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 卒原発の民意に耳を傾けるか、それとも

  • 保坂展人
  • 2014年7月15日
     

写真:滋賀県知事選で当選した三日月大造氏(右)と、嘉田由紀子・同県知事

滋賀県知事選で当選した三日月大造氏(右)と、嘉田由紀子・同県知事

 

 7月13日の滋賀県知事選挙で、前衆院議員の無所属、三日月大造氏が当選しました。自民党と公明党から推薦を受けた元経済産業省の小鑓(こやり)隆史氏は、事前調査で三日月氏にリードされているとの報道後、自民党・官邸をあげての総力支援にもかかわらず及びませんでした。

 当初優勢だった小鑓氏にとっては、「自衛隊による集団的自衛権行使容認の閣議決定」(7月1日)が転換点になったと伝えられています。

 あの時、憲法解釈の変更をめぐり、安倍晋三首相はこう言い放ちました。

「最高の責任者は私だ。政府答弁に私が責任を持って、その上で私たちは選挙で国民の審判を受ける。審判を受けるのは内閣法制局長官ではない。私だ」(2014年2月12日、衆議院予算委員会)

 「憲法解釈の最高責任者は私」という首相発言にこそ、自民・公明の与党内協議を急がせて、国会審議もしないまま、閣議決定による憲法解釈の変更に躊躇(ちゅうちょ)なく踏み切った政治姿勢が端的に現れています。

<小鑓氏の最後の街頭演説。地元選出の自民党の武藤貴也衆議院議員が『集団的自衛権にイエスかノーか、今回の選挙は安倍政権を信任するかどうかを決める選挙だと報道されている。ならば負けるわけにいかない』と訴えた。集団的自衛権を自ら争点化するような発言に、小鑓陣営の幹部が『何を考えているんだ』と武藤氏を叱りつける場面があった>(7月14日付朝日新聞朝刊)

 このような記事に、政治の構図が見え隠れしています。

 もうひとつの争点は、原発でした。嘉田由紀子知事の掲げる「卒原発」の旗を継承する三日月氏は「原発銀座と呼ばれる福井県に隣接して、重要な水源である琵琶湖を抱える滋賀県は、いざという事故の時には大きな影響を受ける『被害地元』である」と訴えました。

 そして、僅差(きんさ)ながら、三日月氏は小鑓氏を抑えて当選しました。

 こうして滋賀県民が「卒原発」を掲げる知事を誕生させたとしても、安倍政権は、あくまで既定路線として再稼働に突き進もうとしているようです。鹿児島県の九州電力川内原発1・2号機が「新審査基準を満たすもの」とする原子力安全委員会による審査案を受けて、この秋の再稼働を既定路線として実現させる意向です。

 3年前の東京電力福島第1原発事故の現場で起きていることに、たびたび驚かされます。最近では、福島県南相馬市の農家が収穫したコメから国基準を超えたセシウムが検出された件で、農林水産省が昨夏のがれき撤去によって放射性物質が飛散している可能性を知り、東京電力に対策を要請しながら、地元には説明していなかったというニュースが流れました。

 2011年ではなく、2年後の2013年8月に3号機の「がれき撤去」した際に飛散した放射性物質の影響が、20キロ離れた南相馬市の農地に及んでいたとしたら、当然、農林水産省や東京電力はすみやかに自治体や当事者の農家に説明する責任があります。また、これから1号機のカバーを外す工事をするにあたり、抜本対策は予算不足などの理由から見送られ、放射性物質のさらなる拡散が予想されるというのです。

 原発事故直後、救援物質を送るなどの支援をしてきた南相馬市で、私は桜井勝延市長から強い語調で聞きました。桜井勝延市長が「国からも、東京電力からも、何の情報もない。けれども市民からはすべての回答を求められる」と苦悩の淵にいたことを思い出します。当時と何ら変わっていないどころか、あえて変えようとしないのが永田町と霞が関の実態のようです。

 国際オリンピック委員会(IOC)総会における、オリンピック・パラリンピック招致のための安倍首相のプレゼンテーションを思い出します。

「汚染水による影響は、福島第1原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内の中で、完全にブロックされています」

 そう断言した後、次のように約束しました。

「完全に問題のないものにするために、抜本解決に向けたプログラムを私が責任をもって決定し、すでに着手をしております。実行していく」

 そうした国際公約を掲げるまでもなく、政府が福島第1原発の収拾のための対策に万全を期すのは当然のことです。滋賀県知事選挙の直前には、「最後は金目でしょ」という石原伸晃環境相の失言もありました。

 福島第1原発事故からは、事故によって影響を受ける「地元」が、原発が立地している市町村や県にとどまらないことが証明されました。しかし、現実に進められようとしている「原発再稼働」では、緊急事故時の避難経路の作成や情報伝達などの具体的な対策は放置されたままです。まさに、南相馬市で起きた事態が今後も繰り返されていくのです。

 10月には、福島県知事選挙が予定されています。現在も続く事故収束のための長い苦闘の現場では、「すでに起きたこと」「避難を続けている生活」「放射性物質による健康リスク」が問われるはずです。同時に「原発をつくらない、原発に頼らない社会」をきりひらく大きな議論が必要です。



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