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        社民党・議員団が調査に乗り出す


日野自動車のトラック工場のラインは、轟音を立てて1時間でトラックを生成していく巨獣の胎内に似ていた。ラインに乗って流れているシャーシ(車体)は、一台一台長さも形状も違う。数千種類のオーダーに基づいて、異なるトラックを滞りなく生産するシステムとなっていると工場長から説明を受けた。従って、1台目のシャーシに取り付ける部品を、何分か前に荷台に積んでいくという作業がある。この荷台がラインと共に脇に寄り添って、取付作業となる。

 荷台に部品を載せるのは人間だから、ミスで載せ忘れもある。すると、大急ぎで部品を抱えた人が走ってラインに向かう。ここでは、ラインの流れが人間を支配していて、トイレに行くことすら、プログラム化されている。「トイレに行く」と伝えてラインを離れるまでに、大急ぎで交替要員が走ってくる。そして、ラインは影響を受けないという仕掛けだ。

 作業は全身労働である。右から左から、後ろから前から、上から下からと「製造プログラム」はハイテンポに組まれている。立ち止まることは許されず、考え事をしていてはケガやミスをする。相当の集中力と運動神経でラインと格闘しなければならない。神経と筋肉を使う重労働だ。自動車工場の労働者は汗まみれ、油まみれになって働く。「日野自動車」の白いユニフォームとヘルメットを被っている。

 ところが、ここにも格差が歴然と存在する。社員・期間工にはユニフォームは支給されるが、派遣・請負労働者は自費購入だといのだ。日野自動車の売店で3000円で販売されている帽子と上着・ズボンのセットが、なぜか「5000円」、もっと悪質な人材派遣業者になると「8000円」を本人から天引きしているという。部署によっては、2日働くと油まみれで汚くなるから、3~4着を洗濯しながら使っているということで、同一工場の中で責任ある仕事をさせておいて、ユニフォームは自前で買えというのは明らかにおかしい。

 工場見学を終えて、偽装出向の送り出し業者であった日研総業専務の話を聞いた。「労働組合からの申し出を受けて、ホットラインを設置して安心して長く働けるように従業員に対してアンケートを実施しています。現在、集計中です。また、当社はトレーニングセンターをつくり、スキルアップの機会を提供しています。『フォークリフト』『電機系』『機械系』の知識を3週間にわたって徹底的に研修します。毎年、現場で働く340人を当社の正社員として迎え入れてきました」3万人を登録する人材業者である日研総業は、独自の求人情報誌を出版し全国的なネットワークを持っている。

「偽装出向」問題については、意外な見解を聞いた。もともと「人材会社からの出向」扱いには疑問を持ってきたというのだ。取引先(日野自動車)の意向で行ってきており、02年の労働者派遣法改正で製造現場に派遣が出来るようになった段階で、「派遣」に切り替えてほしいと要望したが、聞き入れてもらえなかったというのが同社の言い分だ。しかし02年前には、製造現場への派遣は禁止されていたのだから、なぜ請負契約を結んだのかは説明がつかない。

「月収31万円以上という広告を出してきたことについては事実か」と私が問うと、「現在は是正しています。ただ、これだけの収入を得ていた者がいたのも事実です」という返答。「全体の5%ぐらいでしょうか」ともチラリと聞いた。いったい、どうやって13~4万円台の手取り水準だったという証言との金額上の落差が説明出来るのだろうか。
「ユニフォームも支給してはどうか」と指摘してみたが、明確な返答はなかった。

 こうした偽装出向の現場で、ワーキングプアの構造の一端に触れた。高度に能率化されたトラック生産を古典的な搾取構造の中で、超低賃金の労働者が支えている。
大きな責任は日野自動車にある。05年まで33年間連続でトラック生産は日本のトップであり続け、06年3月に連結売りあげで1兆1969億円を売りあげる企業が「労働力」に正当な対価を支払わない構図を「偽装出向」でつくってきたことは、企業の社会的責任を果たしたとは到底言えない。

 企業が収益至上主義で効率化をはかることは当然である。その欲望のままにやりたい放題に委ねると、「小泉政治・安倍政治」のような強いもの勝ちとワーキングプアの出現に特徴的な弱肉強食社会になる。労働法制が「労働者派遣」を厳しく監視してきたからこそ、「働いても生きていけない賃金」など許されなかった。その規制緩和は、企業に巨大な利益をもたらして、労働者や社会に還元されない。そのデタラメを許しているのは政治の問題なのだ。

ホワイトカラー・エグゼンプションと言って、一定以上の収入のサラリーマンから「残業手当」を取り上げることの出来る「自律的労働時間制度」創設を狙う労働基本法改正案が来春の国会に提出される。経済財政諮問会議からは「格差社会」の是正を給料取りすぎの正規労働者の賃金を非正規労働者並みに引き下げることを提案するという議論が出てきている。このままの経団連言いなり政治を続けていくと日本は、「ワーキングプア大国」に変貌していく。




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