碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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民放連賞に見る「放送の地域貢献」

2015年10月06日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、民放連賞に見る「放送の地域貢献」について書きました。


放送の地域貢献 
「ふるさとのために」追求

先日、日本民間放送連盟賞が発表された。この賞の中の特別表彰部門「放送と公共性」の審査員を務めている。個々の番組ではなく、公共性という意味で際立った放送活動を顕彰するものだ。今年の受賞事績を紹介しながら、放送の地域貢献について考えてみたい。

最優秀は、福井テレビジョン放送『アーカイブスを地域に活かす~「人道の港」番組制作と教育活用~』。「命のビザ」の杉原千畝に命を救われたユダヤ難民たちが、初めて日本の土を踏んだのが敦賀だ。9年前から、彼ら「杉原サバイバー」や当時の市民の証言などを軸に、複数の番組が作られてきた。

同時に、番組という資産を教育の場で活かそうという取り組みも行われている。敦賀市教育委員会と連携し、ドキュメンタリー素材を取り込んだ教育用DVDを共同開発。小・中学校で使用されている。“社会の公共財”としての放送を活用する有効な試みだ。

優秀には4つが選ばれた。まず、福島中央テレビ『ゴジてれChu!Ⅲ部 きぼう~ふくしまのめばえ~の放送による福島での子育て応援キャンペーン』だ。原発事故によって、福島における“子育て環境”は大きくマイナス変化した。特に、地元で出産することへの不安が消えていない。

事故の翌年、夕方のニュース情報番組でスタートしたのが、県内で生まれた赤ちゃんとその家族を紹介するコーナー「きぼう」だ。すでに800人以上の赤ちゃんが登場している。SNSを通じて、全国各地で暮らす県民が慶事を知ることができる仕掛けも嬉しい。

次に、テレビせとうち(岡山・香川)『おばあちゃんの台所プロジェクト』である。地元の素材を生かした、おばあちゃんの手料理。それは美味しいだけでなく、健康食であり長寿食でもある。食材を通じて地域の産物を知り、料理や技を通じて地域の食文化を継承できる。

さらに、新聞や雑誌との連動、番組レシピ本の出版、イベントの開催、ショップの開設など、多彩な広がりをもつプロジェクトへと発展させたことも評価された。

他の優秀は、テレビ新潟放送網『夢を追いかけた少女の26年間の記録「夢は牛のお医者さん」 テレビ番組と自主映画上映活動』。そして、三重テレビ放送『ハンセン病に対する差別解消にむけた報道』だ。

全体として、「ローカル局は、ふるさとのために何が出来るか」という積極的な取り組みと、放送の可能性を広げようとするチャレンジ精神が強く印象に残った。

(北海道新聞 2015.10.05)