碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「倉本聰 ドラマへの遺言」連載開始!第1回

2018年01月10日 | 日刊ゲンダイ連載「倉本聰 ドラマへの遺言」


日刊ゲンダイでの新たな連載、「倉本聰 ドラマへの遺言」が始まりました。

「ドラマへの遺言」というタイトルは、私から倉本先生に提案したものです。

あえて「遺言」とすることで、逆に長生きして欲しいという願いを込めました。

紙面の題字は、先生の筆によるものです。いい味、出てますよね(笑)。

これからの平日、こつこつと毎日の掲載になります。

目標が全100回という長丁場ですが、どうぞよろしく、お願いいたします。



倉本聰 ドラマへの遺言 
第1回

「やすらぎの郷」蹴ったフジは
株主総会で吊し上げられた


昨年放送された「やすらぎの郷」(テレビ朝日系)は新設された「帯ドラマ劇場」の枠で、4月3日から9月29日まで全129回が放送された。同作は現在のテレビ業界や社会問題、世間に対する皮肉や批判を織り交ぜながら、生きること、年を重ねる面白さを喜劇として描き、初回視聴率で8・7%、期間平均でも5・8%と大健闘した(視聴率はすべてビデオリサーチ調べ=関東地区)。視聴者の心に響くドラマの企画は一体、どのように生まれたのか。その舞台裏に迫る。

碓井 まずは、お疲れさまでした。やはり面白かったです。登場人物たちが抱える過去への執着や現在への不満、くすぶる恋心、病気や死への恐怖など、形は違いますが、われわれ一般人と重なっている。だからこそ多くの視聴者が共感したのだと思います。現在の心境はいかがですか。

倉本 いまは完全にやすらぎロス。なにしろ、生活習慣が、朝起きてBS朝日で前日分を見て、昼起きて次の回を見るっていうことがなくなったもんですから、次に何を書くかとかっていう気にはならないんですね。

碓井 連ドラのような長いものが終わると毎回そうなるんですか。

倉本 週イチと毎日見るっていうのは違いますね。視聴者目線で見るので。毎日毎日子供が生まれているっていう面白さもありましたね。

碓井 振り返ってみて、大成功といっていいのではないでしょうか。

倉本 そうですね、大成功といっていいと思います。

碓井 僕が倉本先生から初めて「やすらぎの郷」の話を聞かせていただいたのは、2015年の秋。先生が書いた企画書の段階でしたが、「この場で読んで率直な意見を言え!」って(笑い)。当時はまだ「やすらぎの家」というタイトルでしたが、「ぜひこのドラマを見たいです」と答えました。

倉本 そうでしたか。そんな前でしたか。

碓井 その時も先生は、まずはフジに聞いてみたほうがいいかな、なんて苦笑いしていらした。

倉本 そうですね。フジに話をしましたね。

碓井 倉本先生が亀山千広社長(当時)に直接話をしたなんて報道もありましたが、実際はどうだったんですか。

倉本 いえいえ。僕が話をしたのは制作部長です。なにしろ、フジも中村敏夫(「北の国から」のプロデューサー)が死んじゃってからパイプが細くなったんですよね。(同ディレクターだった)杉田成道や山田良明は外の会社にいるから直接のパイプがなかなかなくなってしまった。それで、「風のガーデン」(08年)のプロデューサーだった浅野澄美を通して局長に上げてもらったんだけれどダメだって話でね。

碓井 ということは、亀山社長から直接NOの返事が来たわけではなかったんですね。

倉本 そうです、そういうことですね。だから社長のところまで「やすらぎの郷」の話がいったかどうかは分からない。ただ、フジに断られたっていう事実はある。株主総会では日枝さん(現相談役)吊し上げを食らっちゃったっていうね。

碓井 昨年6月末に開かれた株主総会ですね。長年、フジの株を所有する個人株主から“なぜやらなかったのか”と質問されたようですね。

倉本 でもまあ、話をする前からフジはダメだろうなっていう感じはありましたよね。(つづく)

(聞き手・碓井広義)


▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。

▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。







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「紅白」視聴率は低いのか

2018年01月10日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、昨年大みそかの「NHK紅白歌合戦」について書きました。


「紅白」視聴率は低いのか
 あらためて考えるテレビの力

昨年の大みそか、「第68回NHK紅白歌合戦」が放送された。平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は前半の第1部が35・8%、後半の第2部は39・4%。特に第2部は「視聴率歴代ワースト3」だったことから、悪い意味で話題となった。

しかし視聴率だけで評価するのは一面的過ぎるのではないか。ネット社会の進展に伴い、視聴者側におけるテレビの優先順位は下がり続けてきた。また番組を放送時に見るのではなく、録画などで好きな時間に見る「タイムシフト視聴」も日常化している。

かつてヒットドラマといえば視聴率が20%以上のものを指していた。いまや15%で十分ヒット作と呼ばれ、10%で及第点といわれる時代だ。またバラエティー番組でも、年間平均で15%を超えるのは「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ―STV)や「ザ!鉄腕!DASH!!」(同)など数少ない。

そんな中で、約4割もの人が同じ番組をリアルタイムで見たことに驚くべきなのだ。いまだに「紅白」がそれだけの求心力を持っているのかと、逆に感心したと言っていい。

全体の出来としては、明らかに前年のほうが上だった。出場者と曲目の選定、歌う順番、ステージ美術、映像設計、司会進行、さらに楽曲とリンクしたミニ・ドキュメンタリーなども含め、視聴者の「求めているもの=見たいもの」と、制作側が「創りたいもの=見せたいもの」のバランスが絶妙だったのだ。

今回、内村光良の臨機応変な司会ぶりは確かに見事だった。しかし、誰もがNHKの「LIFE!~人生に捧げるコント~」を見ているわけではない。同番組を前提とした演出が目立つことが気になった。また後出しジャンケンのような形で出場を発表した安室奈美恵と桑田佳祐だが、制作側が思うほど視聴者にとって「ありがたい存在」だったかどうか。

美術セットとしては、ステージ上に巨大なパネルが設置され、歌い手ごとに様々な映像を背後に映し出した。使い勝手はいいだろうが、安上がり感は否めない。加えて凡庸で退屈なカメラワークが多いことも残念だった。

とはいえ約40%もの視聴率を獲得したのは事実だ。「紅白」という一つの番組だけでなく、テレビというメディアの現在とこれからを探るケーススタディ(事例研究)の対象にすべきだろう。同じ内容を、多くの人に、同時に届けることができる“テレビの力”を再認識すると共に、その力を何に使うのか、どう生かすのか。今年、送り手側はあらためて考えてみて欲しい。

(北海道新聞 2018年01月09日)