碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

原作を超えた独自の世界観「義母と娘のブルース」

2018年09月25日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


綾瀬はるか主演「義母と娘のブルース」 
原作を超えた独自の世界観

7月に始まった夏ドラマが続々と千秋楽を迎えている。今シーズンの最大の特色は、いつも以上に「原作もの」が多かったことだ。

まず、いまや主流ともいえる漫画が原作の作品として「義母と娘のブルース」(TBS系)、「この世界の片隅に」(同)、「健康で文化的な最低限度の生活」(フジテレビ系)などがあった。

また原作小説を持つのが「サバイバル・ウェディング」(日本テレビ系)、「ハゲタカ」(テレビ朝日系)、「ラストチャンス 再生請負人」(テレビ東京系)などだ。

他には韓国ドラマを原作とする「グッド・ドクター」(フジ系)、同名の映画が原作だった「チア☆ダン」(TBS系)。さらにシリーズとして「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」(フジ系)や「遺留捜査」(テレ朝系)があった。

つまりゴールデン帯やプライム帯での純粋なオリジナルドラマは「高嶺(たかね)の花」(日テレ系)くらいしかなかったのだ。

ドラマの根幹は脚本にある。その脚本に書き込まれるのは人物像とストーリーだ。どんな人たちによる、どんな物語なのか。そこでドラマの命運が決まる。

原作がある場合、脚本家を含む制作陣はドラマで最も重要な人物像とストーリーをすでに手にしているのだ。あとは、どうアレンジしていくかについて悩めばいい。一方、オリジナルドラマは何もないところから人物も物語も生み出していく。それがいかに大変なことか。

日本では「原作あり」も「原作なし」も、ひとくくりに「脚本」と呼ばれている。

しかし、たとえばアメリカのアカデミー賞では、ベースとなる原作をもつ「脚色賞」と、オリジナル脚本の「脚本賞」はきちんと分けられている。脚本という形は同じでも、別の価値として評価されるのだ。

それらを踏まえ、今年の夏ドラマの中で突出していたのが、「義母と娘のブルース」だった。

1ページをきっちり8コマに分け、生真面目そうな絵柄の中に、くすっと笑えるネタを仕込んでいく桜沢鈴の原作漫画と、綾瀬はるかが主演したドラマは雰囲気も印象も、いい意味で別ものと言っていい。

脚本家、森下佳子が仕掛けた構成の妙と小気味いいせりふがあり、綾瀬が演じるヒロインの愛すべき、そして品のある変人ぶりがあった。しかも視聴者は笑いながら見ているうちに、夫婦とは、親子とは、そして家族とは何だろうと思いをめぐらせることができた。

そこにあるのは映画「万引き家族」をはじめとする是枝裕和監督の作品にも通じる“読後感”であり、原作を基調にしながら、それを超えたドラマ独自の世界観だった。

(毎日新聞「週刊テレビ評」 2018.09.22)