碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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定番から意欲作まで並ぶ、今期ドラマは豊作

2017年11月13日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、今期のドラマ2本を取り上げました。


定番から意欲作まで並ぶ
今期ドラマは豊作

3ヶ月ごとに新しくなる連続ドラマだが、安心の「定番」から刺激的な「意欲作」までが見られる今期は豊作と言っていい。売れ筋の定番としては「相棒」、「科捜研の女」、そして「ドクターX~外科医・大門未知子~」(いずれもテレビ朝日―HTB)がある。中でも米倉涼子主演「ドクターX」の充実度が目を引く。それは制作側がヒットシリーズという立場に安住していない証拠だ。

このドラマでは、基本的な世界観は変えずに、細部を時代や社会とリンクさせながら変えてきている。たとえば初回、舞台となる東帝大学病院に初の女性院長(大地真央)を誕生させた。彼女のモットーは「患者ファースト」。医療に清廉性を求めることから、ニックネームは「マダム・クリーン」だ。結局、不倫問題でクビを切られたが、新シリーズ開始のインパクトとしては十分だった。

また、この女性院長をわずか1週だけで舞台から下ろした。ドラマ全体の贅沢感とスピード感を大事にした結果だろう。その一方でブレない大門はもちろん、神原(岸部一徳)や麻酔科医の城之内(内田有紀)、蛭間(西田敏行)とその取り巻き(遠藤憲一)などの“変わらなさ”にホッとする。流行と不易の絶妙なバランスがここにある。 

そして注目の意欲作が、クドカンこと宮藤官九郎脚本の「監獄のお姫さま」(TBS―HBC)だ。すっかり人気脚本家となったクドカンだが、変わらない“やんちゃ”ぶりが微笑ましい。クドカンドラマの特色は、キャラクターが物語を生むことだ。登場人物たちはこれまでどう生きて、何をしてきたのか。それが見事にストーリーに繋がっていく。

6年前、女子刑務所で4人の受刑者(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀)と1人の刑務官(満島ひかり)が出会った。出所した彼女たちは、EDO(えど)ミルク社長の板橋(伊勢谷友介)を拉致する。彼の婚約者をめぐる殺人事件で逮捕された、先代社長の娘(夏帆)の冤罪を晴らすのが目的だ。

別世界のようでいて、どこか世間と地続きでもある女子刑務所。クドカンはこの密室空間を活用しながら物語にマニアックな笑いをちりばめ、個性派女優たちが快演や怪演でそれに応えている。加えて、このドラマでは刑務所時代の「過去」と2017年12月という設定の「現在」が錯綜する。一見分かりづらいかもしれないが、時間軸を操ることはドラマならではの醍醐味。クドカンに翻弄されるのもまた、このドラマならではの楽しみだ。

(北海道新聞 2017年11月07日)