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9月21日の朝日新聞は、村木元厚生労働省局長事件で「検察側が重要な証拠となるFDの更新日時データを改竄していた」の極めて重大なスクープを掲載していた。その日のうちに、最高検は異例のスピードで、大阪地検特捜部で事件を担当した前田主任検事を逮捕し捜査に乗り出した。トカゲの尻尾切りで終わるのか、強引で無理筋な捜査にブレーキをかけることのない検察組織の徹底検証がされるのか。それにしても、上級官庁である最高検が「検察組織の闇」に迫れるはずもない。

村木元局長の公判が始まると、証拠請求された「捜査報告書」に記されている「2004年6月1日」という更新日時と、FDの更新日時が「6月8日」と違うことを弁護側から指摘を受けていた。今年の1~2月、前田主任検事は東京地検特捜部に応援に来ていたとのことだが、電話で「FDの更新日時を書き換えた可能性がある」ことを上層部に伝えていたという。

 無理が通れば、道理が引っ込む。かつて「最強の捜査機関」などと神格化された特捜部捜査は、「国策捜査」と呼ばれるほどに不偏不党どころか「自民党と一心同体」で「政敵」を倒すという荒技を躊躇しなくなっていた。今年1月、「FD改竄」を電話で告白した前田検事は、東京で「小沢一郎・陸山会事件」で小沢氏の秘書だった大久保被告の取り調べにあたっていたという。

「見込み捜査・出たとこ勝負」でも、派手な政界・官界捜査では許されるという過信。その「見込み」「見立て」が事実と背反した時に、非を詫びて撤収することの出来ないバックギアが装填されていない組織のあり方が、厳しく問われている。今回の村木元局長無罪判決でも、「証拠改竄」が明るみにでなければ、前田主任検事の「犯罪」は問われることなく、また出世していった可能性もある。

 2002年4月22日。三井環大阪高検公安部長は、鳥越俊太郎氏のテレビインタビューを予定していた日に、「口封じ逮捕」された。三井氏によれば、長年にわたって公私混同のはなはだしい無駄遣いの温床だった「調査活動費」の実態をテレビカメラの前で暴露し、これを受けて当時の菅直人氏が国会で追及するという計画だったという。三井氏は、微罪で別件逮捕され勾留され、テレビ放送も国会の追及も沙汰止みとなった。

 今回の「前田検事逮捕」の新聞紙面で「過去の検察官不祥事」の一覧表には「三井環大阪高検公安部長」の名前も出てくる。今回の大阪地検特捜部の「事件捏造・証拠改竄」の根は、この「三井環内部告発と口封じ逮捕」にあると私は見ている。無理筋・手荒な事件捏造をしても組織防衛のためには、「調活費の内部告発」はやらせない――その手本を検事総長以下が示したのが、この事件の本質だった。

 2002年4月といえば、「9・11事件」から半年が経過し、小泉内閣の政敵が「国策捜査」によって狙われ、逮捕、あるいは議員辞職に追い詰められたりした「異常な季節」である。この時から、官邸と法務・検察が呼吸と歩調をあわせていき、結果として政治権力の中枢に捜査のメスが向けられるようなことはなくなっていった。「検察改革」を議論するなら、2002年の三井環事件を検証することが必要だ。


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