原発問題

原発事故によるさまざまな問題、ニュース

『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※58回目の紹介

2016-09-28 22:02:00 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。58回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

 あとがき

(前回からの続き)

 しかし、今回の原発災害において、どんな対処がなされていたのでしょうか。

「福島復興再生総局のように、組織や○○会議とかたくさん作っているが、逆効果だ。やりますイコール組織を新設する、人を配置する、それで対応済みと霞が関は思っているが、それでは決済に余計時間がかかることになる。こういう災害対応は、少数精鋭でコンパクトにやった方がよい」

 ある原発被災自治体の職員の意見です。

 たしかに会議が多かったです。復興庁や経済産業省のホームページを見るとわかりやすいです。同じような名前の会議や協議会、委員会がずらりと並んでいます。会議資料も大量です。しかし、資料の中身は実は重複しているものが多いのです。出席者も重複しています。同じ人達が、会議の名前を変えて、何度も議論しているのです。

 中には、東京と同じ会議を福島で開くこともありました。「被災地の意見を取り入れるため」という趣旨からですが、形式的な会議の場に被災自治体の首長が名を連ねても喫緊の要望が認められ、その場で決済が下りるわけではありません。意見を取り入れるのなら、被災自治体に裁量権付きの財政支援をするべきです。交付金の要件の縛りを極力なくせばよいのです。

 そうした会議に時間と人員を費やしても、現場は何も動きません。通常よりも決済を早める仕組み、たとえば、財務省を含めて省庁横断のタスクフォースのようなもの一つに権限を集約するような仕組みを検討するべきです。

 既存のスキームでやろうとしても無理なのです。原発災害だけが特殊なわけではありません。たとえば、大規模な火山の爆発が起きればまた、予想しない事態が起こり、既存のスキームにはあてはまらないことが多々出てくるのは明らかです。(略)
 

 ※『リンゴが腐るまで』著書の紹介は、今回で終わります。

次回からは、『告発!検索「裏ガネ作り」』著書の紹介を始めます。

2016/10/3(月)22:00に、1回目の紹介を投稿予定です。 

**著書の内容を一部紹介

私がこの手記を書き始めたのは、大阪拘置所の独居房の中だった。最初に入られたのは「五舎4回20号室」という自殺防止用の特別な房である。そこで私は「632番」という称呼番号で呼ばれていた。天井には裸の蛍光灯が2本とモニターがついていた。すぐ前の廊下には監視台があって、常に見張られている。だが、私は自殺するつもありなど毛頭なかった。これから検察権力との闘いが始まるのだ。そのための準備を房の中で粛々と進めていた。私はなぜ逮捕されたのか、この事件の真相は何なのかを自分なりに整理しておく必要があった。-獄中手記よりー

~憤怒の独居房325日間!これが検察の組織的な公金横領の手口だ!~

 

告発! 検察「裏ガネ作り」


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※57回目の紹介

2016-09-27 22:02:38 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。57回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

 あとがき

(前回からの続き)

 自分の人生を否定されたような気持になったのではないでしょうか。そのやり場のない思いは、姿を変えて東電と国に向かい、理屈ではない言動となって表れることがあるのかもしれません。

 きっと、いろんな人がいるのです。皮算用をしている人もいるのかもしれません。しかし、被災者が東電と国に抱いている憎しみと、背後から襲ってくる放射線から命からがら逃げてきた時の恐怖心は、経験者でなければ真の意味で理解することはできません。この2つが被災者の根源にあり、あらゆるすべてのことにおいて、理屈だけでは解決できない、心の闇となっているということを、覚えておくべきだと思います。

 毎月10万円の精神的賠償による「賠償金漬け」の問題もそうです。いろいろな報道がありましたが複眼的な考察が足りないと思います。被災者の状況は多様です。考えてみれば、強い憎しみを抱き、絶対に許さないと決めている相手から「せめてもの罪滅ぼしに」と差し出されたお金を、人は有効に使うものでしょうか。「相手の目の前で札束を破り捨ててやりたい。それができないのなら、せめて相手が望むものに使ってやろう」。そんな風に思ったりしないでしょうか。(中略)

 今回の原発災害でいえば、当初は放射線が主な要因だったなずの問題が、時間と共に別の問題と絡まり、複雑化しました。放射線の問題を取り除いただけでは解決できなくなってしまいまいました。複雑な連立方程式になる前に、迅速に対処するスキームが災害対応には必要です。

 

 ※「あとがき」は次回に続く

2016/9/28(水)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※56回目の紹介

2016-09-26 22:01:01 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。56回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

 あとがき

(前回からの続き)

 米を作らなくても賠償金がもらえます。むしろ、米を作ったら賠償金がもらえず、収入は賠償金より少なくなる見込みのため、米を作らなかった場合より損をすることになります。それだったら、作らない方がいい。当然の理屈だと思っていました。

「米を作らないでもお金がもらえる。こんな都合のいい話はない」。そう思いました。

 米所の新潟県で5年間取材してきた経験から、農業者が必ずしもやりたくて農業をやっているわけではないと思っていたからです。だいたいの農業者が兼業農家でゴールデンウィークはどこにも出かけられず、一家総出で田植え。早起きして田んぼ作業をこなしてから会社や役場に出勤し、秋の収穫の時期も連休をつぶして働きます。先祖から受け継がれた田んぼだから、自分の代でつぶすわけにはいきません。でも、何かやめるきっかけがあれば。そんな節があるように感じていました。

「原発事故は、そのきっかけとして最たるものだ」。そんな風に思っていました。でも、違う理由もあるのです。

「作っても孫が食べないから」。全く思ってもみない答えでした。

 孫の笑顔が見たい。孫の成長を何よりも楽しみにしている。多くの人にとって、それは疑いのない真実だと思います。自分の作った米を食べて孫が笑顔を見せ、成長していく喜びは、きっとかけがえのないものでしょう。「田んぼ仕事は少々骨が折れるけど、頑張って孫が大きくなるまで自分が作った米を食べさせるんだ」。そんな思いで米を作り続けている人もきっといるでしょう。私はそうした人の存在に気づいていませんでした。

 原発事故で、そのささやかな生きがいがついえました。
 

 ※「あとがき」は次回に続く

2016/9/27(火)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※55回目の紹介

2016-09-22 22:15:27 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。55回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

 あとがき

(前回からの続き)

 どこまで本当に近いところまで話してくれたのだろうか。取材して、常にそう思いました。もちろん、通常の取材でもそれはあります。しかし、今回の取材は、通常の取材とは比較にならないぐらい、その問題が深かったです。だから、取材を終えた今なお、わからないことの方が多いです。

 ただ、自分なりに思うところもあります。

 本書では、賠償金にまつわる問題を取り上げました。それは、賠償金が被災者間の不公平を生み出し、地域の分断につながり、復興の大きな足かせになっているからですが、東京で暮らす人々の関心事でもあるように思われました。

 今回の原発事故では、とりわけお金の問題がよくクローズアップされました。東電の被災者への賠償金、中間貯蔵施設建設にあたっての交付金、環境大臣による金目発言など、お金に関する話題への世の関心は高かったように感じました。

「結局、お金の問題なんでしょ」。そう思っている人も多いでしょう。霞が関の官僚の中にも、そんな風に考えている人が多いように思いました。

でも、「お金であり、お金でない」。それが私の思うところです。

 お金が被災者の生活再建にとって最も重要な問題であることは本書で指摘しました。お金がなければ復興はできません。移住もできません。放射線リスクを減らすこともできません。お金の問題抜きに、この原発事故の被災地について語ることはできません。

 しかし、お金だけではない側面もあります。

 南相馬市で営農再開の問題を取材した時のことです。

 ※「あとがき」は次回に続く

2016/9/26(月)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※54回目の紹介

2016-09-21 22:19:29 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。54回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

 あとがき

(前回からの続き)

 もしあの時、自分が記事を書いていれば、今回の原発事故が防げたとは思っていません。しかし、各紙の報道が積み重なることによって、もっと多岐にわたる設備が拡充され、事故対応に当たった人々の被曝線量をほんのわずかでも下げることはできたかもしれません。あの時、記事を書かなかったことを後悔するとともに今回の原発事故で影響を受けた人達に対して申し訳なく思っています。

 偶然なのか、必然なのか、その福島県に赴任することになりました。福島第一原発の事故収束、汚染水問題、除染、中間貯蔵施設、避難指示の解除、復興公営住宅の建設、放射線の問題、甲状腺癌、営農再開、賠償金の問題と、様々なことと向き合いました。

 しかし、取材は想像以上に難しかったです。約2年間の福島県での取材を通じて、私自身、こうだと確信を持てる真実にたどり着くことはできませんでした。

 被災者はメルトダウンの事実を知らされず、放射線の中をさ迷いました。自分たちにとって、一番大事な情報が伝えられませんでした。原発事故後に出された情報も、訂正に次ぐ訂正で、正しい情報はいったい何なのか、知る術がありませんでした。

 情報は信じられない。『取材した人達の胸のうちに、それがあるように感じました。

「自分が何を言ったって、どうせウソ伝えるんでしょ」。そんな風に思われているように感じたこともありました。

 ※「あとがき」は次回に続く

2016/9/22(木)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※53回目の紹介

2016-09-20 22:31:32 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。53回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

 あとがき

(前回からの続き)

 「日本中が大パニックになる。いったい、これからどうなってしまうのだろうか?」

 しかし、ビルの外を見下ろせば、人々が普通に歩いています。何時間か後には、東京にも放射性物質が飛んでくるというのに。「のんきに外を歩いている場合じゃないですよ。急いで会社なり家に戻って対策を初めて下さい!」。

 心の中でそう叫びました。

 しかし、知らないのです。みんな、そのとき福島で起きていることの意味も、原発がメルトダウンしたらどうなるのかも、知らないのです。私は原発取材を通じて、ある程度の原発の知識を持っていました。中部電力浜岡原発がメルトダウンした場合、約6時間後に放射性物質が東京に到達するシミュレーションも知っていました。思えば、そうしたことを私は記事に書いてきませんでした。日々の記事執筆に追われる中で、そうした記事を書く機会がありませんでした。

 東京電力福島第一原発事故は防げなかったのか。事故検証で引き合いによく出されるのが2007年7月の新潟県中越沖地震です。中越沖地震は東京電力柏崎刈羽原発の近くが震源となり、震源が原発に与える影響について再考する契機となりました。それまでの安全基準では足りず、見直すべき点が少なからずあるという警鐘を鳴らしました。

 中越沖地震が発生した当時、私は新潟支局で新潟県政を担当していました。柏崎羽原発の担当でもありました。でも、地震の取材で手一杯で、原発についての記事を1行も書きませんでした。

 ※「あとがき」は次回に続く

2016/9/21(水)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※52回目の紹介

2016-09-15 22:19:23 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。52回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

 あとがき

(前回からの続き)

 東京オリンピックに向けて進められる道路や地下鉄の拡充工事、ビルの改築工事。夜遅くまでにぎわう飲食店街。原発事故後、続いていた「節電」のスローガンもいつのまにかなくなり、ショッピングセンターのエスカレーターやトイレの温水洗浄便座など、街のあらゆるところで電気がふんだんに使われています。クリスマスのイルミネーションも、きれいに灯されています。

 かつてその電気の源の大半を作り、送り出していた地、東京から新幹線でわずか1時間半の地が、5年がたとうとする今もまさかこんなことになっているなんて、きっと東京で暮らす多くの人が知らないのでしょう。

 知らないこと自体に罪はありません。しかし、私には負い目がありました。

「そうか、電源車が向かっているんだな。なら大丈夫だな」

 2011年3月夜、私は東京本社で東日本大震災発生の対応に追われていました。津波による被害の情報が次々と入り、刻一刻と被害の大きさが明らかになっていく最中、東京電力本店で取材している記者から福島第一原発が全電源喪失との知らせが入りました。

「とんでもないことが起こった」

 聞いた瞬間、声を失いました。しかし、しばらく後、電源は数時間のうちに確保される見通しとの情報が入り、連絡を受けたデスク共々、ほっと胸をなでおろしました。まさかその時向かっている電源車が接続不能なケーブルしか積んでいないことなどつゆも知らず、これからこんな大参事が起こることになろうとは、まったく想像していませんでした。

 福島第一原発1号機の爆発後の映像を、私はテレビで見ました。頭の中が真っ白になりました。

 ※「あとがき」は次回に続く

2016/9/20(火)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※51回目の紹介

2016-09-14 22:38:21 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。51回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

第3章 復興が進まないワケ

 リンゴが腐るまで

(前回からの続き)

 コーヒーカップの事例はないが、水が入ったグラスが落ちた事例があれば、その事例の過去の対処法を採択することになる。それでガラスの破片は処理されるが、水の対処法では床のシミは解消されない。地元から「シミをどうにかしてくれ」と再三にわたって要望が上がってきて初めて、シミの対処について検討される。

 だが、時間がたったコーヒーのシミを取り除くのは難しい。専門業者に依頼して高額な料金がかかることになる。その料金の負担をめぐって検討が始まる。国が払うのか、地元負担もあるのか。費用対効果はあるのか、財務省から突き返され、再び”ご説明”申し上げて認められて、ようやく業者に発注される。

 今回の原発災害を取材していて、このようなことが多く見られた。帰還をめぐる問題も、当初は放射線の影響が最大の問題だったが、避難生活が長期化するについて、家庭環境が変化し、嫁姑問題に発展し、複雑化した。営農再開をめぐっても、放射線の問題に農業の高齢化が絡み合い、事態を複雑化させている。

 連立方程式になる前に、迅速に対処するスキームが災害対応には必要だ。

 リンゴが腐るまで待っていたら、この国は滅びてしまう。

あとがき

 約2年間の福島県での取材を終え、久しぶりに戻った東京は、まるで外国のように感じられました。福島では東日本大震災があったあの日からほとんど時計の針が進んでいないというのに、東京ではすでに過去のことのようでした。福島にいたとき、毎日耳にした「放射線」という言葉など聞くことはありません。転勤の挨拶周りで前任地が福島だったことを告げても、関心を持って訪ねる人はごくわずかでした。

 ※「あとがき」は次回に続く

2016/9/15(木)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※50回目の紹介

2016-09-13 22:29:40 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。50回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

第3章 復興が進まないワケ

 リンゴが腐るまで

(前回からの続き)

 自宅への帰還を待ちわびながら、仮設住宅の畳の上で息を引き取る人。中間貯蔵施設の建設をめぐる一連の動き。原発事故後の福島県での取材で私の目に映った復興の過程は、リンゴが腐るまで待っている政治・行政の姿だった。

 災害対応は時間がたつと、連立方程式になる。

 たとえば、コーヒーカップがテーブルから落ちて割れたとする。発見者がすぐにガラスの破片を拾って床を拭けば、大した問題は起こらない。だが、放置すればどうなるか。ガラスの破片を踏んでけがをする人が出てくる。床にコーヒーが染み付いてとれなくなる。二次被害が起こり、修復費用が余計にかかることになる。

 これを災害対応にたとえれば、国はまず、誰がガラスの破片のそりをするべきか検討する。そこでは、省庁間の押し付け合いが発生する。ようやく所管省庁が決まったら、処理の方法を検討する。検討はまず前例がないか探し、似たような事例があれば、その事例の対処法に則る。

 ※「第3章 復興が進まないワケ「リンゴが腐るまで」」は次回に続く

2016/9/14(水)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※49回目の紹介

2016-09-12 22:24:50 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。49回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

第3章 復興が進まないワケ

 リンゴが腐るまで

「最後の最後まで、もうこれしか選択がないですねという段階になるまで物事が決まらない。日本の政治って、なんでもそうよね」

 福島に発つ前、会社の先輩記者がこんなことを言っていた。当時、原発事故から2年が経過していたが、東京で見聞きしている範囲では、原発事故の収束作業も復興も進んでいるようには思えなかった。

 なぜ、動きが遅いのか?原因について、先輩記者はそう指摘した。

「たぶん、あなたがこれから福島に行って東京に戻ってくるまでの間も、状況はあんまり変わらないんじゃない?」

放っておくと、こんな酷いことになる。早い段階で気づいてそう声を上げる人がいても、その声は聞こえなかったふりをされる。物事がどんどん悪化していき、声を上げる人が多くなり、最終的にもうこれ以上悪化させたらさすがにどうしようもない事態になる。そうなるまで、政治と行政の腰は上がらない。

 先輩記者は、こんな話も付け加えた。

 夫は福島県の出身で、毎年冬になると義父から福島県サンのリンゴが送られてくるという。原発事故後も変わらず送られてきて、今年も段ボールひとはこのリンゴが自宅に届いたそうだ。ダンボールには「このリンゴは放射性物質検査を受けており安全です」という福島県知事のメッセージが添えられていたが、当時子供がまだ小さく食べるのはためらわれた。だからといって、捨てるのもためらわれる。送られてきたリンゴは結局、段ボールに入れられたまま放置され、3月の終わりに近づき、ようやく1つ2つ、腐り始めたリンゴを処分した。

「結局、私も日本人だから、腐るのを待つのよね」

 ※「第3章 復興が進まないワケ「リンゴが腐るまで」」は次回に続く

2016/9/13(火)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで ~病める自治体~> ※48回目の紹介

2016-09-07 22:00:00 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。48回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

第3章 復興が進まないワケ

 官庁不在

(前回からの続き)

 実際、原発被災自治体の首長の霞が関詣で、永田町への陳情回数は半端でなく多い。霞が関から福島県内に出向している官僚も、「福島県はいったい何をやっているのか。本来、県がもっと役割をはたして、広域的な取り組みをもっと進めるべきだ。一つの町で提示された課題を、町と県が連携して対応スキームを作り、それを他町に水平的に適用すればよい。でも、それができないから、県は永遠の中間管理職と言われるのだ」と指摘する。

 福島県が広域的な取り組みを積極的に進めない理由は、原発事故後、「余計な仕事を持ち込んでくるな」空気が県庁内にあることも災いしていると、複数の県職員が指摘する。一つには、原発被災自治体と同様、県庁でも県庁でも原発事故後、業務が増え、マンパワーが足りないという事情がある。

だが、それだけでなく、原発事故直後の国とのやり取りなどをめぐって、福島県は原発被災自治体やマスコミから多くの批判を受け、県幹部は及び腰になったという。職員から持ち上がった企画について、「どうしても県が幹部がやらなければならない案件なのか。県でなければできないことなのかという基準でスクリーニングされるようになり、職員のモチベーションも下がった」という。庁内全体に停滞ムードが漂っている。

 ※次回は「第3章 復興が進まないワケ「リンゴが腐るまで」」

2016/9/12(月)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで ~病める自治体~> ※47回目の紹介

2016-09-06 22:33:06 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。47回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

第3章 復興が進まないワケ

 官庁不在

(前回からの続き)

 だが、復興が進まない原因は自治体側にもある。自治体には法律に精通している職員が少なく、政策立案能力には限界がある。

 たとえば、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の議論だ。原発被災自治体の担当者は毎回、東京で開かれる審査会の傍聴に訪れていた。だが、議論の内容を理解できていない担当者が少なからずいた。ある町の担当者は、「議論は聞いても難しくてさっぱりわからない。翌日の新聞を読んで、ああ、こんなことを話していたのかと知ることが多い」と言う。配布資料に書かれている内容も理解できておらず、役場に持ち帰って、霞が関から役場に趣向しているキャリア官僚に渡して「通訳してもらう」という。ちなみに、そのキャリア官僚は役場で「スーパースター」と呼ばれていた。

 国からはね返された”ご説明”資料を、再度練り直して作り直す知恵がないのだ。人的余裕、時間的余裕の問題だけでなく、職員の政策立案能力の問題もないとはいえない。

 だが、人口1万人程度の自治体の職員1人1人が、国と渡り合って交渉することができるほどの政策立案能力を持ち合わせることは容易ではない。

 そこで指摘されるのが、広域自治体としての県の存在だ。自治体からは福島県への不満も根強い。不満を通り越し、「県は何もしてくれないから、自分たちでどうにかしなければ」という行動に出ている。

 ※「第3章 復興が進まないワケ「官庁不在」」は次回に続く

2016/9/7(水)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで ~病める自治体~> ※46回目の紹介

2016-09-05 22:08:18 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。46回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

第3章 復興が進まないワケ

 官庁不在

(前回からの続き)

 別の原発被災自治体の担当者は、「以前は霞が関の本庁と1本でやり取りしていたが、福島復興再生総局ができてから1か所余計に”ご説明”が必要になった。まずは本庁、そして福島復興再生総局に差し戻されて決済となる。決済に時間がかかり『今でしょ』的なことが何もできない。双方から重箱の隅をつつくような質問をされ、自治体では事業が採択されることがミッションになってしまった。横の連携もできていない。

 たとえば、水一つにしても、上水道は厚生労働省、下水道は国土交通省、工業用水は経済産業省、農業省水は農林水産省と、それぞれ所管官庁が異なる。自治体がおのおの所管官庁に”ご説明”しなければならない。被災者にしてみればセットで復旧しなければ意味をなさないのに、それぞれ復旧時期が異なり、省庁間で調整しようという雰囲気も全くない」と言う。

 ある町の担当者は、こう主張する。

「今回の原発災害は、既存の災害対応のスキームでは穴を埋められない。時間との闘いなのだから、本来は既存のスキームを使って柔軟な運用をするべきだが、霞が関は柔軟性がない。福島復興再生総局のように、組織や○○会議とかたくさん作っているが、逆効果だ。やりますイコール組織を新設する、人は配置する、それで対応済みと霞が関は思っているが、それでは決済に余計時間がかかることになる。こういう災害対応は、少数精悦でコンパクトにやった方がよい」

 ※「第3章 復興が進まないワケ「官庁不在」」は次回に続く

2016/9/6(火)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで ~病める自治体~> ※45回目の紹介

2016-09-01 22:19:27 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。45回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

第3章 復興が進まないワケ

 官庁不在

(前回からの続き)

 本来は省庁間の横の連携をしてくれるはずなのに、それも全くやらない。

 たとえば、ため池除染を町として早くやりたいので、福島再生加速化交付金を使ってやりたいと農水省に相談した。すると『環境省が決めないとできない』と、あっさり言われた」と言う。

 別の自治体の担当者は「交付金採択に当たって、国が求める資料が膨大すぎる。事業の適正さ、費用算出の書類を細かく提出させられ、事務量がかなり重い。ネズミ駆除事業でも、費用対効果を細かく問われたが、そんなのものどうやって証明しろというのか。自治体としては市民から要望が上がっている以上、対策を打たなければならない。被災地にいれば、ネズミの被害なんて一目瞭然なのに、(東京とは)温度差があり、なかなか状況をくんでくれない。福島復興再生総局は結局、霞が関に説明しなければならない立場上、細かい説明を求める。こちらとしては必要だから要求しているのに。だから要綱に記載があるもの以外は消極的だ。

 時間をかけて申請しても、採択されなかったものもある。審査は、2012年から2013年にかけて厳しくなった。平時ならよいが、復興業務で膨大な事務量を抱えている中で細かい説明まで要求されるのは困る。柔軟な対応を取ってほしかった。ネズミの駆除など、一つの自治体だけでなく、広域的対応が必要なものは本来、復興庁がスキームを作るべきだ」と指摘する。

 ※「第3章 復興が進まないワケ「官庁不在」」は次回に続く

2016/9/5(月)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで ~病める自治体~> ※44回目の紹介

2016-08-31 22:26:41 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。44回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

----------------

**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

第3章 復興が進まないワケ

 官庁不在

(前回からの続き)

 こうした前例のない事業に迅速に対応するため、2013年度補正予算で福島再生加速交付金で設けられた。2013年2月には復興庁の出先機関、福島復興再生総局が福島市に設置された。それまであった復興庁、環境省などの出先機関を統合し、縦割りによる弊害をなくすことを目的としていた。

 ところが、復興業務を加速させるためにできたはずのこの福島復興再生総局が、自治体にとって大きな関門となる。ある町の担当者は「福島再生加速化交付金には要綱にいろんなメニューがあるが、メニューにない『その他』について申請する場合は、説明を要求された。2013年5月までは霞が関の本庁とやり取りしていたが、再生総局に担当が変わってから、調整に時間がかかってあきらめた事業もある。権限は福島にあるはずなのに、本庁から問い合わせがあったり、プロセスが短くなるはずなのに、逆に関門が増えて時間をとったりしている。どうやら、復興予算が適正に使用されていないという批判があったので、審査が厳しくなったようだ。復興庁は査定官庁みたいになっている。

 ※「第3章 復興が進まないワケ「官庁不在」」は次回に続く

2016/9/1(木)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)