TOP PAGE BLOG ENGLISH CONTACT




 東京都青少年条例を今夜も考えてみたい。都議会民主党の条例改正案に対しての賛否は、明日にも定まるだろうと言われている。今や「文化不毛の地」をめざして警察官僚に青少年・治安対策本部長の椅子を準備し、出版物規制を委ねようという石原慎太郎東京都知事と、都議会という閉鎖空間の中で封鎖されている条例の議論に、外からの批判の声がひときわ大きくなってきている。

 

 角川書店が今回の「青少年条例改正案」に抗議して、来春開かれる『東京国際アニメフェア』への参加を取りやめることを表明した。マンガ家の同条例への抗議に対して「ある意味卑しい仕事をしているんだから、彼らは」(2010年6月定例記者会見)と悪罵を投げつける石原慎太郎東京都知事が実行委員長をつとめるというのだから、角川書店の投げ返した一石の意味は深い。角川書店に続くところも出てきているとも聞く。

 

 この青少年条例が成立しないと「青少年健全育成」に悪影響が出るなどの切迫した具体的理由はない。春に提出した条例が継続審議・廃案となって越年じゃ都と石原知事のメンツが立たないから、今回は民主党の要求をうんと飲んだから可決・成立でお願いするよ――というのが、正直な話ではないのか。

 

 たしかに今回の条例を見てみると、東京都が過剰に力んで「精神運動」的なキャンペーンをやろうという部分や2009年の国会で自民・公明提出の「児童買春・児童ポルノ規制法案改正案」に盛り込まれていた「単純所持規制」などを先取りした部分などをごっそり落とした点が、「民主党の要求を反映した」と言える部分だろう。

 

 しかし、「劇薬」カプセルの中から、いくつかの要素を削って、肝心の猛毒性の表現規制部分を拡大したのが、今回の改正案だ。猛毒性の部分とは、マンガ・アニメなどに自主規制を都が求める対象を「刑罰法規にふれる」あるいは「近親間の」→「性行為」を「不当に賛美し又は誇張して描写し表現する」という枠組となっている。また、これらの好ましからざる出版物の中で「不健全図書」として指定する対象も、「強姦等の社会規範に著しく反する性行為」を「不当に賛美し又は誇張して描写し表現する」というものだ。

 

 前のカプセルの箱には「18歳未満の非実在青少年」と服用対象が刻まれていたが、今回は「18歳未満の非実在青少年」の表記は消えた。東京都は「大人も対象としました」とごまかすが、ちょっと待ってもらいたい。年齢区分を外して全年齢としたら、当然ながら「18歳未満の非実在青少年」も法規制の網の中に入っている。表示されていないのは、一種の詐術で春に提出した条例と何ら変わりませんよということだ。何ら春と変わらないのも面白くないので、廃案にされたお返しに規制範囲を広げさせてもらいましたとの意図も読み取れる。こんな小細工にごまかされるようでは、あまりにも情けない。現に、東京都は「春の条例と変わらない運用をしていく」とその中身を隠そうともしていない。

 

「たかがマンガ、アニメで騒ぐな」という人もいるだろう。文字で書かれた小説とは次元が違うと石原都知事らは考えているかもしれない。しかし、「刑罰法規に触れる性描写」が規制対象なら、文字で書かれた小説の類も規制を免れるはずもない。「刑罰法規に触れる性描写」が規制対象なら、「薬物」「刃物」などが登場する創作物はどうなのか。今回の条例改正が、まさに「蟻の一穴」になる恐れは十分ある。さらに「社会的規範」を持ち出すのならば、憲法で保証された「思想・信条、表現の自由」も都条例がズタズタに切り裂くことが出来ることになる。しかも、治安対策本部が規制当局だ。

 

 警察の取り調べでウソの自白を強要され、長期間拘留されてひどい目にあったと「志布志事件」をテーマにしたマンガや小説も、「社会的規範に反する」と一刀両断されかねない怖さをこの条例改正案は持っている。この条例を提案し、成立させようとしているのは、東京都青少年・治安対策本部である。本部長は警察庁キャリアで志布志事件の発覚当時に鹿児島県警本部長をつとめていた人だ。デタラメな捜査で無辜の民を拘束し、人権蹂躙の限りを尽くした志布志事件の捜査を県議会で問われて、「自白の強要などなかった」と答弁してきた人物である。「出版の適否の決定権」を警察当局がふりまわす社会になってはならない。

 

戦前の「治安維持法」という民主主義と言論を殺した劇薬だったが、戦後60数年間にわたって、思想検事・特高警察の後継者たちは本質的な反省をしてこなかった。民主主義とは空気のように常に存在し、大地の如く確固としたものではない。つねに、危機にさらされ、その危機のたびに人々が声をあげて、つくりあげていくものだ。

 

201012月、私たちは声をあげようではないか。

 

第2回保坂のぶとフォーラム

「政治の言葉」をどう伝えるか マスメディアとインターネットの間に

神保哲生(ジャーナリスト)×保坂のぶと

12月11日(土)午後5時~8時まで

東京中央日本語学院(〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-30-3)

参加費 1000円 (30歳以下65歳以上500円)

ツイッターからの意見や提案も取り込みながらトークを進行。当日、UST中継が決定しました。ドンドン参加してください。→

 

   

 



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 12月5日~6日... 都議会「マン... »