街頭演説を早く切り上げて、麻生総理の夕方6時からの記者会見を事務所で見た。「追加経済対策」と「総選挙先送り」を表明するとのことで、東京新聞や日本経済新聞からコメントを依頼されていたからだ。見終わった後で、なんだこりゃと首を傾げた。解散・総選挙について「やるやる」と掛け声だけかけてGOサインはいつまでも出さないまま、臨時国会を召集して1ヶ月の間、政治空白をつくったことで自治体の選挙実務関係者は対応に追われた。10月26日、11月2日、9日、30日と日程はズレこんでしまい、混乱と負担をしいてきた。そのことに対して謝罪の言葉もなく、「解散はしかるべき時期に私が判断します」と繰り返すだけ。ひとつだけわかったのは、10月末解散がないということだけだった。
記者会見の前に麻生総理は公明党の太田代表と会談している。「12月解散・1月選挙」あるいは「1月解散・2月選挙」がギリギリの許容範囲だとクギをさされたのではないかと私は予想する。自民・公明の選挙協力があっても与野党逆転が必至だという自民党の実施した世論調査結果が「早期解散論」を封じ込めたと言われている。「来年1月を過ぎたら選挙協力は見直す」と言われれば、強気で明るい麻生総理の顔色も曇るのである。あくまでも想像だが、当初予想していた記者会見の内容から「解散・総選挙の先送り」という色彩が薄まったような気がする。解散権を持っているのは、もはや麻生総理ではないという気もしてくる。
発表された追加経済対策は、ピント外れのものだった。目玉は金券の配布で、4人家族6万円を年度内に届けるという。そして、総選挙で与党が勝てば、3年後に消費税の引き上げをさせてほしいとつけ加えた。有権者を吊り上げる毛針としては、あまりに出来が悪いのではないか。小泉がぶった切った定率減税を戻しますとか、消費税の飲食料品非課税に踏み切りますという恒久的な対策ではない。総選挙前に4人家族で6万円受け取ってねというのであれば、経済対策という名の公然たる買収だ。国民負担増はそのままにして、将来の消費税増税まで道筋をつけておいて「悪魔の金券」で与党勝利に向かおうというのは有権者を甘く見すぎているのではないか。
しかも、雇用保険の負担減を打ち出しているのは政策的に誤りだ。今後、倒産や失業が増えるのは間違いのない情勢だ。問題は、雇用保険のセーフティネットが薄くて、製造業においてリストラの対象となる労働者の多くが「失業給付」の対象とならないことだ。政府がしなければならないのは、就業している労働者の雇用保険負担を下げることではなくて、5兆円を超えている失業給付の積立金がより雇用危機の当事者に潤滑に出るようにするべきであり、特別に手厚くしておくことなのだ。ところが、麻生内閣は雇用保険への国庫負担分1800億円すら削減していくという逆立ち方針のままなのだ。
金券バラマキは「所得制限」がないという。富裕層にも、政府から金券が届くことに何の意味があるのか。「カップラーメン400円」と答弁する金満総理にも、国民のひとりとして金券が届くことを想像すると、税金はもっと智恵を出して使えと言いたくなる。中小企業融資枠を20兆円に拡大したことや、政府系金融機関の融資枠を10兆円にしたことは評価出来るが、「100年に一度の経済危機」とグリースパンが嘆くような事態に対応した対策にはなっていないし、景気の浮揚効果も期待出来そうにない。
しかも、この追加経済対策をこの国会に提案すると麻生総理は明言しなかった。成立させることが出来なければ「画餅」に過ぎず、選挙向けのプラカードを掲げただけに過ぎない。「第2次補正」を通してその効果を見定めてから、解散・総選挙の時期を見たいというのであれば、解散はしばらく遠のいたと言えるだろうが、今日の会見を見る限り麻生総理の念頭には、年内解散も含めて比較的早い時期の解散時機を窺っているという印象を持った。
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