hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

川上未映子『安心毛布』を読む

2013年06月13日 | 読書2

川上未映子著『安心毛布』(2013年3月中央公論新社発行)を読んだ。

川上さんは、こんな社会で子供をつくることに疑問を感じていたが、現在は、夫の阿部和重氏と子供と暮らして、忙しい執筆の傍ら、家事(料理以外は完全分担制だとTVで語っていた)などこなしている

妊娠・出産・子育てと、予想外な新生活の中でこころとからだに起きた大変化を綴る、著者自身もおどろきの最新エッセイ集。書き下ろしエッセイ「お料理地獄」収録。



タイトルの“安心毛布”は、どうしても触ってないと安心して眠れない毛布の端っこなど。ぼろきれ抱えて出張に行くひげ生やした男がときどきいますよね。

この本には、幸せそうな生活が多く書かれていて、順調そのものにみえる未映子さん。24歳で上京して売れない歌手の数年間があった。スタッフには恵まれて、できるだけのことはやってみるが、結果は出ない。お金がからむだけに、支えてくれる人たちに申し訳ないが、世界から用がないといわれているようでもあり怖かった。

何かひとつ、誰にもわかってもらえない自分だけの大事なものを見つけることが、明日また、学校や職場でがんばるためのちからになると思うのだ。

孤独の豊かさを知らなければ、何人と遊んでいたって満たされない。ひとりきりを過ごすことができなければ、誰といたって安心できない。

偏りがあって、誰にもわかってもらえない部分を、持っていて、それを相手に押し付けることもせず、ただ、それが自分にとって宝であることを自覚している人たち。



初出:読売新聞連載「発光地帯」他各種メディア



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

何ということないと言えば言える日常を描いている。ただ、川上さんらしい感性と、やわらかな女性らしい文章は健在だ。
まえがきに代わる冒頭はこうだ。

春のかたち
昨日は郵便受けのなかみをとりに外に出たら、そんない寒くなくてもう春なんだなと体がういた。胸のあたりがまるく疼いて、春が皮膚にくっついた、飲む水に色、みえるものに曲線。この連載では、そういうもののこと、たくさん書いてきたようなそんな気がする。



こんな文章があって、私も、そうそうと思い出した。

村上春樹さんの短編「納屋を焼く」に出てくる、パントマイムがとても上手な女の子をどうにも思い出してしまう。彼女はパントマイムでみかんの皮を次々にむいてみせるという「みかんむき」をバーかどこかで何気なしにさらりと披露して「うまいね」と驚く主人公に対して「簡単よ、蜜柑がそこにないことを忘れるの」というような素敵な台詞を言ったりしていた。



川上未映子の略歴と既読本リスト





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