高プロ、労働者置き去り 働き方改革法成立(2018年6月30日中日新聞)

2018-06-30 09:25:58 | 桜ヶ丘9条の会
高プロ、労働者置き去り 働き方改革法成立 

2018/6/30 中日新聞

 働き方改革関連法の成立で創設が決まった「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」は、労働者の健康を守るため働く時間を制限してきた労働法制の抜け穴になりかねないとの指摘もある。審議を通じ、過労死を招く長時間労働の不安が解消されなかったばかりか、経営者側の期待に沿う形で導入が進んだ実情が裏付けられた。

■対象外

 「高プロは過労死の危険が極めて大きい。過労死遺族から声を聞かず、創設することは絶対許されない」

 二十九日の参院本会議で国民民主党の浜口誠氏は、過労死遺族団体の面会要請に応じなかった安倍晋三首相の姿勢を厳しく批判した。だが首相は、記者団が「過労死遺族の反対の声もある」として法成立の感想を求めたのに対し、「多様な働き方を可能にする法制度だ」と答えるにとどめた。

 衆参両院で七十時間近い審議では、高プロの問題点が次々と明らかになった。

 最も懸念が指摘されたのは長時間労働だ。働き方改革関連法は、月百時間以上残業させた企業などへの罰則を新設したが、高プロは対象外。加藤勝信厚生労働相は、月二百時間超の残業でも「直ちに違法ではない」と答弁した。

■交渉力

 対象について、政府は年収千七十五万円以上のコンサルタントなどと説明したが、この年収要件は、通勤手当や住宅手当も含めて計算する可能性があることが判明。年収要件も対象業種も省令で定めるため、将来、法改正を経ずに拡大される恐れもある。高プロ導入を提言した政府の産業競争力会議で民間議員を務めた竹中平蔵・東洋大教授は、本紙に「個人的には拡大を期待している」と話した。

 政府は、高プロ適用には本人の同意が必要で、撤回できる規定もあると強調。高収入の専門職が対象で「(企業との)交渉力が高い」とも主張したが、野党から「本当に断れるのか」「年収が高ければ交渉力があるとなぜ言えるのか」などと多くの疑問が出た。

 企業には、高プロで働く人の実労働時間を把握する義務がない点も問題に。一般労働者と異なり、高プロで働く人は、会社に滞在した時間と社外で働いた時間の合計を「健康管理時間」として記録する。休憩時間などを含んでおり、実際に働いた時間は分からないため、過労死しても労災申請すら困難との指摘が出た。

■だれが

 さらに大きな論議になったのは、だれが高プロ導入を望んだのかという点だ。

 労働者の声を把握したのかという野党の追及を受け、政府は、ヒアリングしたのは五社十二人だけで、いずれも企業側が選んだ人物だったことを説明。二〇一五年四月に前身の法案を国会提出する前に聞き取ったのは一人だけだったことも明らかになった。首相も「適用を望む企業や従業員が多いから導入するものではない」と国会答弁で認めた。

 野党側は、経団連が以前、年収四百万円以上の事務職を労働時間規制から外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」を提唱した事実に言及し、同じ仕組みの高プロも「コストを削減したい経済界が望んでいるのであって、働く人は望んでいない」と批判した。

 一方、参院厚労委で参考人を務めたコンサルタント会社ワーク・ライフバランス(東京)の小室淑恵社長は、高プロは企業にとっても良い人材を逃がすリスクがあると指摘。導入したい企業は「ほとんどない」とみている。

 (木谷孝洋)