人口88万人の世田谷では、全国的な高齢化社会の到来と共に、この10年間は生まれてくる子どもの数が増えて合計特殊出生率も上昇傾向にある。平成14年(2002年)に5880人だった出生数(合計特殊出生率0.77)は、8年後の22年(2010年)には7289人(0.95)となっている。それにともない、待機児童の数も平成19年の249人から増加し続け、22年には725人となった。保育サービス定員も、21年622、22年1269、23年680と増やしているが待機児童の数は減らず、子育て世代から深刻な声が届いている。
この間、注目しているのが家庭的保育事業である。平成22年の改正児童福祉法によって新たに「家庭的保育事業」が法定化された。世田谷区でもさっそく、共同住宅の一室を利用した「家庭的保育事業」を23年4月より6カ所でスタートさせている。 →「世田谷区の家庭的保育事業(保育所型)」
ところが、その後の整備はストップした。世田谷区の家庭的保育事業が始まった前日に総務省消防庁予防課長からの通達が発せれた。この通達は、現に居住する家屋を利用して少人数の保育を行う場合は、実態として下宿や共同住宅として扱う。ただし、居住者がおらずもっぱら保育のためにもうけられた場合は、業態として保育所と同様として扱うという趣旨のものであった。
世田谷区でこれから増やしていこうとしたのは、マンション等の共同住宅の部屋等を利用した少人数保育だったから、「自宅で複数の子どもを預かる」形式の保育ママではなく、「保育のためのスペースを確保して複数の新保育ママが少人数の子どもを保育する」ものだから、「保育所」ということになる。区の建築部局によると、保育所ということになれば、用途変更の手続きが必要であるということで、そう簡単に認められるものではないと考えてきたのだ。
ところが、厚生労働省は「家庭的保育事業ガイドライン」を作成しており、そこに記載されている設置基準は以下のようなものである。
[実施墓所・設置基準]
家庭的保育事業は、家庭的保育者の居宅その他の場所であって、次に掲げる要件を満たすものとして、市町村長が適当と認める場所で実施するものとすること。
① 乳幼児の保育を行う専用の部屋を有すること。
② 乳幼児の保育を行う部屋は、その面積が9.9㎡以上であって、採光及び換気の状況が良好であること。ただし、3人を超えて保育する場合には、当該部屋の面積は、3人を超える児童1人につき3.3㎡を加算した面積以上であること。
③ 衛生的な調理設備及び便所を有すること。
④ 事業実施場所の敷地内に幼児の遊戯等に適する広さの庭(これに代わるべき付近にある公園等の場所を含む。)を有すること。
⑤ 火災警報器及び消火器を設置するとともに、消火訓練及び避難訓練を定期的に実施すること
厚生労働省が改正児童福祉法に盛り込んだ「家庭的保育事業」は、これ以上のことを定めていない。ところが、同省の設置基準の枠内で続けて家庭的保育事業の場を拡大しようとしても、消防庁通知をふまえると建築基準法上そう簡単に認めるわけにいかないという建築部局の見解があり膠着状態となっていた。
そこで現在、厚生労働省と総務省消防庁、そして国土交通省住宅局に、それぞれ見解を求めているところだ。せっかく法定化された家庭的保育事業も、制度はあっても実際にはつくれないということでは「待機児解消」には何ら結びつかない。何とか省庁間で見解をそろえてもらい、問題点を明確にした上で、できるだけ早く再整備を始めたい。
