hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

絲山秋子『沖で待つ』を読む

2013年04月04日 | 読書2
絲山秋子著『沖で待つ』(文春文庫い62-2、2009年2月文藝春秋発行)を読んだ。

「勤労感謝の日」「沖で待つ」「みなみのしまのぶんたろう」の合計3編の短編集。文字、字間、行間も大きい174頁と解説10頁で極薄い。

「勤労感謝の日」
とんでもないことで失業中の36歳の女性。近所の世話になった小母さんの義理でお見合いする羽目になる。相手の第一声が「スリーサイズ教えてくれますか?」。「日本経済は結局僕ら大企業が支えているわけですよ」とのたまう男。

「沖で待つ」
住宅設備機器メーカーに女性総合職で入社した私と太っちゃんは、同期で、最初の赴任地が同じだった。特約店、設計事務所、クレーム現場を回りゼロから営業を学んでゆく。そんな中で同期の連帯感を深める2人。
バカにされ、可愛がられ、奮闘する布袋様のような太っちゃんは、意外なことに、何を聞かれても即答する事務の井口さんと結婚する。私は言う。「井口さん、捨てないでやって下さいね、かわいそうだから」
バブルの頃は新築物件が多く、私たちは注文をさばいて、クレーム対処するだけで精一杯でした。・・・やっとのことでキリをつけて、朝3時とか4時にタクシーに乗っていると何台もの屋台が帰っていくのを追い越して、なんで屋台は夕方からなのに私たちは20時間も働かなければならないんだろうと心底嫌になりました。


「みなみのしまのぶんたろう」
田園調布という町に「しいはらぶんたろう」という・・・ブンガクをやったり、ヨットにのったり、マツリゴトをしたり・・・と始まり、総理大臣の弁当を盗み食いした事が見つかって、南の島に左遷され、その島での生活をするぶんたろうの話。漢字なしで読みにくく、途中でパス。

初出は、勤労感謝の日:文學界2004年5月号、沖で待つ:文學界2005年9月号、単行本:2006年2月、みなみしまのぶんたろう:エソラvol.3 2006年3月



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

著者のINAXでの長年の経験が生きていて、職場での会話、会社の給湯室での話や、型番の説明、トラブル対応など、仕事での日々は具体的に生き生きと描かれている。

ドジだが、一生懸命なだけ、余計可笑しい太っちゃんが良く書けていて、笑える。漫才に近い小説で、「これ、芥川賞?」。

子供が出来て井口さんが会社を辞めることになると、「太っちゃんが辞めて子育てすべきだ」「あいつに生ませろ。あの腹ならいけるよ絶対」といわれる。

「福岡になれてくると、だんだん学生時代の友達とは話が合わなくなって来ました。」



絲山秋子(いとやま あきこ)
1966年東京生まれ。早大・政治経済学部卒後INAXに入社し、営業職で数度転勤。
1998年に躁鬱病を患い休職、入院。入院中に小説の執筆を始め、2001年退職。
2003年『イッツ・オンリー・トーク』で文學界新人賞を受賞。芥川賞候補。
2004年『袋小路の男』で川端康成文学賞受賞。
2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。『逃亡くそたわけ』で直木賞候補。
2006年『沖で待つ』で芥川賞受賞。
他に、『ばかもの』『北緯14度』など。


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