守屋事件と防衛省の装備品(つまり兵器)の調達をめぐる事件捜査は、越年して「政界」への波及が焦点となる。この事件の発端となったのは、山田洋行と日本ミライズの対立から発生した「刺し合い」にあった。新興防衛商社としての地歩を築いてきた山田洋行の宮崎元専務は、不動産経営の失敗から生じた負債処理をめぐってオーナー側と対立し、独立して日本ミライズをつくった。両者の対立は訴訟合戦となり、いくつもの裁判が同時並行で進んでいる。そして、平常時なら表に出ない秘密書類やアングラ情報が、双方から同時に東京地検特捜部に持ち込まれたと巷間言われている。
まずは、守屋-宮崎ラインが捜査の焦点となり、守屋氏の国会での証人喚問も経てふたりは逮捕された。私たちが注目しておかなければならないのが、「役人代表」と「業者代表」のふたりで事件捜査が終結し、「防衛利権の闇」の解明は果たされずに、「役人と業者に常識外れの輩がいた」という話に収束してしまう線だ。もちろん、「役人」「業者」は他にも介在している。そして、「政治家」か出てこないのも不自然だ。いわば、守屋-宮崎ラインの他に複数の点と点が登場し、線となりやがて面となってこそ「政官業の癒着の解明」となり防衛利権の全体像となる。
今日の新聞記事で各紙が伝えているのは、宮崎元専務が独立して設立した日本ミライズとの対抗関係にあった山田洋行が、昨年10月の「防衛族の窓口」とも言われる社団法人・日米平和・文化交流協会の専務理事に「3000万円(25万ドル)」を手渡したという記事である。
[読売新聞]
防衛専門商社「山田洋行」幹部が昨年10月、防衛族議員らが理事を務める社団法人「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀専務理事(58)に、海外事業で捻出(ねんしゅつ)した裏金約25万ドル(約2900万円)を渡していたことが分かった。
[引用終わり]
新聞記事には秋山氏の代理人が「本人は『そんな事実は絶対にない』と強く否定している」とコメントしている。1月8日には、参議院外交防衛委員会で秋山氏の参考人招致が予定されているので、事の経過についてはしっかり聞かなくてはならない。このニュースについて、時期が昨年(06年)10月であり、業者は宮崎元専務が独立した後での山田洋行であること、さらには「防衛族議員」を通した政界工作を依頼する文書が存在をしていることなどが報道されている。
[東京新聞]
前防衛次官汚職事件に関連し、防衛専門商社「山田洋行」が昨年秋、米国メーカー二社の販売代理店契約を維持するため、国会議員らが理事を務める社団法人「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀専務理事(58)側に対して、約三千万円を支払うとした内部文書が存在することが分かった。
[引用終わり]
昨年10月と言えば、「美しい国」を掲げる安倍内閣の発足時だ。すでに宮崎元専務は山田洋行を飛び出して日本ミライズを設立し、山田洋行時代の実績と守屋前事務次官との強い関係をテコに動き出していた。これを牽制するために、宮崎元専務が去った後の山田洋行が、与野党議員が防衛族として理事に就任している日米平和・文化交流協会の専務理事を通して、政界工作を依頼したのであれば「事件」は拡大し、「守屋-宮崎ライン」以外の関係者に波及する。
また、山田洋行に宮崎元専務がいた頃にも「旧日本軍の毒ガス処理事業」をめぐって1億円を防衛団体専務理事に振り込んだ後に受注したという話も報道されている。やや構図は複雑だが、巨額の防衛装備品(兵器)の価格は「水増し請求」「過払い」されていて、これが防衛商社の裏金となり海外でプールされて、不透明な工作資金として国内に還流するという構図が見え隠れする。
「政官業の癒着の構造」を解明するのは国会とメディアの役割であり、限られた事件を立件する捜査機関の仕事ではない。捜査機関と司法が出来ることは、いくつかの事件捜査と裁判であり、防衛利権の全体像の解明ではない。
私たちは、宿題を残しながら、新年を迎えることになる。おそらく元旦の紙面では各社が「次の展開」をめぐってスプーク合戦を展開することだろう。そこに目を配りながら、ふりまわされず、じっくり「全体像の解明」を果たしていきたい。

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