いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

小谷野敦さんに関する思いつきメモ II

2011年01月16日 13時31分03秒 | その他
―今朝の夢  2007.7.12
イカをひろげて干している、―


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読みましたよ、小谷野敦さんの『母子寮前』。えぇ、読みましたとも。小谷野さんがの正嫡であることが知れる。




―当初は、カセットデッキを持ってきて音楽を流し、私の神経を気遣っていたような父も、遂に怒り出して、「キチガイ病院へ行け」と行った。― 『母子寮前』9章


 ―父は、私が院生の頃、目の病気で二、三ケ月D大学病院に入院したことがあった。私は一度しか見舞いに行かなかった。その時、大部屋で、看護婦などがいて、隣のベットの患者について、看護婦らが「XXさんはよく働くわねえ」などと話していたら、嫉妬した父が、「俺だって一所懸命働いてるよ!」と言ったという。母から聞いて、その幼児性に呆れたものだ。 ―『母子寮前』19章

―因みに私は、一度大学を辞めてはいるが、著書四十冊以上、学問的といえるものもその半分以上はあると思う。私が、単著もない東大教授を批判してきたのも、それでも定職がないことへの恨みからである。― 小谷野敦、『文学研究という不幸』

以下、思い付き;

●敦の母、清子の風貌が書かれていない。美人なのか、そうではないのか?さらに身体的特徴も書かれていない。細身だとか、肉感的だとか。一方、敦の父、梅三は「顔も田村高廣風のハンサムで、」と書かれている。病院での看護士が美人だ、不美人だと書いているのに。

これは、叙述者である「私」が清子を恋愛対象、性的対象とすることを禁じられているからか?

●元凶は敦、「私」である。敦が清子の愛情を独占しようとして、そもそも幼稚性の強い父がいじけ、ひねくれ、弟が怯え、やってられないよと去って行った。もっとも、敦が母の愛情をほぼ独占できたのは、息子を東大(有名大学)に進ませたいという両親の欲望によく従ったからである。この事情は本文によく書かれている。

ガンで入院したのに見舞いにいかない。さらには「死んでしまえ」と暴言を吐く。なぜか?これは理不尽だ。これは、妻清子が不義をはたらいていたほどの悪女でなければ、受けないはずの報いである。いや、梅三は清子が息子の異常な精神的依存を許していることを不義と解していたのかもしれない。

●敦は傲慢で無神経である。弟は親族と広くつきあっていた。たぶん、「トーダイのあっちゃんは偉そうで、無愛想だ」と陰口をいわれていたのだろう。時計職人の父が目のことで入院したのは、仕事のせいだろう。一家の生計を数十年支えてきたのに、入院しても息子が二、三ケ月で一度しか見舞いに来なかった。かわいそうなお父さん。ますます、ぐれていったと推定できる。こういうことを忖度しないで、父をなじる敦は無神経。

●高度経済成長の産業廃棄物としての梅三。ヌエになった。「「昭和一ケタ」で、いわゆる戦後の高度経済成長を支えた世代に属するだろうが、この世代特有の、仕事以外に能のない人間に、父はいつしかなっていった。」と書かれている。この世代特有ということもあるが、さらには出身の集団から離脱し自分(梅三)の親とは違う生活形態を過ごし、さらには子供たちも自分(梅三)たちとは違う文化・教育を受け将来は自分(梅三)たちとは違う生活形態を過ごすに違いないという「流民」に特有の悲劇だろう。それが、東京周辺の「山も海も、歴史もない」関東ローム層台地の文明的ビンボーくささ。それは書かれている。でも、父・梅三の稼ぎ、女房・子ども二人を食わして、大学出して、家を建てるというのは今では大卒の半数は将来不可能である。その父の稼ぎに無神経なのが、『母子寮前』。もちろん、それが作品の意図かもしれない。

●この母子関係は、やっぱり、異常だ。この異常さがこの作品の第一の売りなんだろうけど。おいらは「マザコン」というのは日本のアッパーミドルクラスのことで、庶民には関係ないと勝手に思い込んでいた。小谷野さんの例をみて、ぎょっとした。30過ぎて赴任先にママについて来てもらうとか信じられない。

●変なの。父・梅三が妻の見舞いに行かないことを、父・梅三の妹の所に問題解決を振る敦。これは、筋ちがいじゃないのかなぁ。すんごい違和感。自分ちの問題。父と直接対決できないのが問題。もっとも、直接対決はただのけんか別れで終わる、というのは書かれいることからわかる。そもそも話にならない。でも、こういう没交渉関係になったのが悲劇。息子を東大(有名大学)に進ませたいという両親の欲望がそもそもの悲劇のはじまりか?

●「自分、自分、自分」地獄。

当時はさまざまな悩みを抱えていた。恋愛の悩みや、自分が将来名を成せるか、学者として成功できるか、そして自分の書いた文章が評価されるかといった悩みである。

よく書けている。自分のことしか考えてないって。レンズを目の周りにはめて極微の時計部品と数十年格闘してきた父親の行く末なぞ全く頭の隅にもなかったのだ。

●本当の元凶は聖母清子。清子は夫と長男の教育に失敗した。二人は似た者同士だ。この失敗は、聖母清子の無償の愛という甘やかしを原因としている。その無償の愛という甘やかしが二人のだらしないナルシズムを育てたのだ。

よく書けている、『母子寮前』。

●「反」精神分析。父の死を願い、母と暮らすことを夢想するお話。「汎」精神分析、ですよね。
エディプスコンプレックスとは別に、阿闍世(アジャセ)コンプレックスというのがあるらしい。清子と敦の間には恨みは見当たらない。なので、阿闍世コンプレックスなぞ関係ないのだろう。ただ、不安神経症故新幹線に乗れず、のろい列車で旅する敦に付添う母、清子を思うに、息子、阿闍世は、原因の解らない皮膚病に苦しみ、恨んでいた母イダイケから手厚く看病を受ける場面を連想した。もっとも、阿闍世と母イダイケはこの後お釈迦様に出合う。清子と敦の親子は、敦が、父の死を願い、母と暮らすことを夢想するお話を発表。

▲あー、気づいた。阿闍世コンプレックスでは最初に母の勝手な欲望があった。それが因で、阿闍世がおかしくなった、あるいは親子関係がおかしくなった。『母子寮前』でそれに相当するのは、息子を東大(有名大学)に進ませたいという両親の欲望だ。

それにしても、梅三、清子夫婦は敦の東大入学式に行ったのだろうか?毎年ニュースで入学者より観覧保護者数の方が多いと報道されるアレだ。

▲関係ないけど気づいた。金属バット両親撲殺事件の一柳展也は小谷野敦の2-3歳上で、早大付属高校の試験に落ち、慶応付属高校にも失敗した。合格したのは私立の海城高校だった。これは、浦和高校に落ちた?らしく、海城高校に進学した小谷野さんと似ている。ただし、一柳展也の父親は東大出。息子を東大(有名大学)に進ませたいという両親の欲望の影響下で育った点は同じ。果たして、敦は東大に行ったのだから、両親の欲望は成就。一柳展也の両親は撲殺される。でも、数十年後、敦の父はヌエ。

この線でググッたら、金属バット両親撲殺事件の背景には近親相姦があるという口さがないネット情報。⇒2005-09-26
[雑記]一柳展也金属バット事件
。ひょえー。小谷野さんは、

私は江藤淳の身辺随筆を読んでいると息苦しくなる。概して言うと、既に敗戦後長い年月がたっているのに、江藤は自分の周囲だけを「戦前」にしておこうとしているからである。しかも海城学園の理事だったのだから、あの野蛮な学校にいた私としては怨恨すら感じる。

と書いている。ちなみに、江藤淳は幼少の頃母を失う。それが彼の原点である。母親を希求する江藤。そんな江藤が海城学園の理事だったという。その海城学園の一柳と小谷野が...野蛮な...母親との.....。江藤の呪いなんだろうか?

これ以上この線は触れない。


●坂東太郎としての敦。「私」はわかっている。

私がいなければ、父はもっとしっかりしただろうか、弟は関西へ行ってしまわなかっただろうか、と考える。

当然、そうに違いない。いなければ、とはいわないが、さっさと独立して出ていけば、梅三夫婦はうまくいったかもしれない。何より、敦自身が不安神経症を患う神経病障害者にならなくて済んだであろう。なぜなら、さっさと独立して出て行くには精神的乳離れが必要だからである。あるいは、さっさと独立して出て行って世間に揉まれれば、自ずと精神的乳離れをせざるを得なかったであろうから。

結局、敦は梅三家の暴れん坊として父弟に恐れれられる存在となった。坂東太郎。「私」はわかっている。自分が坂東太郎だって。ちゃんと書いてある、そんな自分に邂逅する場面;

学者人生のとば口に立って、神経を病んだり、女にふられたりして辛い時に、どうしようもない気持を晴らすため、元荒川に沿って延々と歩いた行ったら、吉川町との境の古利根川にたどり着き、そのまま大きな橋を渡ったのだ。時には自転車で同じ径路をたどったこともある。私の実家の東側を元荒川が流れていて、それが東流して吉川に至り。古利根川に合流する。だから、そこでは川が三叉に分かれていて、こんな何もない田舎には珍しい壮大な光景が見られるのだ。

利根川はしばしば氾濫/叛乱し、周囲に激甚な災害をもたらす暴れ川で、坂東太郎の異名をもつ。後日、敦は新妻を自分が壮大であると思い込んでいるこの古利根川の三叉に連れていくのだが。「特にどうってことない」と言う。大丈夫か!?新妻。














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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2011-01-16 17:48:32
「閉所恐怖症」は「分離不安」が関係しているって説もありますね
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