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 素朴な疑問には、いつか単純な回答がもたらされるものである。単純な疑問、すなわち「東京電力全エリアの電力使用量がリアルタイムで開示出来るのに、その集合体のひとつである23区、また世田谷区の電力使用量はなぜ開示出来ないのか」というものだ。「できるはず」と思う私と、「新たなソフトを開発する経費と時間がかかり、すぐには無理」との回答をする東京電力との間の議論を見ている限り、平行線で「夏の電力使用の上昇期」を迎えてしまうような気がする。そこで、今日は角度を変えて「学術論文」を片手に考えてみることにしたい。

『土木学会論文集1』(2002年1月)に「電力供給量の変化に着目した建物被害評価に関する基礎研究」(秦康範・目黒公郎)という論文を入手した。この論文は、地震直後の被災状況の把握のために「電力供給量」の推移・変化に着目したものである。「電力は供給と消費(需要)の同時性や貯蔵の困難性など、他のサービスにない特徴を有するために、電力供給量は地域の人々の活動状況をリアルタイムに反映する」ことを踏まえて、「電力供給量と被害状況」の相関関係を研究したものである。

〔引用開始〕

「電力供給量の変化に着目した建物被害評価に関する基礎研究」(秦康範・目黒公郎)

地震直後の被災地域の特定と被害量の把握は,防災関連機関の初動を決定する上で極めて重要である.本研究は地震前後の電力供給データを用いて,地域ごとの被害評価を試みるものである.すなわち,配電用変電所の供給エリアを地域単位として,地震前の電力需要から地域特性を把握するとともに,地震後の電力供給量の落ち込み具合から供給エリア内の建物被害を評価する手法を提案し,両者の関係について分析した.その結果,地震後の電力供給量の低下は地域の建物被害と高い相関を持つことが確認されるとともに,提案
手法が,リアルタイム評価が可能,新たな設備投資がほとんど不要,天候や時刻に左右されない観測が可能,など有利な点を多く有し,実用に向けて大きな可能性があることが示された.

(中略)

 そこで本研究では,被害状況の把握に電力供給量を用いる手法を提案する.電力は供給と消費(需要)の同時性や貯蔵の困難性など,他のサービスにない特徴を有するため,電力供給量は地域の人々の活動状況をリアルタイムに反映する.故に災害時には,人々の活動
状況が地域の被災程度に強く影響を受けることから,発災後の電力供給量は被害状況を強く反映したものとなる.また電力供給量による被害評価には「,リアルタイム評価が可能」「,新たな設備投資がほとんど不要」「,建物の強度分布や被害関数を事前に用意する必要がない」「,天候や時間に左右されない観測が可能」など多くの特長がある.

 本研究では,エリアの単位として配電用変電所供給エリア(以下では配電エリアという)を用いているが,各配電エリアには一般需要家(小規模産業や一般住家を主な構成要素とする)用に電圧を低下させて電力供給を行う配電用変電所が1つずつ存在している.1つの配電用変電所には通常3基(一部2基)の変圧器があり,15~20本程度の配電線(地域により異なるが例えば東京23区内でおおよそ19本,23区周辺で15本程度)が接続されている(図-1).現状では電力会社がリアルタイムに電力供給量をモニタリングし記録する最小単位は一般的には配電用変電所であるが,配電用変電所に接続されている各配電線ごとの電力供給量をモニタリングすることは技術的に容易である.各配電線によって電力供給される地域を単位とすると,各配電エリアの15~20分の1程度のエリアを地域単位とする電力供給量のモニタリングが可能となる.そうした場合の地域単位は,町丁目並みもしくはそれ以下の面積となる.本研究は,将来的によりミク
ロな電力供給量のモニタリング環境が整備されることを念頭に,電力供給量を用いた建物被害評価の可能性について検討を試みるものである.

〔引用終了〕

 上記にあるように、「電力会社がリアルタイムに電力供給量をモニタリングする最小単位は一般的には配電用変電所」だが、さらに「配電用変電所に接続されている各配電線ごとの電力供給量をモニタリングすることは技術的に容易である.各配電線によって電力供給される地域を単位とすると,各配電エリアの15~20分の1程度のエリアを地域単位とする電力供給量のモニタリングが可能」とある。この記録は「リアルタイム」である。少なくとも、配電用変電所には、電力供給量リアルタイムの情報が存在するのは、これで明らかだ。

 今回の東京電力エリア内での「電力需要逼迫」を前に「効果的・合理的節電」をするための情報を求めてから3週間ほど経過したが、東京電力からは何の情報提供もない。必要な情報をただちに提供してもらい、この夏の「電力使用量のリアルタイム開示」に踏み切る決断を求めたい。いまだに不思議なのは、こうした情報は私が探すのではなく、電力事業者であり、この夏の「電力需要逼迫」の第一当事者である東京電力が総力をあげて提供するべきものなのではないか。ものを知らない側が詳しく調べ、すべてを知っている側が知らぬふりをするということでは、事態は進展しない。

 明日には、東京電力からの2回目の返答があるとのことだが、「配電用変電所でリアルタイムの電力供給量を把握しながら、なぜ数値化=グラフ化出来ないのか」を聞いてみたい。

  
 



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