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子どもの声は「騒音」からはずす

  • 文 保坂展人
  • 2014年10月14日
     

子どもの声は騒音か、それとも希望の響きか」と題したコラム(2014年9月22日)を、私は次のようにしめくくりました。

<「子どもの声は騒音か」という問いに対して、「子どもの声は騒音から除外しよう」という地域合意をつくらなければいけない時期に入っているものと感じます。子ども施設の努力と近隣住民の反対の声を、地域コミュニティの力で解決・受容するという道を探りながら、「子どもの声」をめぐる基本ルールをつくりたいと思います>

 その後、東京都は「騒音規制基準」の対象から「子どもの声」を除外する方向で環境確保条例を改正するための検討に入ったことが報道されています。(「子どもの声」騒音にあらず 環境確保条例改正へ 東京都 ・時事通信)私のところにも取材やインタビューの依頼が次々に寄せられています。

 2年前、シンポジウムで話題にし、ツイッターでつぶやいて反響を呼んだ投稿はこのように投げかけていました。

<「子どもが遊ぶ声がうるさい」との苦情を受けて「声を出さない」ようにマスク等で口を封じて遊ぶサイレントキッズの姿。その光景は怖いものがあるが、こうしたクレームへの過剰反応を見て、何の痛痒も感じない「大人」が増えていることがピンチだと思う>(2012年8月25日)

 「マスクをして遊ぶサイレントキッズ」を取材したいという問い合わせがありましたが、これはあくまでも比喩的表現です。苦情を受けて、「午後は園庭に出ていない」「園庭に出る時間を制限している」「声を出さないように注意している」等の制限を加えていることへの違和感を表したものでした。

  反響が大きく広がると、具体的な事例が次々と寄せられるようになりました。「『中学生が掛け声をかけてランニングするのがうるさい』との苦情で、無言で走るようになりました」「運動会への苦情により、近所の学校の体育館の中に会場を変えました」

 保育園、幼稚園、児童館、小中学校といった「子ども施設」周辺の問題としてはかなり前から、存在していました。

 そしていま、待機児童解消のために12カ所の認可保育園開設を準備している世田谷区でも、古くて新しいこの問題に向き合わなければならなくなっています。6月には、区の広報紙で住民にこう問いかけています。少し長くなりますが、引用します。

<社会全体が人口減少に悩み、少子化対策を競う中、世田谷区ではこの5年間、5歳未満の乳幼児が毎年1000人ずつ増えているのを御存知でしょうか。そのため、保育園への入園希望者も増加して、保育施設整備がなかなか追いつかない状況です。
 保育園を運営しようとする事業者からは、近隣の方から寄せられる「子どもの声がうるさい」との声に苦慮しているという話を聞いています。
 世田谷区は人口密集地です。全国でもまれな乳幼児が増えているまちでもあります。医療保険や年金制度の持続可能性を考えれば、次世代が元気に育つ基盤づくりは大人の責任だと思います。
 園舎の設計で近隣への配慮を示したり、園の運営で地域と共存できるようルールづくりをしている保育園もあります。幼稚園や小中学校も同様の悩みを抱えており、子どもたちが元気に声を出し、笑い、泣き、遊ぶこともままならない状況です。
 この問題に一つの結論を出したのがドイツ社会です。子どもの声を「環境騒音」と認定した裁判所により幼稚園に閉鎖命令が出たことを契機に、これを不服とする親たちの声が高まり、社会的な議論をへて「子ども施設の声を環境騒音から除外する」という法改正が2011年に連邦議会で成立しています。ドイツ社会は、「子どもの声は騒音とはしない」という選択をしたのです。
 地域の皆さんが保育園や幼稚園を支えていただいている例もたくさんあります。今後、世田谷区がどのような方向を目指すべきか。子どもが輝くまちをつくるために、智恵(ちえ)を絞りたいと思います>(『区のお知らせ』6月25日号

智恵を絞ると書いたのは、「子どもの声は騒音か」をめぐって、子ども施設と近隣住民が対立構造に陥ることはできるだけ避けたいと思うからです。長い年月、保育園を運営していくためには近隣との関係が良好であることが望ましいのは当然のことです。そのための努力や配慮を、どの保育園でも最優先で行なおうとしています。

 子どもの声を騒音とはしない――。一般論としては多くの方が賛同してくれています。けれども、近隣に保育園新設の情報が伝わると、波紋は広がるというのが実情です。これまでのところ、世田谷区では、近隣の理解を得るまで粘り強くていねいに説明する努力を続けていく、という方針で取り組んでいます。ただ、開設までの時間は限られていて、開園の延期だけは避けたいという事情もあります。

 保育園をはじめとする「子ども施設」の存在と近隣の合意形成を、運営する法人や担当職員と近隣の住民だけに限らずに、裾野の広い議論の中で進めていく必要がありそうです。中立的な第三者の立場から合意形成にむけてコーディネートするという役割も必要かもしれません。ドイツのように条例、法律改正で決着をはかるやり方もありますが、その場合でも、子ども施設と近隣住民が良好な関係をつくりあげることや十分な合意形成をはかることは不可欠だと思います。

 この問題の奥行きは深く、単なる「騒音」を越えて、私たちの社会の未来を照らす鏡ともなるように思います。新たな対立を再生産するのではなく、世代間連帯や相互承認が生まるような道を切り開いていきたいと考えています。

「子どもの声」は騒音からはずす (「太陽のまちから」2014年10月14日)



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