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 あれから1年が巡った。私は、被災地支援をしてきた世田谷ボランティア協会のセミナーに立ち寄り、その後に赤堤小学校で行われた町会主催の「地域チャリティコンサート」で住民の皆さんと共に2時46分、追悼の祈りを捧げた。メディアは特集番組一色になっているが、これからの関心の拡散や一段落感が怖い。

「3・11」と呼ばれるようになった東日本大震災の瞬間、私は児童養護施設出身の若者たちの自助組織であるNPO法人「日向ぼっこ」にいた。「タイガーマスク現象」とクローズアップされた児童養護施設の現状と、18歳以後の若者たちが乗り越えていかなければならないハードルの高さに注目し、何回かにわけて週刊誌に記事を書くことにしていた。文京区湯島にあるここでは、児童養護施設の体験を持つ若者たちが週に何度か食卓を囲んで食事をしたり、ハイキングに出かけたりという活動をしていて、私はたしか3回目の訪問だった。

インタビューを終えると、突然にテーブルがガタガタと揺れだして激しい振動が襲ってきた。目の前に置いてあったテレビが倒れないように抑え、ベランダ越しにパンパンと瓦が飛ぶのが見えた。冷蔵庫が1メートルぐらい滑り出て、時計が落ちてきたが、それ以上の被害はなかった。やたらと、揺れている時間が長かったのを覚えている。

地震がおさまると日常へと回帰しようとする。インタビューをした若者は仕事の時間だと出かけ、私もほどなくここを後にした。まさか、交通が途絶するとは思っていなかったが、地下鉄を使うのは怖かったのでJRの駅をめざして歩き始めた。途中、秋葉原駅近くで道路に大勢の人々が出て激しく揺れるビルの大型アンテナを見ていた。強い余震が起きていたのだった。メイド喫茶からも女の子たちが出てきて不安げに時を過ごしていた。また、簡易ベットに乗せられた病人も道に出ていた。

私は神田にある知人の出版社にたどり着いた。当面、交通機関は動かないものと判断したからだが、ここで一夜を過ごすことになる。夕方から夜にかけて何度も地震があり、「これは普通の地震じゃない」と社主と話し合っていた。最初に見た原発関係のニュースは「福島第一、第二原発でも緊急停止」というものだった。しかし、テレビは想像を絶する巨大津波の映像をすでに流していた。「原発関係で官邸に動きあり」という情報が入ってきたて、やはりイヤな予感がした。

 それからは原発事故の行方を追った。テレビ、そしてネットとツイッター、そして国会とメディアが情報源だった。「最悪の事態」に向かって事が動いている」と思いつつ、何とか再制御に成功してほしいと祈った。その後、何があったのかを詳述する必要はないと思う。後に桜井南相馬市長と会って改めて知ったが、原発関係の情報は東京電力からも、官邸からも何ひとつ入らず、入ってきたのはテレビニュースだけだったという。

 あれから1年。多くの人が「あの日から人生観・価値観が変わった」と言う。私もそう語ってきたひとりである。しかし、私の中で何が変わったのか。変わらないのは何かを昨日から考え続けている。浪人政治家+ジャーナリストという立場から、88万自治体の長であるという立場は大きく変わった。日々の仕事は具体的であり、諾否を判断して結果を出していく仕事でもある。しかもその判断は、個人の判断ではなく、行政組織の判断である場合がほとんどだ。個人の判断よりも慎重に、また多面的な検討をへることになる。

 しかし、大地震と大津波を防ぐことは出来なかったが、原発事故だけは防止することが出来た。しかも、私自身が国会で柏崎刈羽原発を襲った地震の現場を2回見ていることから、あの揺れの瞬間から「原発事故、最悪の事態」が脳裏をよぎった。この社会が、原発重大事故はないということを前提に動いてきたし、今も実はそれは継続している。「福島第一原発のような事故はもう起こらないだろう」という感覚を私は共有出来ないが、ぐいぐいとその方向に世論を引っ張る人たちの力は侮れない。

「3・11」から1年。一方で世論も変わった。「原発はクリーンエネルギー」という主張はさすがに後退した。私たちの役割は、原発依存から早期脱出だろう。そのために、具体的で実現可能なビジョンを描いていく努力を続けたいと思う。そのように考えると、価値観は「3・11」以前とあまり変わっていないかもしれない。変わったとすれば、人生観かもしれない。多くの人の生命が奪われ、そして住み慣れた故郷を離れなければならない多くの人々。日本列島に広がる受難の現実は「日常感覚」を打ち砕いて、新しい生き方を求めていると感じているそのことが、一番の変化かもしれない。

 

 

 



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