1月13日発行の科学雑誌Cell 124巻1号にobituary(死亡記事)が出ていました。Cellは一流科学誌でそこに死亡記事が出るのは大変珍しい。亡くなった科学者はミュンヘン大学のW. Horz("o"はウムライト)。酵母のプロモーターのクロマチン構造研究の第一人者だ。彼が研究に使ったプロモーターはPHO5。抑制性酸性ホスファターゼの構造遺伝子だ。 僕が大学院生時代に抑制性アルカリ性ホスファターゼPHO8のプロモーターを研究していたから、当時彼は僕の競争相手だった。僕が博士課程の学生の時、O嶋教授に彼から手紙が来た。PHO8の遺伝子をくれというのだ、PHO5だけでなくPHO8も使って研究したいらしい。PHO8は発表済みの遺伝子であるので当然送らねばならないのだが、未熟だった僕はそれを渋った。すぐに送らなくても何ヶ月か待ってくれても助かる・・・(通常遺伝子や細胞を請求してもすぐには来ない。特にガードの堅い医学系の人たちには無視されることもしばしば起こる。昨年アメリカのあるベテラン研究者にSNF2遺伝子をくれとメールしたら、俺は見事に無視された)・・・しかし、教授は許さない。エゴのためにサイエンスの進歩を遅らせるわけには行かないと彼は言う。振り返ってみるとO嶋教授の研究室は全くガードがないというかオープンだった。酵母研究を始めた人たちの多くがめちゃめちゃオープンだったから基礎研究分野で酵母が広く使われるようになったんだろうと思う。立派だとは思うが、そのためO嶋研究室ではガチンコで競争して勝てないような院生は博士号をとれないのだ。
彼にPHO8遺伝子を送るときに教授に頼んで、僕がこの遺伝子のプロモーターを研究していてもうすぐ論文が出せそうなことを手紙に書き添えてもらった。それからプレッシャーを感じながら彼に負けぬようさらに頑張って、幸い僕は先に論文を出せて学位をとることが出来た。僕の論文が出た数ヶ月後、Horz博士の研究室からPHO8プロモーターの高次構造を解析した論文が出てきた。僕の論文を待っててくれたように・・・・。
検索すると彼の最新の論文のタイトルは、"The histone chaperone Asf1 increases the rate of histone eviction at the yeast PHO5 and PHO8 promoters."だった。最後までPHO5とPHO8を研究してくれていたようだ。彼にPHO8遺伝子を送ってよかったと今心から思う(送るのが当たり前なんだけど)。
博士の死を心から悼み、哀悼の意を表します。
本日のお酒:十四代 純米吟醸 おりからみ + 越前岬 純米吟醸 中取り生原酒 + 八海山 しぼりたて原酒
彼にPHO8遺伝子を送るときに教授に頼んで、僕がこの遺伝子のプロモーターを研究していてもうすぐ論文が出せそうなことを手紙に書き添えてもらった。それからプレッシャーを感じながら彼に負けぬようさらに頑張って、幸い僕は先に論文を出せて学位をとることが出来た。僕の論文が出た数ヶ月後、Horz博士の研究室からPHO8プロモーターの高次構造を解析した論文が出てきた。僕の論文を待っててくれたように・・・・。
検索すると彼の最新の論文のタイトルは、"The histone chaperone Asf1 increases the rate of histone eviction at the yeast PHO5 and PHO8 promoters."だった。最後までPHO5とPHO8を研究してくれていたようだ。彼にPHO8遺伝子を送ってよかったと今心から思う(送るのが当たり前なんだけど)。
博士の死を心から悼み、哀悼の意を表します。
本日のお酒:十四代 純米吟醸 おりからみ + 越前岬 純米吟醸 中取り生原酒 + 八海山 しぼりたて原酒