛生研究所(NIH)とBurns Foundation とBundy Foundationから研究費をサポートされた。 

以下のような報告もあります。

Prolonged oral cannabinoid administration prevents neuroinflammation, lowers β-amyloid levels and improves cognitive performance in Tg APP 2576 mice(長期間のカンナビノイドの経口投与はTgAPP2576マウスの神経組織の炎症を阻止し、アミロイドβの量を低下させ、認知機能を改善する)
J Neuroinflammation. 2012; 9: 8.doi: 10.1186/1742-2094-9-8
PMCID: PMC3292807

アルツハイマー病の脳は進行性の炎症状態を示します。THCは神経細胞を保護し、抗炎症作用を示し、アルツハイマー病の治療薬としての可能性を持っています。
そこで、この論文では、アミロイド前駆たんぱく質を過剰発現するように遺伝子改変したマウス(transgenic amyloid precursor protein mice:TgAPPマウス)を用い、薬理学的に異なる2つのカンナビノイド(WIN 55,212-2 と JWH-133)を4ヶ月間、飲水に混ぜて0.2 mg/kg/dayの量を経口投与して検討しています。
11ヶ月齢のTgAPPマウスでは、新奇物体認識能の有意な減弱を認めましたが、JWH-133の4ヶ月間の投与は、この認知機能の低下を正常レベルに回復させることができました。TgAPPマウスでは脳の海馬領域と皮質領域におけるフルオロデオキシグルコースの取込みが減弱していましたが、JWHの経口投与によって正常化されました。
皮質のアミロイドβは両方のカンナビノイドで有意に減少し、これら2つのカンナビノイドがアミロイドβの排出を促進することが示されています。
この論文の結論は『長期間のカンナビノイド投与は、炎症を減弱させ、アミロイドβの除去を促進して、顕著な有用作用を示すことが明らかになった。』となっています。

大麻がアルツハイマー病の発症予防や進展抑制に有効であることは多くの研究で支持されています。これらの研究をまとめると、そのメカニズムは以下のようになります。

(1)アミロイドβペプチドの凝集を抑制する。

(2)タウ・プロテイン(Tau protein)のリン酸化を阻害する

(3)記憶に関与する脳の海馬の神経新生を刺激する。

(4)抗酸化作用や炎症性サイトカインや炎症性伝達物質の産生抑制の機序によって、神経組織における炎症を軽減する(主にCB2活性化による抗炎症作用)

(5)アセチルコリン・エステラーゼの活性を阻害してコリン作動性神経伝達を亢進する。

(6)フリーラジカルの産生を抑制しミトコンドリアの活性を高め、神経細胞のエネルギー産生を良くする

(7)さらに、カンナビノイド受容体CB1を介する機序で、気分を楽にし、食欲を高め、睡眠を良くし、ストレスや不安や攻撃性を軽減する。

以上のように、医療大麻はアルツハイマー病の治療に極めて有効であることが示されています。カンナビノイド受容体のCB1とCB2の両方のアゴニストであるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)はアルツハイマー病の治療に有用と言えます。またカンナビジオール(CBD)はカンナビノイドの中で最も抗酸化力が強く、さらにTHCの好ましく無い精神作用の発現を抑制することが知られています。
したがって、大麻抽出エキス(ナビキシモルスなど)や医療大麻の方がTHC単独よりも有効性は高いと言えます

【日本では大麻の薬効を報道するのはタブー?】
大麻成分のカンナビノイドの神経系に対する作用の研究を、その毒性から研究することも大切ですが、薬効との関係で研究する方がもっと重要だと多数の研究者は考えています。
しかし、なぜか日本では、「大麻が病気の治療に有用」という研究発表も報道もできない風潮があるように思います。
大麻とアルツハイマー病に関する前述の論文とプレスリリースをしたソーク研究所は、ポリオワクチンを開発したジョナス・ソークによって1963年に創設された生物医学系の研究所(カリフォルニア州サンディエゴ郊外のラホヤに位置する)で、分子生物学と遺伝学の研究所として世界的にトップクラスの研究所です。この研究所から数多くのノーベル賞学者を輩出しており、ノーベル賞受賞者がいつも数人は在籍しているような研究所です。
Wikipediaには「研究者の数が1000人にも満たない小規模の研究所であるが、常に研究論文の引用度は世界でも1、2を争う。教授陣は各研究分野の先端を走っているといわれる。」と記述されています。https://ja.wikipedia.org/wiki/ソーク研究所
医学の研究では、一流の研究者が何を考えているかが重要です。THCについては、神経変性疾患の治療に応用しようというのが、神経生物学領域の一流の研究者のアイデアです。
大量に服用すればそれなりの毒性がTHCにあるのは当たり前ですが、その作用を難病の治療に応用しようという考えができないのが日本の研究者です。
大阪大学の研究グループが出したプレスリリースを何の疑問も持たずに「大麻の成分、脳の神経回路を破壊…阪大チームがメカニズム解明(Yahooニュース)」、「大麻の有効成分「カンナビノイド」は脳の神経回路に障害を与える - 阪大(Livedoor News)」などと、6月30日に多くのマスコミが見当はずれの記事を配信しています。あまりに間違った内容なので497話でコメントしています。

【内因性カンナビノイドシステムが医薬品開発のターゲットとして注目されている】
1964年に大麻の精神変容作用の原因成分としてΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が分離され、1988年にTHCが直接作用する受容体が発見されカンナビノイド受容体タイプ1(CB1)と命名され、数年後にタイプ2の受容体(CB2)の遺伝子が発見されました。

CB1は主に中枢神経系のシナプス(神経細胞間の接合部)や感覚神経の末端部分に存在します。さらに筋肉組織や肝臓や脂肪組織など非神経系の組織にも広く分布しています。
CB2は主に免疫系の細胞に発現していますが、これも体内の多くの細胞に発現しています。
カンナビノイド受容体が存在することは、体内にカンナビノイド受容体に作用する体内成分が存在することを意味しています。カンナビノイド受容体と反応する体内に存在する物質を内因性カンナビノイドと言います。

内因性カンナビノイドとしてアナンダミド(アラキドノイルエタノールアミド)と2-アラキドノイルグリセロールが知られています。この2つは細胞膜のリン脂質を分解してできるアラキドン酸から合成されます。

アナンダミドは脂肪酸アミドハイドロラーゼによって分解され、2-アラキドノイルグリセロールはモノアシルグリセロール・リパーゼなどによって分解されます。

内因性カンナビノイド・システムというのは、カンナビノイド受容体のCB1とCB2、内因性のリガンドである内因性カンナビノイド(アナンダミド、2−アラキドノイルグリセロール)、内因性カンナビノイドの合成酵素と分解酵素から構成されています。

この内因性カンナビノイド・システムは、神経系や免疫系だけでなく、消化器系や内分泌系や循環器系や呼吸器系など、ほぼ全ての生体機能の制御に関わっており、体の治癒力の根幹にもなっていることが近年の研究で明らかになっています。

大麻が様々な薬効を示すのは、大麻に含まれるカンナビノイドという成分が結合する受容体が神経系や免疫系など体内に広く分布し、様々な生理機能の制御に重要な役割を果たしているからです。

内因性カンナビノイドシステムの研究は近年非常な注目を集めていますが、その理由は、このシステムに作用する物質が医薬品として極めて有用である可能性が高いからです。
内因性カンナビノイドシステムは神経系においては、神経保護作用、侵害受容(疼痛)の制御、運動機能の調節、神経細胞の新生、シナプス可塑性、記憶・認知機能の制御、報酬系の制御、食欲調節など多彩な精神神経機能の制御に関わっています。
大麻も過剰に摂取すれば不都合な精神症状や神経障害や不快な症状が発生しますが、適切な量を使用すれば、病気の治療に役立ちます。

【出生前のマリファナ暴露は運動知覚を向上する】
内因性カンナビノイドシステムは脳の発達においても重要な役割を担っています。そのため、妊娠中の母親のマリファナ使用が、生まれてきた子供の運動機能や認知機能に悪影響を及ぼす可能性を指摘した研究結果が報告されています。しかし、一方、マリファナ使用である種の機能が向上したという報告もあります。以下の論文は、母親のマリファナ使用が子供の運動知覚機能を良くするという報告です。

Prenatal exposure to recreational drugs affects global motion perception in preschool children(娯楽用薬物の出生前の暴露は学齢未満の小児における包括的な運動知覚に影響を与える)
Sci Rep. 2015; 5: 16921.doi: 10.1038/srep16921
PMCID: PMC4652269

【要旨】
出生前に娯楽用薬物に暴露すると運動機能や認知機能の発達を障害する。しかしながら、脳の視覚領域が影響を受けるかどうかは知られていない。
この疑問を明らかにするために、包括的な運動知覚(global motor perception)に対する出生前暴露の影響を検討した。この包括的運動知覚は、神経の発達過程で特に障害を受けやすいと考えられている背側外線状皮質領域で情報処理される。
メタンフェタミン、アルコール、ニコチン、大麻の様々な組合せで出生前に暴露された4.5歳の小児145人と、薬物に暴露されていない25人の小児を対象に包括的運動知覚が測定された。
母親の自己申告による薬物使用は胎便(新生児が初めて排出する糞便)の検査で確認された。
包括的運動知覚は出生前のアルコール暴露によって障害され、大麻(マリファナ)暴露によって顕著に改善されることを発見した。
アルコールと大麻の両方への同時暴露は包括的運動知覚に影響を与えなかった。通常の視力や立体視力のような他の視覚機能は、薬物暴露による影響を認めなかった。
出生前のメタンフェタミンの暴露は視覚機能に影響を与えなかった。
今回の我々の研究結果は、出生前の薬物暴露が視覚機能の発達に影響する可能性を示しているが、その影響は母親が妊娠中に使用した薬物の種類に依存する。

運動知覚は生物の生存にとっては非常に重要で,進化的にみると,その初期に発達したと考えられています。たとえば,動いている動物を捕食できるためには、動き、方向、位置、速度などを知覚できなければならず、そのような能力がなければ、捕食者の生存の可能性は低くなります。
このような視覚情報の処理と、それに連動した身体運動の制御は大脳皮質の視覚領域(特に、背側外線状皮質領域)が支配しています。この背側外線状皮質領域は脳の発達過程で様々な要因で異常を受けやすい部位です。
そこで、出生前の薬物暴露、つまり母親が妊娠中に薬物を使用していた場合に、どのような薬物がどのような影響を及ぼすかを、薬物の出生前暴露をうけた145人の小児と薬物暴露を受けていない25人の小児を対象に運動知覚を測定して検討しています。
この研究はニュージーランドで行われているコホートで、この研究の対象になった小児が出生前に暴露されていた薬物はニコチン(75.2%)、アルコール(56.4%)、メタンフェタミン(44.2%)、マリファナ(40%)で、多くの小児(81.3%)は複数の薬物に暴露されていました。
その結果、アルコールは運動知覚を障害し、大麻は逆に運動知覚を良くするという結果でした。
たとえば、運動コヒーレンス閾値(motion coherence threshold)という指標での比較が行われています。ある速度での刺激の違いを弁別する閾値のようなもので、点数が高い(閾値が高い)ほど運動知覚能力が低いと判断されます。
この検査で、非アルコール暴露群(n=70)が50 ± 23%で、アルコール暴露群(n=95)が59 ± 21%で、アルコール暴露による包括的運動知覚の低下が認められました(p=0.002)。
一方、予想に反して、マリファナ(大麻)に暴露した子供(n=67)の運動コヒーレンス閾値は46 ± 20%で、マリファナ非暴露群(n=98)は63 ± 25%とマリファナ暴露群が顕著に良い成績でした(p=0.001)。このマリファナ暴露群にはマリファナ+アルコールも入っています。
アルコールに暴露されていないマリファナ暴露群(n=20)の運動コヒーレンス閾値は34 ± 11%でした。一方、何も薬物に暴露されていない対照群(n=25)の運動コヒーレンス閾値は58 ± 23%でした。
つまり、母親が妊娠中に飲酒せずにマリファナだけを使用していて生まれた子供は、何も薬物を使用していない母親から生まれた子供と比較して、包括的運動知覚が1.7倍(58÷34)も向上するという結果です。
アルコールとマリファナを併用していた場合(n=48)の運動コヒーレンス閾値は 53 ± 24%で対照群(薬物非暴露群)と差が認められませんでした。これは、アルコールによる包括的運動知覚の低下をマリファナが正常レベルに戻していることを意味します。
つまり、母親がマリファナを使用していると、生まれてきた子供は通常の視力や動体視力や立体視力が良くなるという結果です。
さらにアルコール非暴露のマリファナ暴露群(n=20)では、母親のマリファナの使用回数とマリファナタバコの使用量が多いほど、運動コヒーレンス閾値が低下(=包括的運動知覚が向上)していました。
一方、アルコール暴露でマリファナ非暴露群では、アルコールの摂取量と頻度が多いほど、運動コヒーレンス閾値が上昇(=包括的運動知覚が低下)することが明らかになっています。
つまり、生まれてきた子供の包括的運動知覚は、母親の妊娠中のアルコール摂取量が多いほど低下し、マリファナの使用量が多いほど良くなり、しかも、マリファナ使用がアルコールの悪影響をキャンセルするという結果です。
妊娠中のマリファナ使用が運動機能や認知機能を低下させる結果も報告されているので、包括的運動知覚以外の脳機能への影響については今後の研究が必要であり、妊娠中のマリファナ使用が胎児の発育にメリットがあるとは現時点では言えません。
視覚機能を支配する脳の領域にはカンナビノイド受容体の発現が多いので、大麻がこの領域の発達を促進した可能性があると考察しています。
内因性カンナビノイドシステムが脳のある部分の機能を高めることが報告されています。一方で、妊娠中の大麻使用が認知機能などを低下させる結果も報告されています。
いずれにしても、中枢神経系に対する大麻の有害性は、アルコールよりもかなり低いとは言えそうです。

【大麻は暴力を減らす】
アンドリュー・ワイル(Andrew Weil)博士は、病気の自然療法や代替療法の分野では最も影響力の強い研究者です。世界各地の伝統医療に造詣が深く、薬用植物に関しては世界的権威です。

ワイル博士は、1968年にボストン大学医学部で行った大麻吸引の臨床実験のデータをもとに、アメリカの政府機関や州議会や世界保健機関(WHO)などで大麻の医学的な効能について証言や助言を行っています。
このワイル博士が、昭和54年の京都地方裁判所での大麻取締法違反事件で証言しています。
その証言の中で、「アルコールは人を攻撃的にさせ暴力的犯罪を引き起こすが、大麻は人々の攻撃性を低下させる」、「大麻を大量に摂取しても急性中毒症状は起こらないし、大麻の過剰摂取で死んだ人はいない」、「ヘロインやモルヒネやアルコールは身体依存が見られるが、大麻には身体依存は生じない」
、「普通の医薬品と比較しても大麻の安全性は高い」、
「大麻はアルコールやタバコより安全で、しかも多くの病気に対して効果がある」と証言しています。
ワイル博士が35年以上前に発言した事はその後の多くの研究で確認されています。
1990年から2006年までのアメリカ合衆国の50州全ての犯罪率を追跡調査し、医療用大麻を合法化した州での犯罪率の変化を検討した報告があります。その結果、医療大麻法の施行が、殺人や強盗や暴行などの暴力犯罪を増やすことはなく、むしろ、殺人と暴行の犯罪率の減少に関係している可能性が指摘されています。飲酒は暴力犯罪を増やしますが、大麻にはそのようなリスクは無いと言えます。
以下のような報告もあります。

Couples' marijuana use is inversely related to their intimate partner violence over the first 9 years of marriage.(結婚後9年間以上の調査で、夫婦のマリファナ使用は配偶者間の暴力と逆相関する)Psychol Addict Behav. 2014 Sep;28(3):734-42. doi: 10.1037/a0037302. Epub 2014 Aug 18.

米国からの報告です。
intimate partner violence (IPV)は「親密なパートナーの暴力」という意味で、配偶者や恋人の間での暴力です。
この論文では634組の夫婦を対象に、結婚後9年間以上の間の夫婦間の暴力について調査しています。
その結果、夫と妻のマリファナ使用の回数が多いほど、夫による暴力が少ないという結果でした。
夫のマリファナ使用は妻による暴力を減らすこともこの調査で明らかになっています。
夫婦共にマリファナを使用している場合が、夫婦間の暴力が最も少ないという結果でした。
つまり、夫婦がマリファナを吸っていると、家庭内暴力は減るということです。マリファナは人を幸福にし、人の攻撃性を低下させるからだと言えます。
オランダとドイツの研究グループからの調査でも、大麻は攻撃性を弱めることが報告されています。以下のような報告があります。

Subjective aggression during alcohol and cannabis intoxication before and after aggression exposure.(攻撃性刺激の前後におけるアルコールと大麻の使用中の主観的攻撃性)Psychopharmacology (Berl). 2016 Jul 15. [Epub ahead of print]

Intoxicationは酔っている状態です。つまり、飲酒やマリファナ(大麻)を使用してそれらの薬物の影響が出ている状態(酔っている、ハイになっている状態)です。
このような状況で、人を怒らせるようなことをするとどうなるかという研究です。
結論は、アルコールで酔っているときは人をより怒らせ(攻撃性を高める)、マリファナでハイになっているときは、怒りは低下する(攻撃性は弱まる)ということです。

7月26日に起こった相模原市の殺人事件では、犯人が大麻を使用していたことが明らかになると、マスコミは犯人の精神異常と大麻使用を関連づけるような内容の報道もしています。
しかし、薬物依存の専門家を取材すると、「大麻の乱用者が暴力的な行動に出ることは稀」と、大麻と事件との関連性は否定しています。
大麻と精神異常と殺人事件を関連づけた報道は、記者が大麻の精神作用に無知なだけです。

【大麻は精神病を起こさない】
大麻には軽い精神的依存はあっても、身体的依存はなく、長期使用による健康被害もほとんど存在しないことが医学的に明らかにされています。
精神的依存とは薬物摂取の継続を渇望する状態で、身体的依存とは薬物摂取をやめると種々の身体的異常(いわゆる禁断症状)が出てくる状態です。
大麻を吸うと酔ったような気分になりますが、それで病気になったり、粗暴になって周りに迷惑をかけたり、精神異常になってしまうことは実際としてはありません。一時的に記憶力や知的活動が低下することはありますが、アルコールと同じで、覚めれば元に戻ります。
一部の大麻使用者に一時的な精神錯乱が見られることがあり、これを「大麻精神病」と呼んでいますが、これは正式の病名としては認められていません。多くは1日以内におさまる急性の精神障害です。
飲酒して酩酊しても「アルコール精神病」とは言いませんが、大麻を悪者にする立場の人には都合のよい病名になっています。大麻では酩酊して眠ってしまうことはあっても、アルコールのように暴力的になることはありません。
米国で大麻が禁止された当時(1930年代)は、連邦麻薬局やメディアは「大麻は人を精神異常にして凶暴にし、暴力犯罪を増やし、社会が脅威にさらされる」と主張しました。しかし、この主張は全く根拠のないものであることが多くの研究で証明されています。
過去には、大麻が精神障害の原因になるのではないかという懸念で多くの検討が行われていますが、いずれも、大麻の安全性を結論しています。
英国がインドを植民地支配していたころ、インドにおける大麻使用が精神異常を増やすのではないかという懸念が広がりました。そこで英国とインド政府の高官や医学専門家からなる委員会が設立され、インド国内の全ての精神病院を対象に調査が行われ、1894年にその調査の結果が公表されました。
このインド大麻委員会の結論は、「精神病のほとんどのケースで大麻が原因とは考えらない。大麻が原因と思われるわずかな症例でも病気は短期的で、薬物の使用を止めることによって回復可能であった」、「大麻の適量な使用はほとんど例外なく無害で、場合によっては有益でさえあり、乱用してもアルコール乱用の場合ほどには害にならない」というものでした。
ニューヨークではラガーディア市長が大麻の有害性について委員会を設立して調査を行い、その結果を1944年に報告しています。その結論は「大麻の長期使用は肉体的・精神的・道徳的な退行につながらず、継続的に使用した場合でも、何ら永続的な有害効果は認められない」というものでした。大麻の使用と犯罪との間には関連はなく、大麻が暴力行為を引き起こすことはないことを報告しています。
英国では、不法薬物の規制にあたる英国内務省が薬物依存諮問委員会を設立し、1968 年に検討結果を報告しています(ウットン報告)。このウットン報告では、インド大麻委員会やニューヨーク市長委員会が出した「大麻を長期に使用しても適度なら害はない」という結論を全員一致で賛成しています。
さらに、前ペンシルバニア州知事レイモンド・シェーファーが委員長を務めた全米大麻・薬物乱用委員会(別名 シェーファー委員会)が1972年に出した報告でも、「マリファナが原因の精神異常のケースはほとんどない」、「大麻が各種犯罪と誘発したり、ヘロインなどの危険な麻薬の乱用を増やすなどの説には根拠が無い」 と断定しています。
もし、大麻使用が精神障害の原因になるのであれば、大麻使用の広がりとともに精神障害が増えていなければなりません。米国では大麻使用は1960年代から大幅に増えていますが、精神病の患者が大幅に増加しているというデータはありません。
最近の研究では、不安障害や抑うつや外傷後ストレス障害などの精神疾患に大麻が有効であることが報告されています。大麻を適度に使用するのであれば、有用性はあっても有害性はほとんど無いというのが、科学的な結論だと言えます。

マスコミも一般の人も、大麻を悪者にして排除するような考えは、そろそろ終わりにする時期に来ていると思います。


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