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 国会事務所の本棚に『現代日本のワーキング・プア』(「ポリティーク10号2005年9月20日旬報社発行」と題した一冊があった。週末にページをめくりながら、労働市場・雇用環境の激変がどのような「構造」をつくりあげたのか、考えることが多かった。同書の『雇用と働き方から見たワーキング・プア』(伍賀一道金沢大学教授)の論考をもとに衝撃的な「数字」を見ていきたい。

 総務省の『平成14年就業構造基本調査』によれば、5318万人の中で年間所得が100万円未満の人が700万人(23・2%)、200万円未満が1571万人(29・5%)いる。年収200万円未満の層をワーキング・プアと定義すれば、その約8割がパートタイム・アルバイト・派遣労働・契約社員などの非正規雇用が占めている。1997年から02年までの5年間で、正規雇用は400万人減少し、非正規雇用は368万人増加した。この5年間で、100万円未満層が82万人、200万円未満層が188万人も増加している。「正規雇用→非正規雇用」になだれを打って移行が進み、不安定雇用と低賃金で働く人々が拡大した。

 自動車や電機などの製造業で問題となっている「偽装請負」も、必然的に低賃金が強いられる構造を生んでいる。全国各地から若年層を中心に労働者を集めてくる仲介業者は、メーカーから生産ラインの一部を業務請負で契約し、業者が労働者を監督するタテマエになっているが、実際にはメーカー社員の指示で働く。派遣労働者でありながら、労働者派遣法の適用も受けず企業の都合によって、解雇・整理は自由に出来る。

 請負労働者の平均時給は1000円で、昇給・ボーナスはなく、年収200万程度で働いている。この収入では子育てが難しいだけでなく婚姻にも高いハードルがある。請負労働者は200万人にもなり、20~30代のワーキング・プアも増えている。特別の技能も、スキルアップも必要とせずに、企業の需要にあわせて全国の生産現場を転々とする「便利な労働力」が空前の企業利益に貢献している。

「正社員より安く労働力を提供できますよ」と派遣労働や業務請負の業者は、安価な労働力を必要とする企業に営業をかける。企業が派遣業者に支払う正社員より安い派遣労働者の「派遣費用」が、時給1500円だとすると実際に労働者に支払われる賃金は65%平均で975円程度にしかならない。35%は派遣業者の営業費・事務所費・宣伝費・教育訓練費などに吸い上げられる。正社員が時給2000円だとすれば、契約時に500円落ちて1500円になり、さらに支払い時には975円になるから、同一労働=半分賃金という構造が固定化する。

 福島みずほさんが国会で「非正規雇用」のことを取り上げたら、自民党の委員席から「正社員になればいいじゃないか」というヤジが飛んだと驚きあきれていた。官僚上がりや二世三世のボンボン議員にとっては「好きでフリーターやってるんだから、自業自得。やる気があるんなら社員になればいい」という感覚が宿っているのだろう。

かつては、派遣労働にも職種限定などの規制があった。99年に製造業を除いて原則自由化され、04年には製造業も解禁され、07年には、さらに3年間の延長もはかられる。これらの政策が、「構造改革」の名で行われてきたことを銘記しておきたい。ワーキング・プアの生みの親は「構造改革」であり、小泉・竹中路線だった。人を絶望に突き落とす「構造改革」で歪んだ社会は、雇用条件の格差を規制する労働法制で「生活安定構造」を確保し、救済するしかない。労働者の権利を守る労働組合が外注・請負などの契約に関わらず「労働実態」を優先して企業と交渉出来るようにしなければならない。

流した汗が報われる政治に、と私たちの先輩は言った。情け容赦ない弱肉強食社会への急坂を転げ落ちようとしている日本に必要なのは「一人勝ちウハウハ構造改革」を今すぐに止めろというスクラムである。








 

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