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 2年前の「かんぽの宿」問題で、追及の渦の中にいた私としては、すでに「決着済み」だと思ってきた数々の問題もまだまだ知られておらず、未だに「改革を止めるな」という論調の人々が少なからずいることが、ここ最近のツイッターでのやりとりなどで改めてわかった。実は、昨年の春に公表された郵政ガバナンス検証委員会の報告の中に「日本郵政・不動産戦略への意見書」(亀井久興・保坂展人)という文書がある。総務省顧問として私が亀井久興氏の監督の下に検証にあたった報告文書だ。昨年の5月以来、総務省のホームページに本体の報告書と共に掲載されているが、不思議なことにこの内容については、ほとんど知られていない。報道されていないことが大きな原因だろうと思う。ここに一部、引用しながら読んでいただければ幸いだ。ただし、この意見書の内容は、丸1年前の事柄であり、それ以降に起きたことには触れていないことをあらかじめお断りしておく。

〔引用開始〕

「日本郵政・不動産戦略への意見書」

郵政民営化を振り返る時、日本郵政公社から承継した膨大な「不動産資産の利活用」は、郵政事業の長期的な減退をカバーするためのいわば「目玉商品」であったはずである。ところが、2009 年の国会で議論となった「かんぽの宿等一括売却問題」や、公社時代の郵政資産「バルク売却」が明らかになるにつれて、疑問が脹らむ。これらの資産売却にあたり、日本郵政グループには「売却譲渡価格の最大価値」を追求する姿勢が見られず、むしろ「早期決着」を急ぐあまり契約手続きは透明性に欠けて、公平な競争を排除している杜撰な点が幾多あり、官庁でも民間会社でもありえない経緯をたどっていることも明らかになった。 

 

 しかし、これら「バルク売却」された資産や「かんぽの宿」の郵政不動産資産は「早期売却」のグループに仕分けされたものである。今後の郵政事業の未来をかけて最も重点化する不動産事業とは、「郵政不動産」の中で「A級」に分類される大規模開発事業である。これこそが、収益性の高い「目玉事業」という位置づけであった。ここでは、「A級」「目玉事業」とされて大きな期待を集めてきた東京中央郵便局・名古屋中央郵便局駅前分室(以下、「名古屋中央郵便局」という)・大阪中央郵便局と総額3000 億円を超える大規模開発事業について検証してみたい。さらには、民営化当初の「日本郵政グループの不動産戦略」を読み解き、現在の経営に当たっての問題点を考えてみたい

 〔中略〕

 28 兆円郵政不動産資産の利活用戦略と不動産事業会社構想〕

 

日本郵政グループが保有する不動産は、約28 兆円(土地14 兆円・建物14 兆円)であり、その規模は大手不動産業者を上回り、JR東海、JR東日本に次ぐ規模であるとしている。『グループCRE戦略』には、次のような記載がある。

 

 「重要なソリューションである不動産開発事業を効率的に進めるため、同事業部門を不動産事業会社として独立させ、日本郵政(株)のFM部(将来、一部機能を分社化予定)とも連携しながら、不動産事業収益を日本郵政グループ全体に還元する仕組みをつくる」

 

 不動産事業会社は明示的に構想されながら実現していない。ただし、ヒアリングによれば現在も「不動産事業会社の分社化」は日本郵政グループの課題として抱えているとのことである。また、不動産収益事業に「不動産開発」(賃貸ビルを中心とした不動産開発)「余裕スペースの活用」(余裕スペースのグループ内外利用の促進・提案を実施)「新規ビジネス」(資産属性に応じ、不動産ファンド等の新規ビジネスを展開)をあげている。

 

 民営化当初、当面は日本郵政グループの不動産事業は、持株会社のCRE部門が統括し事業会社同士の競争を排して、効率的な投資・開発・運用をしていく司令塔の役割を果たすために「事業子会社の不動産取引を持株会社承認制とする」としている。当面は、「不動産開発事業は『郵便局株式会社』の事業として実施」することでスタートした。そして、持株会社CRE部門は、やがて設立予定の不動産事業会社に移行していく計画であったようだ。

 

このような表記しか出来ないのは、この文書の計画・立案にあたった民間からのCRE部門への出向者は、ほぼ全員が退社して元いた会社に戻ってしまっていて、日本郵政株式会社経営陣も当時の正確な事業計画を知ることも困難な状況にさらされているからである。大規模開発事業は続いているが、枢要な不動産戦略を計画・立案した者が一斉に退社したというのも異常な事態と言わなければならない。

 

 なお、日本郵政グループから本調査への報告によれば、「不動産戦略の資料の作成に当たっては、民間出身者のみならず郵政の社員も参画・作成してきたことから、趣旨等は十分に理解しているものであり、民間出身者が退社したことをもって、戦略構築・実施ができないというものではない」とのことである。

 

 さらに、実施事業として次のような記載がある。

 

 「賃貸不動産アセットマネジメント〔取得・運用・売却を通じたフィーの獲得〕――アセットマネジメント会社の設立」や、「郵政自ら一部匿名組合出資により運用利益を享受――原則としてオフバランス化を前提」とあるが、「一部匿名組合出資」の対象や規模は不明である。さらに、「不動産ファンド」の組成についての記述もある。これについては「メルパルク」、「すでに収益事業化している資産(三田所在の土地信託ビル)」、「所有関係が輻輳している事業資産」、「開発事業リスクが比較的高い(地方等)資産」が対象であり、「都心優良不動産はファンド化しない」とある。

 

 こうした事業展開のメニューが、それぞれ具体的にどのように構想されたのか、企画・立案当事者が退社したとのことで不明だが、不動産事業が堅実な収益を確保する可能性と、投資の失敗による資金消失の不確実性をあわせ持ったものであった危険性も内包していたのではないかと指摘出来る。

 

 これらの記述の後には、「平成19 年度末~20 年度上期に立ち上げる方向で検討」とあるが、ヒアリングによれば、中期経営計画の策定が遅延したこと等により実現には至らなかったとのことであった。しかし、実際に不動産事業に一部乗り出している現状を踏まえれば、これら過去の構想に日本郵政グループとしての総括を行い、当初計画の洗い直しをした上で、取捨選択の「経営判断」が求められていると考える。

 

 なお、日本郵政グループから本調査への報告によれば、「不動産事業については、投資額も大きく、その成否が経営に与える影響が大きいことから、昨年12 月より、日本郵政副社長及び事業子会社社長計5名をメンバーとし、民間不動産事業者等の話を聞くなど情報収集・勉強会を始めたところであり、また、今後、この勉強会を発展的にルール化し、日本郵政グループ全体の不動産戦略や個別不動産開発の方針等を構築する横断的な体制を立ち上げることを検討しているところである」とのことである。

 〔中略〕

 〔大規模事業の資金計画の欠如〕

 

 「不動産事業の経営資源計画(予想損益、資金計画)」も表示されている。表の枠外・下欄には「資金調達の考え方 0708 年は全額郵便局会社手元資金充当。0911 年、所要資金(敷金除く)の半額を手元資金、残額を外部調達」とある。実際には、「外部調達」はされていない。不動産事業の全体が当初規模より縮小・遅延していることもあるであろうが、1000 億円を超える規模の東京中央郵便局の再開発工事は始まっている。

 

 これまでの事業費用は全て「郵便局会社手元資金」で支出されている。なお、日本郵政グループから本調査への報告によれば、「不動産事業に係る「資金計画」については、上述のとおり、東京中央局、大阪中央局、名古屋中央局駅前分室に加え、主要な他の開発案件も含めた不動産事業全体の事業収支、資金需要などを織り込んだ損益計算書、資金計画を作成し、これらの不動産開発を順次実施した場合における事業全体の損益、資金計画の見通しについて、問題がないことを確認しているところである」とのことである。

 

 だが、郵便局会社の手元資金のそもそもの由来は何か。民営化当初、郵便局会社には4500 億円の手元資金が存在した。しかし、日常業務運営にかかる手元資金でもあり、退職金の引当金も含まれている。本調査に対しての日本郵政株式会社の回答によれば、「手元資金の4500 億円は、窓口における貯金や保険の支払いのための資金とは別に保有しているものである。また、退職給付引当金については、必ずしも同額の手元資金を準備しておくことが会計上求められるものではなく、投資が生み出す利益も含めて将来の退職金の支払原資とするものである。」とのことである。

 

 また、東京中央郵便局の再開発を中心とした不動産事業に郵便局会社の手元資金で支出された総額は、100 億円を超えている(2009 12 月末現在)。不動産市況の低迷により、大阪中央郵便局、名古屋中央郵便局の再開発は着工していないが、本文書の計画通りであれば、2008 年に東京中央郵便局、2009 年に大阪中央郵便局・名古屋中央郵便局は着工している予定で11 年には竣工する見通しであった。総額3000 億円を超える大規模開発にもかかわらず、それと連動した実施主体である郵便局会社の中・長期の「資金計画」が存在しなかったということは、常識では考えられないことである。

 

 外部調達とは、いったいどの金融機関からの調達を予定していたのか。これらの計画は、いついかなる理由で変更されたのか。日本郵政グループの経営にとって、これらの経緯を正確に把握することは必要不可欠であると指摘したい。なぜなら、東京中央郵便局は建設工事が進んでいて、大阪中央郵便局は基本設計が終わり、事業としては現在進行形だからである。

 

 「三中郵を連結した3000 億円規模の大規模事業の資金計画が更新されていない」ということはにわかに信じがたいが、大阪・名古屋中央郵便局が着工していない現状を幸いとして早急に手当てするべきであると指摘しておきたい。

 

付言すれば、東京中央郵便局の再開発のような大規模開発の場合、キーテナントの6割程度の入居を確保した上で、着工に至るのが不動産業界の常識である。工事の発注を決定する時点で「東京中央郵便局跡の新ビルにゆうちょ銀行の本店が入居するのかどうか」というような議論が行なわれているなど、普通の民間企業ならありえないことが行なわれていたことも指摘しておきたい。

 〔中略〕

 〔小括〕

 

 前述資料には不動産事業会社の構想が記述されているが、「国民共有の財産」に由来する郵政不動産資産を「利活用」するためには、公的セクターとしての透明性・公共性が求められるのは言うまでもない。公社時代から、郵政不動産開発に至るまで、売却・譲渡にあたって地元自治体と協議を行っていない事例もあり、国有財産を承継したとの自覚を疑う事例も散見される。

 

 郵政不動産事業は、その規模を縮小、または一時停止を余儀なくされている状態である。「不動産の利活用」は適正になされるなら、日本郵政グループの今後にとって、なかんずく郵便事業の近未来にとって必要であることは、十分に理解出来る。だからこそ、事業のリスクヘッジがきちんとなされ、郵便事業への収益還元を地道に実現出来る経営見通しが必要なのではないか。そのためには、不動産事業全体の見直しと透明化、ガバナンスの確立に取り組まなければならないとの認識を強く持つ。

 

繰り返しになるが「不動産事業」への進出は、民営化後の象徴的な事業であった。そして、大きく見通しを誤り、開発や投資による負債を負うことがあれば、二度とやり直しのきかない事業である。こうした日本郵政グループの「生命線」とも言うべき「不動産事業」が、民間企業からの事実上の出向者たちが意思決定の当事者となり、経営上の「戦略」「指針」を策定することなく、個々の契約・取引を急ぎ、そして不動産事業の入口をくぐった所で、持株会社西川社長の退陣とともに、民間企業出向者たちはほぼ全員退社してしまうという「異常事態」は民間企業ならありえないことではないだろうか。

 

 郵政事業の側面支援のために「不動産事業」を手がけたのなら、事業についてのすべての責任と経営判断を行なった執行役は、少なくともこの事業が軌道に乗るまでの間、しっかりと仕事を尽くすべきではないか。資金調達を命じられている郵便局株式会社の経営陣にしてみれば、ヘッドとなる意思決定者が不在となった今も、企画・設計・建築の契約は残り、そのリスクを実体的に負うことになる。しかし、企画・契約時の通知書には、「本件事業の推進にあたり、発生し得るリスクの管理については、弊社(持株会社)において行う」と約束されている。この責任を負うはずの人たちの多くは、日本郵政グループを去っている。ガバナンスの不在とは、このことだと言えないだろうか。__

 〔引用終了〕

 ブログの容量制限で一部の紹介となった。さらに詳しくは、「日本郵政・不動産戦略への意見書」を参照していただきたい。

 〔参考〕

 

 











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