中日春秋 (2021年7月11日 中日新聞) 

2021-07-11 11:20:08 | 定年後の暮らし春秋

中日春秋

2021年7月11日 中日新聞
 落語の「唐茄子(とうなす)屋政談」を聴いていると親が子を絶縁する、かつての「勘当」とはかくも過酷なものかと思う
▼吉原通いが過ぎ、勘当となった若旦那。食うに困って親類の家々を回るが、若旦那の父親から面倒を見てはならぬと手が回されており、どこの家でも追い返される。結果、若旦那は吾妻橋から身を投げようとする。身から出たサビとはいえ、この父親のやり方も恨みたくもなる
▼批判を受け、撤回したとはいえ、政府の発想はこの父親と同じだろう。新型コロナウイルスの感染対策で酒類の提供停止に応じぬ飲食店に対し取引のある金融機関から働き掛けを行わせようとした問題である
▼資金を頼る銀行からの要請なら言うことを聞かざるを得まい、という冷たい計略だろう。同じ手は酒の販売業者にも使われており、ルールを守らぬ店との取引を見合わせるよう求めている
▼いつまでたっても収まらぬコロナを思えば、店側にはルールを守ってほしいが、酒を出さなければ店が立ちゆかぬという事情もあろう。あちこちに手を回し、こうした店をただ追い詰める政府のやり方は見ているだけで息苦しい
▼あの噺(はなし)では叔父さんが父親に逆らい、若旦那を助けたが、政府がすべきはルールを守れぬ店側の事情をよく聴き、必要な対策を講じることだ。こんな脅しが続くのなら、国民の方が政府に「勘当」を考えるようになる。