だりや荘 (文春文庫)井上 荒野文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
味わいは、最初に読んだ作品に似ている。
自然に、なにげなく暮らしているが、秘密・嘘に満ちていて、とっくに気が付いているのに、問詰めもしないし、修羅場も起こらない。
しかし、修羅場に突き進む予感に満ちていて、危うい印象と、破滅への予感でページをめくってしまう!!!!
民宿「だりや荘」を経営していた両親が、自動車事故で、死亡。この事件が母親により無理心中ではないかとの、疑惑も浮かんでくるのだが・・・・・・・・。
この両親の次女夫婦が、経営を引き継ぐために東京から移り住む場面がはじまり。
長女・椿は、次女杏とは、まったく異なる美しさを振りまいているし、迅人(ハヤト)、妹の旦那とも通じている。
「妖精とか蜉蝣みたいとか人はよく私のことを言うけれど、実際はふてぶてしいヒキガエルなのだ。」・・・・って、自分で言っている。
「も」っていうのは、お見合いっした婚約者がいて、会いに上京したりしているんだが・・・・。
姉の嘘・夫の嘘・妹の嘘が、微妙に絡みあい・発展していく。
その嘘と嘘が重なり合うところに生まれる、静かなる緊張。
この緊張感こそ、この小説っていうか、井上荒野さんの真骨頂だと感じる。
民宿の奥にある源流に誘う迅人。誘われた椿は、贖罪の気持ちを持ちながらも、「知っていて(いいわ)と答えて、そのあと自分の部屋に戻ると、新しい下着をつけ、こそこそと家を出て源流へ向うバスに乗ったのだ。」
しかし、三角関係のドロドロの愛憎劇には決してならない。
愛憎が入り乱れる、身勝手な方便は、どこにも出てこない。
「静劇」静かなる物語。
だれもが互いに、相手を傷つけまいとし、行動する。
気遣いの嘘。
すべてを白日のもとに晒すと、両親の無理心中につながっていくことが、姉妹はわかっているのだ!!!!
恐ろしくも、静かで、大人の物語を味わうなら・・・・・・。これもいい。