昨日の「前衛」に続き今日は「経済」なのですが、このページから、
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ここにみられるように、最初の節が「公共交通とコロナの影響」、続いて「環境問題と交通」「交通手段とエレルギー消費」「鉄道の環境優位性」「鉄道の位置づけの転換」「公共交通の社会的価値」と論じて、
おわりに
冒頭に示したように、コロナの影響で減少した利用者がコロナ前に回復するかどうかは不透明である。JR本州三社や大都市圏の大手私鉄・東京メトロでも、利用者2割減で営業収益はようやく黒字を計上するかどうかである。もともと「三密」でなければ成立しないビジネスモデルなのだから、鉄道事業者は利用者が減少した状態での「三密」を達成するように対応せざるをえない。
すなわち輸送密度の低い路線の廃止、列車の編成両数や運行本数の削減、人員削減によるサービス低下、さらに運賃値上げなどである。それはいっそう利用者離れを招く要因となり、短期的な対策にはなるかもしれないが長期的な持続性はいっそう失われる。
コロナ前からも、JR北海道は2016年11月に「当社単独では維持することが困難な線区について」を公表し、
対象は合計1200㎞に及ぶ*14。またJR西日本は2022年4月に「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」として線区別の輸送密度を公開した*15。その中で「これらの線区はCO2排出の面でも、現状のご利用実態では必ずしも鉄道の優位性を発揮できない現状にあります」としており、本稿でも述べた問題に言及している。
こうした背景から、全国の鉄道事業者の中の路線別の状況について、中嶋茂夫の試算*16を利用して網羅的に検討した。図6のグレー線はコロナ前から営業損益がマイナス、あるいは今後恒常的に利用者が2割減少した場合にマイナスとなる路線である。 実際の個別路線の存廃は各々の事業者や沿線自治体の判断によるので断定はできないが、かりにそれらが廃止されたとすると、大都市圏と新幹線の黒線部分のみが残る。なお新幹線でも営業損益がマイナスとなる路線があるが、いわゆる「国策」として新幹線は維持されるものと想定した。
かつて日本の津々浦々まで張りめぐらされた鉄道ネットワークは失われ、地域の衰退はいっそう加速されるであろう。1986年に国会で国鉄の分割民営が決定した際、当時の自民党は新聞に「国鉄があなたの鉄道になります」と題する意見広告を掲載した。その中で「会社間をまたがっても乗りかえもなく、不便になりません。運賃も高くなりません」「ブルートレインなど長距離列車もなくなりません」「ローカル線(特定地方交通線以外)もなくなりません」と宣言した。しかしそれらは次々と反故にされ現在に至っている。
公共交通に関するさまざまな問題はコロナによって新たに生起したのではなく、すでに内在していた問題が時期を早めて出現したものである。国鉄の分割民営に象徴される、日本の公共交通政策の基本的な方向性から検証されるべきであろう。
図6
なお、*で示されている注を記しておきます。
(14) 北海道旅客鉄道「当社単独では維持することが困難な線区について」 2016年11月18日 (https://www.jrhokkai-do.co.jp/pdf/161215-4.pdf)
北海道旅客鉄道「平成26年度線区別の収支状況について」2016年2月10日 (http://web.archive.org/web/20160210105033/http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/160210-1.pdf)。
(15) 西日本旅客鉄道「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」 2022年4月11日 (https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf)
(16) 中嶋茂夫「国内全200社500路線の経営収支ランキング」「徹底解析‼︎最新鉄道ビジネス」洋泉社MOOK、 2012年、20㌻
(17)「朝日新聞」1986年5月22日付朝刊掲載分。
ワイコマさんはじめ鉄道ファンの各位が雑誌「経済」10月号を見ていただければ嬉しいと思います。