鶴岡地区医師会だより

三原一郎目線で鶴岡地区医師会の活動を配信しています。

庄内医師集談会で報告

2019-11-25 10:27:53 | 日記



2001年8月(43歳)、ALSの診断
2005年11月、体動が全くできない全介助状態となり、在宅訪問診療開始。同時に訪問看護、訪問リハも導入される。なお、意思疎通には、眼球運動とパソコンが利用されている。
2010年7月、筋力低下が進行、喀痰排出障害が出現し、荘内病院入院、人工呼吸器管理となる。
2018年秋頃、顔面の潮紅と膿疱を含む丘疹を繰り返して認めるようになり、皮膚科紹介となる。



本事例では、皮膚科依頼の数日前に、Net4Uの導入されていました。
本患者さんの比較的最近のNet4Uのメイン画面です。
Net4Uについては、酒田の先生方や病院の先生方はあまり知らないと思いますので、少し説明させて頂きます。
Net4Uは、来年で運用開始から20年目を迎える、日本で最も歴史の古い、地域電子カルテです。
2012年には、医療と介護繋ぐヘルスケアSNSとして全面改訂、おもに在宅医療の分野で活用されています。
医師の参加数は、40名程度、
鶴岡地区には、訪問看護ステーション8施設ありますが、うち6施設に導入されています。、
訪問看護が導入されている在宅患者の約60%でNet4Uが利用されています。
画面の説明ですが、左側の欄には患者の個人情報、病名、ID-Link(ちょうかいねっと)への入り口となるアイコン、このカルテ患者に関わる施設が表示されます。
画面中央部には、カレダ―表示、右側には、医師および各職種の記載、処方、検査値などが、時系列で表示されます。
記載した内容を読んだユーザとその所属施設がリスト表示されます。

この患者さんには、ほぼ毎日訪問看護、訪問リハが入っていますが、その都度記載があり、居ながらにして患者さんの状況が分かる。
また、必要に応じて、Net4Uを介して相談を受けたりしている。
在宅医療におけるチーム医療には欠かせないツールとなっています。


さて、Net4上での岡田先生とのやりとりを示しています。
岡田先生からは、紅斑性酒さと診断し、デュアック、ロコイド、ヒルドイドを使用するも一進一退、
また、感情変化が激化すると手に負えない状態になり、患者さんの希望するがままの処置を行ってしまう 
などの記載があり、治療方針を明らかにしたいという希望があります。
 
私からは、今後の治療方針として、デュアックが刺激になっている可能性があり、また、ステロイドで酒さ(様皮膚炎)が誘発された可能性もあり、
それらを休薬とし、ステロイドの離脱、タクロリムス軟膏への変更を目標とすることを伝える。

このような医師間のやりとりを他の職種が共有できていることは、治療の目標を多職種間で共有するためにもとても重要と考えます。


経過ですが、過酸化ベンゾイルなどの刺激性のあるにきび治療剤は中止とし、ステロイドの減量・離脱し、タクロリムス軟膏変更し、まだ紅斑は残るが、皮膚症状は徐々に改善し、かゆみや痛みなどの症状はほとんど訴えなくなった。
以上だと簡単に良くなったようにみえますが、納得して治療を進めるためには、メールでのやり取りが有用でした。
メールで原因がはっきりしない治りにくい病気であること、ステロイドは一時的に炎症を抑えるが、継続するとで病気がさらに治りにくくなること、そのためにステロイドを休薬し休薬し、タクロリムス軟膏へ変更すること。ステロイドの休薬で皮疹が悪化するが、我慢して治療を継続すれば必ず良くなっていくことを伝えました。。
その後、何度かメールでのやり取りで、 本人に納得してもらったうえで、治療を継続することができ、以前のように感情が爆発することはなくなりました。


酒さ~酒さ様皮膚炎
原因として、血管運動制御の異常、静脈還流障害などが示唆されてはいるが、不明。
ステロイド外用により誘発されることがあり、その場合はステロイド皮膚炎~口囲皮膚炎とも呼ばれる。
治療はざ瘡に準じるが難治であり、長期の治療が必要となる。
ステロイド使用例では、その中止によりリバウンドが生じ、皮疹がさらに悪化する場合が多い。したがって、治療に当たっては、十分な説明と同意が必要となる。


因みに、この患者さんは、指先のセンサーを利用してで詩を書く人だそうです。
先日、2回目となる「ALS声なき詩人 心の歌コンサート」が加茂のクラゲドリーム館で行われました。
詩に曲をつけて歌ってくれる人がいるんですね。
クラゲへの想い、庄内・鶴岡への思い、家族への思いなどがフォーク調のギター伴奏で歌われていました。
パソコンへの入力は指先のセンサーで行っているようです。


コンサートの時の状況も写真と共に、Net4Uに記載されています。
この日は、雨風が強く、搬送が大変だったようですが、無事にコンサートを終え、本人も大変満足した様子とのことでした。
なお、患者さんは、鶴岡市の観光大使に任命されたとのことです。




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松戸市在宅医療・介護支援センター視察

2019-11-18 11:33:18 | 日記
13、14日、「ほたる」と共に松戸市松戸在宅医療・介護連携支援センター(以後センターと略す)の視察に行ってきました。センターは、あおぞら診療所の川越先生の肝いりで設立され、松戸市の補助金で運営されている施設です。ほたると似た立ち位置の施設ですが、構成員を含め実施している事業は大きく異なります。

まずスタッフですが、

 医師 (管理責任者、在宅ケア委員会担当理事、川越先生)
 保健師(0.8 直接雇用)
 社会福祉士(1.0 医師会会員医院からの出向)
 相談員(作業療法士)(0.6 医師会会員医院からの出向)
 主任介護支援専門員(0.4 直接雇用)
 理学療法士(0.2 医師会会員医院からの出向)
 歯科衛生士(0.4 医師会会員医院からの出向)
 管理栄養士(0.2 医師会会員医院からの出向)
 事務職 (2.0 あおぞら診療所からの出向)

と、多職種による構成になっています。
また、その多くが医師会会員の医院から出向してもらっています。
(なお、0.2とは週1回勤務のこと)

活動に関しては、多職種、市民向けの研修会、相談窓口の設置、ICTシステムの運用などはほたると同様ですが、ほたるにはない、独自の活動を数多く行っています。

そのいくつかを紹介します。

・在宅ケア委員会
 医師会内に設置、毎月委員会を開催
・地域サポート医の配置
  各地域に困難事例などで相談に応じてくれる医師を配置、18名  
・相談に応じたアウトリーチ
  地域包括、ケアマネ、医療機関などからの困難事例に対して、センタースタッフが訪問し課題を解決する。その際、必要に応じて、地域サポート医へ相談。
  2018年:335例に対応、
   事例内容:医療への受診拒否や中断、認知症、不衛生、経済的困窮、金銭管理困難、生命の危機、アルコール依存
   アウトリーチで90%が医療に、86%が介護保険サービスに繋がった
  参考までに、鶴岡市では、このような困難事例の対応は、地域包括支援センターと鶴岡市長寿介護課(4名)で対応しているようです。
  
・二人主治医制普及活動
  二人主治医制により、早期の段階から生活の視点や疾病の軌道を熟知し、かかりつけ医が総合的な立場から診療できるようになり、  患者の心身機能の悪化防止・QOLの向上や円滑な退院支援の実現へつなげられる。
  二人主治医制が推奨される状態像
   85歳以上
   4つ以上の診療科に継続受診している
   訪問看護指示を病院医師が発行している
   認知症と診断されていて、指導を理解実行できない
   1年以内に死亡しても驚かない
   など
  実際の運用
   二人主治医制が望ましい患者がいる場合、病院からセンターへ依頼
   患者が病院受診時、患者への説明・説得のためにセンターからスタッフを派遣、
   かかりつけ医医療機関ハンドブックを活用し、かかりつけ医を紹介、
   さらに、かかりつけ医初診時に、病院での情報を伝えるためにかかりつけ医医療機関を訪問

・まちっこプロジェクト(Matsudo Child to Community Project)
 松戸市医師会が実施
 ボランティア医師が「認知症」、「命の大切さ・尊さ」を小中学校に出向いて「出前講座」を実施
2019年度は20回を予定

・地域の後方連携促進の会

・市長懇話会
 医師会と市長との懇話会

・学会への演題提案

・在宅スタートアップ支援
 新規開業医への在宅医療参加へのアプローチ 
 
・かかりつけ医医療機関ハンドブックの作製と改訂
 
 などでした。

ほたるとは、あくまで多職種を繋ぐ、後方支援の機能が主ですが、センターは、実際に現場(自宅など)へ出向いて(アウトリーチ)、課題を解決する機能をもっているということです。

ほたる、医師会、行政が一体化して組織が、より充実した地域医療には必要なのだと感じました。

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