*『原子力ムラの陰謀』著者:今西憲之
「第5章 プルトニウム輸送船「あかつき丸」の日米密約」を数回に分け紹介します。7回目の紹介
原子力ムラの暗部を刻銘に記録に遺し、その男は逝った-
1995年12月8日、「夢の原子炉」と言われた
高速増殖炉「もんじゅ」でナトリウム漏れ事故が発生。
事故をめぐる”隠蔽”が次々と発覚する中、
一人の「国策会社」幹部が突如、命を落とした。
死の謎を解く鍵は、遺された膨大な資料のみ。
そこには原子力ムラが行ってきた”裏工作”の歴史が、
あまりにも生々しく記録されていた。
(P3「まえがき」から)
「『もんじゅ事故』で謎の死を遂げた西村成生さんが残した内部資料があるらしい」
2012年冬、はじめにその話を聞いた時は、ここまで深くその資料と付き合うことになるとは想像もしていなかった。
「西村ファイル」と名づけた資料の山を読み進めるうち、取材班は何度も我が目を疑った。国の特殊法人であるはずの動力炉・核燃料開発事業団(動燃=当時)が地域住民や職員の思想・行動を徹底的に調べ上げ、「洗脳」「工作」といった言葉が頻繁に飛び交う。そして、あまりに不自然な西村氏の死-。「原子力ムラ」の異常な体質が、次々と浮かび上がってきたのである。
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**『原子力ムラの陰謀』著書 「第5章 プルトニウム輸送船「あかつき丸」の日米密約」 の紹介
前回の話:プルトニウム輸送船「あかつき丸」の日米密約 ※6回目の紹介
帰港先報道にも地元ぐるみで「知らないふり」
「あかつき丸」の帰港先は東京湾か、東海村か-さまざまな憶測が飛び交う中、11月27日に読売新聞が帰港先が「東海港」だとスクープ報道すると、動燃は慌ただしい対応を迫られる。
この時、動燃が地元の関係各所に説明に回った際の、何とも滑稽なやりとりの記録が、<読売新聞記事 地元対応>と題された11月30日付けの手書き資料に残っていた。
地元の東海村企画課長は、こう反応した。
<ルート等詳細については何も聞いていない事で通す。政府決定とあるが、すぐ村に連絡がないことは遺憾であり、国、PNC(動燃の略称、以下同)へクレームをつけたことにする>
表向きは「情報を知らされていなかった」と動燃と国に文句を言ったことにするという「ヤラセ」でごまかそうとしているのだ。普通なら、文句の1つもありそうだが、文面を読む限り、まったく怒っているそぶりはない。
おまけに、村議に対する”情報統制”まで注文していた。
<有力村会議員に引き続き内密にと午後説明にまわって欲しい>
一方、地元漁協の反応には、怒りがにじんでいた。
<国(科技庁)がけしからん。我々(地元)は秘密を守っているのに中央からリークさせるとは>(県漁連幹部)
冷静か怒っているのかの違いはあるが、地元漁連も村と同じく、帰港先を知りながら「口止め」されていたらしい。
他の自治体や関係組織の反応も、同じようなものだった。
<県としては「PNCから何も聞いていない」ことで統一する>(県庁幹部)
<PNCからは聞いていないスタンスで通す>(原研)
<問い合わせがあっても知らないで通す>(海上保安庁)
<記事の「出所」についてわかったら知らせてくれ。警備の都合があるとのこと。現時点ではプレスの問い合わせなし。勝警としてはPNCから何も聞いていないというスタンス>(茨城県警勝田警察署警備課)
東海港の持ち主である日本原電などは、この期に及んで”メンツ”を維持することに必死だったようだ。
<我々は関知していないとの姿勢を通す(理由は原電は嘘をつきたくないことから)・PNCへの注文 仮に東海港を世間に認める場合等には、事前に一報をして欲しい。それは原電だけ恥をかきたくないから>(日本原電幹部)
日本原電は港の使用契約をめぐり、事前に動燃と綿密に打ち合わせていたことが記録に残っている。さらに東海港へつながる道路も日本原電の管轄であり、<プルトニウム輸送に伴う協力並びに施設使用に関する契約書>という文書まで交わしている。それらの記録は最重要の「極秘」扱いで、「関知していない」ことなどあり得ない。
いずれにせよ、ここに出でてくる地元自治体や電力会社などは皆、帰港先を事前に知っていながら動燃から「口止め」されていたため、必死で「知らないふり」を演じていたのだ。
つまり、動燃は「情報管理」の名の下で「ウソ」の口裏合わせをしていたことになる。政官財が一体となった原子力ムラの結束の強さを改めて痛感すると同時に、周囲にまで「ウソ」を強いるこの情報管理体制は、あまりにも危ういと言わざるを得ない。
もし、住民に避難を呼びかけねばならないような緊急事態が発生した場合に、自治体などは急に「実は私たちも知っていました」と言い出せるのか。結局はさらなる「ウソ」や「つじつま合わせ」が重ねられ、不要の混乱を招くのではないだろうか。
実際、報道への反応を記した先ほどの資料の中で、茨城県庁の担当者は何かから解放されたようにホッとした様子でこのように発言しているのである。
<オープンになったことでむしろやりやすい面もでてきた。国(科技庁)も再考してほしい>
もしもプルトニウムを扱う関係者が「ウソ」を強要されることが避けられないというのであるならば、それはあまりにも異常な事態だ。そもそも、そのような物質を扱うこと事態を「再考」すべきではないだろうか。
※続き「プルトニウム輸送船「あかつき丸」の日米密約 」は、9/17(水) 19:00 紹介予定です。
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