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(上から続く 2010年保坂原稿からの引用の後半です) 

 

政権交代後、初の検察官適格審査会は今年の2月に開かれた。ここでは、1847人の検事、819人の副検事計2666人の検察官全員にかかる定時審査が行なわれた。

 

審査会委員のひとりは、「相当時間をかけて説明を受けました。病気休職の検察官の中で、メンタル面での故障を訴えるケースが多いのでびっくりした」。「過敏性衰弱状態」「うつ病」「抑うつ状態」「心身症」「重度ストレス反応」などの症状名が目立ったという。

 

次に「国民からの申出事案」の検討に入る。審査会が随時審査に入るか否かを、事務局の説明を聞きながら決める。9人の申出人が13人の検事・副検事について訴えている概要を記した一覧表が配布された。 申出人の中には、被疑者も含まれる。法務省の事務局が作成した事案の要約を見ると、どこかで聞いたような話が並んでいる。

 

「捜査担当検事は、被疑者である申出人の弁解を聞くと言いながら全く聞くことなく、公正な捜査を約束するから供述調書に署名しろと迫り、信義に反する供述調書を作成するなどした」

 

「捜査担当検事は、申出人に累犯前科があり、有罪となれば実刑になるのに、『罪は重くなり罰金刑はないが、建造物損壊罪で執行猶予をもらった方が楽であろう』と旨その説明をし、申出人を誤信させて建造物損壊罪で起訴することに同意させた」

 

「捜査担当検事は、取り調べの際、事実と異なる供述を強要する言動を繰り返し、これに申出人が応じないと人格を否定するような暴言を吐くなどをした」審査会の結論は、これら「国民の申出事案」はすべて審査をする必要がないとのことだった。

 

「事務局が提出した資料をひとつひとつ説明を受け、聞いていくと、どれも審査に至るまでの理由はないと思えてきた」とある委員。驚くべきことに、国民の申出を受けて随時審査を開始したことは審査会の歴史の中でいまだにないという。

 

事務局の説明に疑問を持ったとしても、判断材料は審査会に提出された資料のみだから、「審査すべしと突っ込むのは難しい」(委員)とのこと。

 

 ただ、与党民主党の委員からは「検事である法務省の皆さんが身内の調査で『問題なし』と決めているのはではおかしい」との意見は飛び出した。「きちんとやっていますから」と事務局は答えたという。

 

しかし、国民に公表されていない「検察官適格審査会運営細則」を法務省から入手して読んでみると、制度的な不備があることが判った。審査会の審査は、全検察官を対象とした定時審査と、国民からの申出を審査する随時審査に分けられる。

 

定時審査にあたっては、「不適格の疑いのある検察官」に対して、関係者からの事情聴取、関係機関からの資料提出を求めることが出来るとある。さらに、調査の必要がある時には弁護士その他の専門家に調査専門員を依頼することが出来て、また審査会を代表して1人以上の委員が調査を進めることも出来る。また、調査対象の検察官から弁明や反論の機会を設けることも出来るなどの手続きが書かれている。

 

しかし、国民からの申出のケースは、法務省大臣官房人事課長が「審査会が審査するか否かを判断する材料をそろえて、調査内容を添えて審査会に提出すべしとなっている。審査会委員は、法務省の調査を踏まえて「審査開始か否か」を決定する仕組みになっている。 

 

国民からの申出による随時審査を始める前に、定時審査と同様にブロジェクトチームを編成し、外部の弁護士や専門家を入れて調査を行なうことは可能なのか。

 

「随時審査に入る場合は可能です」(法務省大臣官房人事課)だが、これまで随時審査が議決されたことがない。「法務省に出向している検察官による検察官の身内の調査」を乗り越えて審査会の独自調査が行なわれ、随時審査に入る資料をそろえる仕組みは整っていない。 

 

 1970年代半ば、審査会が活発に開かれた時期があった。この頃、国民からの申出があっても、34年たなざらしにして累積している状態だった。集中した審査会では、国民からの申出があった件について何度も事務局に再調査を求めている。

 

「臨月の女性を取り調べ、腹痛を訴えるのを無視した副検事」「公害問題は反体制運動に利用されていると記者会見で発言した名古屋高検検事長」「宅地を不正入手した検察官」などだが、検事長と宅地不正入手の疑いがあった検事は、審査会の結論が出る前に辞任した。

 

 この時代も、「随時審査」を開始したのではなくて、その手前の予備調査を審査会が事務局に指示して議論したというものだ。これは、審査そのものと呼んでいいが、法務省では「国民の申出」を随時審査させないために事務局を握っている。

 

 検察官の職務能力や資質の適格性は検察官適格審査会が目を光らせるというチェックシステムは機能不全に陥っていた。長年の自民党支配の因習で数時間の会議に座って「問題なし」とうなずいていればいいという通過儀礼の場となって久しい適格審査会がこのままでいいわけがない。

 

「検察官適格審査会は、しらべれば調べるほど使えます。検察官監視の制度改正の前に、制度設計通りに機能するかどうかを徹底的にやってみたい」との声が、民主党法務関係者からあがっている。

 

 検察官適格審査会は、戦後占領軍(GHQ)の司法改革の一貫として導入されようとした「検事公選制度」を潰すために、当時の政府が出した対案としてつくられた。国民の代表が検察官の暴走をチェックするふりをしながら眠りこけてきた関係者の罪は重い。旧習を打破出来るかどうか、国会議員も含めた審査会委員の機敏な行動

と覚悟が問われている。

 

〔引用終了〕

 

 この数カ月、「検察をチェックする機関が日本には存在しない」などの言説を聞くたびに不思議に思ってきた。少なくとも、63年眠りこけてきた審査会が審査を開始すること自体が大きなニュースである。もちろん、審査会が「検事の罷免」という究極の議決しか出来ないなどの審査上の問題点もある。しかし、審査を進めながら新たなルールをつくる以外にないだろう。

 

 

 

 

 



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