【毎日新聞特集・現場から記者リポート:日本語教室「さくら教室」/湖南】
◇「会話」「文字」着実に向上/日本文化、学校ルールも学習
市は送迎にも支援を
日本語の理解が不十分な外国籍の子どもたちが公立学校にスムーズに溶け込めるよう、湖南市教委が立ち上げた日本語教室「さくら教室」。市内には、ブラジル人をはじめ南米系の住民が数多く住むが、保護者が母国語しか話せないケースが多く、必然的に子どもの日本語力も低くなりがちだ。さくら教室はそれを改善しようという取り組みで、開設から1年半が過ぎた。どのような授業が行われ、効果はどうなのか。【金志尚】
県国際課によると、同市では昨年12月末現在、外国人登録者数が3340人、ブラジル人が最多の2076人を占める。公立小中学校に在籍するブラジル人の子どもの数も多く、市教委によると、155人いる外国籍のうち112人がブラジル人だ。
「センセーイ」。教室内に幼い声が響く。同市梅影町にあるさくら教室には現在、小1~中3の5人が通う。2月から学ぶ中3の日系ブラジル人、岡田ユカリさん(14)以外は4月に入ったばかり。ブラジル人4人とペルー人1人。まだ語彙(い)に乏しい彼らが最も頻繁に使う日本語の一つが「センセイ」だ。
同教室の子どもたちは市内の小中学校に在籍しながら、原則として最初の1学期間、ここで日本語を学ぶ。目標は平仮名・片仮名、小学1年レベルの漢字80字を覚えることや、簡単な会話を習得すること。藤原政子室長(62)ら講師3人のうち1人はポルトガル語の通訳だ。
授業は1日4時間。「読む」「書く」「言葉」「算数」の4コマを水曜以外の毎日、繰り返す。「読む」では、小1の国語の教科書から始める。藤原室長は「日常生活の中で少しずつ日本語が出てくるようになるのが、1カ月を過ぎたころ。2カ月を過ぎるとグッと伸びてくる」と話す。授業では極力、日本語で説明するようにしている。
また、水曜は3時間目まで通常の授業を行い、4時間目は地域のボランティアの協力のもと、こま遊びや習字など日本の文化に親しむ時間に充てている。
学校生活に必要なのは言葉だけではない。給食や清掃など学校のルールを身につけることも重要だ。そのため、同教室の子どもたちは3時間目が終わると、徒歩で約10分の場所にある市立水戸小に移動する。他の児童たちとは別室だが、給食を食べるのだ。その後は教室の掃除もし、部分的ながら、学校生活の流れを肌で感じてもらう。
こうしたきめ細かいプログラムで、子どもたちが学校生活に慣れる時間はさくら教室開設前と比べ格段に早くなったという。
外国籍児童の多い小学校で07年度から2年間、日本語指導を担った女性教諭(42)は「以前は、生活に必要な言葉を一から教える必要があった。でも、さくら教室から来た子どもは言葉や文字をある程度知っており、授業が『分かる』という自信も少しある。効果は大きい」と話す。さくら教室で算数も習い、計算力が身についているため、算数の授業も理解しやすいという。
一方、課題は通学手段。市教委はさくら教室への送迎を保護者に任せているため、通えないケースもあったという。市教委学校教育課の中邨(なかむら)哲也課長は「不登校の子どものための適応指導教室など、市はほかにも特別目的の教室を開いているが、送迎はすべて保護者の責任。さくら教室だけ特別扱いにはできない」と説明する。
しかし、保護者が朝から仕事で不在など、どうしても送迎できない場合もあろう。学ぶ機会はすべての子どもたちに平等であるべきで、特に「異国の地」で暮らさねばならない子どもたちの立場を思うと、支援の内容を送迎にも広げてほしいと願う。
【関連ニュース番号:0904/105、4月14日;0903/226、3月30日;0902/170、2月19日など】
(5月19日付け毎日新聞・電子版)
http://mainichi.jp/area/shiga/news/20090519ddlk25010437000c.html