ドナウ川の白い雲

ヨーロッパの旅の思い出、国内旅行で感じたこと、読んだ本の感想、日々の所感や意見など。

海の風山の風 … 2021読売俳壇・歌壇から(3/3)

2021年12月27日 | 随想…俳句と短歌

         (マスクの子ら)

辻邦生『時刻(トキ)のなかの肖像』の中の「季節の中に生きること」から

 「1980年にパリ大学で日本文化論をフランス人学生に講義したとき、改めて年中行事を一つ一つ月を追って説明したが、その優雅な生活の色どりに学生たち以上に、私自身が心を打たれた。新年の若水汲み、お雑煮から始まって、節分、鄙祭、端午の節句、七夕、お月見、そして大晦日の年越そばに到るまで、私たちの祖先は真に生きることを深く楽しむことを知っていた。それは西洋では味わうことのできない生の至福の数々なのだ。歳時記に現れた俳句の季語は世界文学の中でも大きな財産といえるものだ」。

   ★   ★   ★

< 子どもらを詠んだ7句 >

〇 子どもらのマスクの柄も春らしく (熊谷市/間中昭さん) 

   去年の春と違って、親にも心に落ち着きがあります。

            ★

〇 幼な児もみな正座して雛の客 (常総市/渡辺守さん) 

 どこかのお家の雛壇の前。幼な児までもきちんと正座して、可愛いですね。

 調べました。五節句とは、正月7日が「七草の節句」。3月3日は「桃の節句(雛祭)」。5月5日は「菖蒲の節句(端午の節句)」。7月7日は「笹の節句(七夕)」。9月9日は「菊の節句(重陽の節句)」です。

       ★

〇 お母さん受験するのは僕ですよ (栃木県/あらゐひとしさん) 

    春は受験のシーズン。中学の受験でしょうか?? まだ人生の重大事とは思っていない男の子と、一生懸命のお母さんの組合せが可笑しい。 少し余裕をもって見ているのは、お爺ちゃんの作??

  (信貴山/朝護孫子寺)

       ★

〇 ふはふはと嬰の欠伸や風薫る (神奈川県/中村昌男さん)

   「風薫る」は夏の季語。新緑いっぱいののどかな季節感が「ふはふはと」というh音の表現になって、赤ちゃんの欠伸が可愛い。

       ★

〇 けんけんの丸や三角蝉しぐれ ( 神奈川県/新井たか志さん )

 矢島渚男先生の評) 「地面に〇や△を描いて、そこを片足や両足で踏んで跳ぶ遊び。これも幼い日の回想作だろうか」。

 遠い昔に誰かに聞いた話です。

 ある夏のこと。樹々に囲まれた小さな広場で、すっかり日焼けした子どもたちが今日も元気に遊び惚けていました。あたりは蝉しぐれがうるさいほどです。

 そこへひょっこりと見知らぬ小柄な少年が現れました。他の少年たちよりももっと日焼けしていて真っ黒焦げです。「遊ぼ」。「いいよ。入って」。子どもたちは、空が夕焼けに染まるまで、夢中になって遊びました。

 翌朝、いつものように子どもたちが三々五々広場に集まってくると、昨日の小柄な少年はもう待っていました。「遊ぼ」「一緒に遊ぼ」。

 その日も、また次の日も、そしてその次の日も、真っ黒に日焼けした子どもたちは、日が傾くまで夢中になって遊びました。

 1週間もした頃のある朝、その少年は姿を現しませんでした。「あの子、どうしたの??」「誰か知っている??」。その少年のことを知っている子は誰もいませんでした。

 その翌日も、少年は来ませんでした。でも、子どもたちは1日元気に遊びました。

 小さな広場を囲む樹々の一本の木の下の地面に、命を終えた蝉の亡骸が落ちていました、とさ。

           ★

〇 はじめての柘榴とわが子にらめっこ ( 和歌山市/早川均 )

 矢島渚男先生の評) 「ザクロの実は大人でも見ていて飽きない。いろんな形に割れてくると、さらに情趣がある。名句もたくさんあるが、この『にらみっこ』だって面白い。自然観察者の卵かな」。

 わが家のご近所の庭にザクロの木があります。塀の上に高くのぞいて、緑の葉をつけます。秋になると、拳ほどの橙色と茶色のまじった実がなり、熟して裂けると淡紅色も現れて、あたりの緑に映えてやさしいパステル画のような色合いになります。わが家のザクロではありませんが、そのやわらかい色彩感を毎年愛でています。

       ★

〇 鉄棒にマフラーを掛け砂遊び ( 宇都宮市/津布久勇 )

 鉄棒の下の砂場で、子どもたちが砂で家や人形を作って遊んでいます。「けんけん」もそうですが、今はこんな素朴な遊びをする子たちはあまり見かけなくなりました。昭和の風景です。       

   ★   ★   ★

<この国のかたち1首>

〇 米艦と少し間をおく自衛艦横須賀軍港重き静もり ( 横須賀市/木村将さん )

 小池光先生の評) 「結句がいい。日米の軍艦がひっそりと停泊している。一切の動きがないが、どこかしら息詰まるようである。米艦と自衛艦の少しの間も、状況を反映して味わい深い」。

   ★   ★   ★

<風物4句>

〇 片足を武蔵の国に雲の峰 ( 越谷市/小林ゆきおさん )

 宇多喜代子先生の評)「スケールが大きい。両足で踏ん張っている雲が見える」。

 「雲の峰」は積乱雲のことで、夏の季語です。

       ★

〇 風鈴や感動はわたしが決める ( 八戸市/夏野あゆねさん )

  (龍田大社/風鈴祭)

 正木ゆう子先生の評)「何に感動するかは私が自分で決める、という意味だろうが、俳句ではここまで省略が可能。強い内容の割に拍子抜けた季語がかえって良い味を出している」。

 正木先生の評の最後の一文で納得しました。さすが正木先生です。

 句の作者は若い女性でしようか?? カッコいいですね。

       ★ 

〇 海の風山の風くる茅の輪かな (神戸市/吉野勝子さん)

 季語は「茅の輪(チノワ)」で晩夏。陰暦の6月の晦日(ミソカ)の頃は、体力も衰え、疫病も流行しやすく、災厄が多い時期。そこで、神社の鳥居などの結界内に設えられた茅の輪をくぐり、心身を浄め、災厄を祓い、無病息災を祈願します。

 昼は風の中に潮の香を感じ、夕方になると山の風を感じる。明るく心地よい神社なのでしょう。

       ★

〇 先のこと案山子寝かせて考える ( 小諸市/下遠野よし子さん ) 

 「案山子」は実りの秋の季語。

 「先のこと」とは何でしょう??  採り入れを終え、案山子を片付けようとして、ふと考えます。あと何年、田んぼを作れるだろう……とか??

 「案山子寝かせて」に、田舎の景色や生活が現れています。

   (黒田官兵衛の案山子)

   ★   ★   ★

 皆さん、今年もありがとうございました。

 お元気で良い年をお迎えください。ではまた、来年も

 

 

 

   

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夜明くれば… 2021 読売俳壇・歌壇から(2/3)

2021年12月22日 | 随想…俳句と短歌

     (熊野本宮大社・大斎原)

 随分長くご無沙汰してしまいました

 コロナ下でなかなか一献酌み交わす🥃ことができない友人Tさんと、メールでディスカッションしていました。コロナのこと、2020オリンピックのこと、アフガン撤退とアフガン人救出のこと、日本国の防衛のこと、ネットの中の魑魅魍魎のこと、経済のグローバル化と格差のことなどなど。

 しかし、1回、1回が長文になり、にもかかわらず2人で論じても世界が少しも良くなるわけでもなく、少々疲れて、もうお終いにしました。

 そこでブログを再開します。ぼつぼつと急がず進めていきますので、また、よろしくお願いします。

 読売俳壇・歌壇からの2回目です。

    ★   ★   ★

<旅の2句>  

 私のヨーロッパ旅行はエーゲ海のロードス島へ行ったのが最後です。コロナ禍となって、この2年間、遠い旅には行けていません。

 しかし、そうは言っても、未知の世界は身近な所にもあります。コロナの間隙を縫っては、大和の国や近江の国、紀伊の国や伊勢の国を、ひそやかに、かつ、のどやかに遍歴しました。日本の歴史発祥の地の再発見の旅です。

〇 何よりもうれし秋晴れ続く旅 ( 久留米市/佐田麗子 )

 日本の秋は、さわやかで美しい。

 「いい日旅立ち羊雲をさがしに」。

  (「潮騒」の舞台の神島港)

 高校時代から行ってみたかった三島由紀夫の「潮騒」の舞台の神島。

 近鉄特急で鳥羽へ。そこから小さなフェリーに乗って神島へ。半径200m四方を歩いて、同じ船で引き返しました。小さな日帰りの旅でした。 

       ★

〇 後ろからついて行きたし神の旅 ( 東京都/白木静子さん )

 日本列島は山また山です。山と言っても、イベリア半島やバルカン半島のような灌木がまだらに生えているだけの無機質な山ではなく、豊かな緑におおわれています。

 幾筋も谷があり、谷からは霧が湧き出ています。水を集めて流れが始まり、つつましい集落が現れ、その一つ一つで遠い昔から神々が祀られ、伝承と祭りがありました。

 日本の川の流れは急流で、流れを集めてどんどん大きくなり、都市が現れると、すぐに海です。

 四季の変化があり、国土の7割が山という日本列島は、欧米やアラブ・中東のような一神教の国ではありません。八百万の神々の国です。

   (2013 出雲のスサノオを祀る須我神社の奥社へ)

      ★   ★   ★

< 2020オリンピックの歌4首 >

 往年の短距離界の名選手カール・ルイスの讀賣新聞への寄稿の終わり部分。

 「日本はよく大会を開催してくれた。多くの人が今大会の開催に反対したが、アスリートのために、最終的にはやり遂げようと決意してくれた」。「無観客でも、選手たちは大会を開催してくれたことに感謝し、いいパフォーマンスを見せようと全力を尽くした」。「今大会のヒーローは日本の皆さんだ」「本当に心から、感謝の気持ちを伝えたい」。

 閉会式の翌日、帰国のために羽田空港にやって来た各国の選手らを取材した朝日新聞の記事です。朝日新聞は社説でオリンピック開催反対を主張しました。

 コロンビアのジャーナリスト「この五輪は日本だからこそ可能だった。日本の人々の努力に世界が気づいただろう」。

 デンマークの選手「ボランティアの人たちがフレンドリーで素晴らしかった」。滞在中は宿舎と競技場の往復だけだったが、「このような状況では厳しい規則は必要だった。パンデミックが終わったら、必ず日本に来たい」。

 いろいろありましたが、開催できて本当に良かったです

       ★

〇 悔いはない言い切る選手のはるかなる道程思ふ東京五輪 ( 大阪市/大和田芳美さん )

 小池光先生の評) 「試合後のインタビューの一言一言が重くて、こころに残る。ここにくるまでどんな苦労があったことだろう」。

 全競技を通じて一番切なかったのは男子400mリレー。バトンを繋げなかった選手たちの心の苦しさを思いました。多分、映像を見ていた国民の皆が。

 しかし、4人は支え合って事実を受けとめ、耐え抜いたようです。次があるかどうかはわかりませんが、過去のことは過去のこととし、日本を代表するアスリートとして、前を向いて生きていってほしいです

       ★

〇 我の知らぬ面白き競技あまた有りオリンピックの楽しさを知る ( 国分寺市/森田進さん )

 あまり期待していなかった女子バスケットの銀メダルは、一戦、一戦が緊迫した戦いの連続で、手に汗して見入りました。

 テレビ画面に、時折、女子選手を率いる長身の米国人のおじさんが映りました。ホーバス監督。見ていて味があり、面白かった。

 バスケは接触プレーが多く、ファールによるフリースローが付きものですが、ホーバスさんの指導の一つはガードを固め、しかも「絶対にファールをするな」。

 その結果、日本にとって強敵ばかりの試合で、ファールによるフリースローの得点差分、日本が勝ち抜いていきました。なるほど!! すごい監督です

 ホーバスさんは、今度、男子の日本代表監督に就任したようです。 

       ★

〇 スケボーはやんちゃな遊びと思ひしが謙虚なる覇者堀米雄斗 ( あきる野市/小林隆子さん )

 新聞に、堀米雄斗はフィギュアスケートの羽生結弦みたいだと書いてありました。スラリとして、いかにもアスリートと呼ぶにふさわしい若者。まだ22歳です。

 「やんちゃな遊びだ」と思ってテレビを見なかったのですが、男子の金メダルを知って、女子の試合を見ました。すると、なんと13歳の日本人少女が金メダルです。

 各国の代表選手のほとんどが10代で、そのアクロバットな演技にビックリ仰天でした。

 それ以上に新鮮だったのは、彼女たち各国の代表選手たちがまるで一つのチームのように互いをリスペクトし合いながら、競技を進めていたことです。レジェントの演技にも、誰もやったことのない技に挑戦して失敗した選手にも、みなでリスペクトの拍手を送り、称えたり、慰めたりする。私たちの時代のような、「明日は東京に出て行くからにゃ、何が何でも勝たねばならぬ」という悲壮な覚悟を感じさせません。しかも、合言葉は「挑戦」。そんな感じがしました。

 今までのスポーツの世界とは違う、新しい世界が開けていることを感じました。爺さんとしては、孫の世代に拍手です

   ★   ★   ★

<いのちの歌6首と俳句1句>

 コロナ禍で閉じこもりがちになり、人との触れ合いもなくなる中、「いのち」や「生きること」について思いをいたしました。

〇 朝焼けに出会えてしばし合掌すこの安らぎは老いて知りたり (枚方市/鍵山奈美江さん)

 日本人にとって、人は自然の一部です。年齢とともに、そのことをしみじみと感じます。

       ★

〇 何祈るでもなく思わず合掌す一月も最後の今宵満月 (山口県/末広正巳さん)

 上と歌と同じテーマの歌です。2句、4句が字余り。冬の寒空に大きな満月がかかりました。 

       ★

〇 デイの湯や屈まり我が足洗ふ女(ヒト)輪廻転生あらば仕へむ ( 宮崎市/長友育代さん )

 保育や福祉の仕事をする人たちが自分の仕事にプライドを持てるよう、報酬を上げてほしいと願います。

       ★

〇 今日もまた母の空から消えていく浮き雲として母と語らう ( ふじみ野市/古田つむぎさん )

 栗木京子先生の素晴らしい評) 「高齢のためわが子の記憶も曖昧になった母なのだろう。それでも母と語れば心が和む。浮き雲に見立てたことで温もりが出た」。

 和歌としても優れた作品だと感服しました。

       ★

〇 すらすらと出て来ぬ言葉秋の雲 ( 大津市/竹村哲男 )

 突然ですが、これは俳句。

 宇多喜代子先生の評 「ご年配の方であれば説明なしにわかるはず。喉元まで出ているのだけれど、アレ、ほらアレよが多くなる。はるかな『秋の雲』になんとなく救われる」。

 私も、喉元まで出て一生懸命思い出そうとし、何とか思い出せた時期がありました。しかし、今は喉元までも出て来なくなりました。

       ★

〇 夜明くれば八十九歳の誕生日読み継ぐ本に栞はさみぬ (横浜市/梅本敏子さん) 

 小池光先生の評です。「89歳の高齢になって、なお栞をはさみながら本を読む。立派だ。敬意を表したい。夜明くればという導入もよろしい」。

 本当に、「夜明くれば」という何気ない言葉が生きています。

 私もこのようでありたいと心から思います。

 今、コロナ下でも、週に一度くらいは、日本古代史や西洋中世史の講義を聴きに大阪に出かけるか、自宅でオンライン講座を聴きます。

 また、興趣がわけば近くの名所旧跡を訪ねますが、自分にとって新鮮な発見があって楽しく、時には温泉に浸かります。

 そして、こうしてブログを書き、夜は日本酒を少々いただきます。

   (志摩・安乗埼灯台)

 何よりも旅は、小さな旅でも、私にとって若々しさの秘訣です。「岬の外れに 少年は魚釣り 青い芒(ススキ)の小径を 帰るのか」

 

 

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