北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える⑩ 第一線部隊の情報処理・指揮統制能力強化

2012-07-12 23:10:50 | 防災・災害派遣

◆データ通信能力有する新指揮通信車が必要
 南海トラフ地震、特集第二回において広大な被災地へ災害派遣部隊の通信確保問題を提示しましたが、この関連でもうひとつ。
Nimg_5791 南海トラフ地震は想定される最大規模で発生した場合、中部方面隊管区を中心に東部方面隊管区、西部方面隊管区が大きな被害を受ける事となるでしょう。当然全国からの部隊が災害派遣へ支援へ展開しなければならなくなるのですが、これら災害派遣増援部隊の指揮統制を行うにあたって、現状の82式指揮通信車の通信能力は充分な水準なのでしょうか。
Nimg_2522 NBC偵察車が、現状の82式指揮通信車派生型の化学防護車よりもかなり大型のものとなっており、こちらのNBC防護車の車体を流用し情報指揮車として制式化することはできないのか、という素朴な疑問が湧いてきます。車体は大型ですので、大型モニターやPCを配置し、指揮官が画像情報を得ることが出来ますし、発電能力の余裕にも期待できるものがあります。
Nimg_3558 82式指揮通信車は、特科部隊の指揮通信用に導入されたもので、間接照準射撃を行う特科部隊には情報通信の迅速な伝送と共有が必要ということから導入当時としては高度な情報通信能力を有していました。しかし、制式化された1982年から今年で30年を経ています。特に当時としては一般的であった音声通信に重点を置いていることから、データ通信が行えない実情はかなり大きな問題となるかもしれません。
Nimg_1634 82式指揮通信車は231両が生産されており、将来装輪装甲車体系に後継車両の導入が計画されています。無線通信装置、今は多少変わっていることでしょうが82式指揮通信車には69式車両無線装置JVRC-F6(85式車両無線装置?),66式中無線装置JAN-GRC-N1/N11、71式軽受信機JAN/GRR-N4,車載装置JMT-N49が装備されています。この82式指揮通信車は駐屯地記念行事において体験乗車の定番ともなっていますので、乗られた方も多いかもしれませんが、車内には地図ボードと座席があり、音声情報を地図に書き込んでゆくという方式となっています。
Nimg_2043 東日本大震災では10万もの部隊を展開させ、任務に当たりました。さて、話を少し前に戻しますが1995年の阪神大震災において最も多くの被災者を瓦礫の下から救い出したのは被災地に近い伊丹駐屯地の第36普通科連隊ではなく、信太山駐屯地の第37普通科連隊でした。これはひとえに情報の集約を徹底して行ったため、ということを聞き、驚いたことがありました。
Nimg_4749 阪神大震災発災後、第36普通科連隊は近傍災害派遣を実施、阪急電鉄伊丹駅が高架ごと倒壊しており被害の大きさを即座に認識したとのことです。ここで36連隊長は管区内の被害状況の情報を迅速に収集し、特にどの地域へ集中して部隊を投入しなければならないのかを把握、第36連隊が兵庫県を管区とし、対して第37連隊が大阪府を管区としており、こちらから部隊を集中投入することで人命救助に寄与したとのことです。
Nimg_4137 72時間。さて、被災者が倒壊家屋の下での生存を維持できるのは発災後72時間が大きな目安となるそうです。さて、この72時間までに人員救助を完了させなければならず、だからこそ陸上自衛隊は基盤的防衛力として全国に部隊を配置しているわけです。一定の規模であれば管区連隊で対応し、これを超える規模の大規模災害に際しては師団など上級部隊の支援を、この上の規模に際しては方面隊や、これよりも上級部隊の支援を受けるというもの。
Nimg_0258 この中で、広く支援を受ける場合は、迅速に部隊が展開できなければこの72時間に間に合わなくなってしまうのですが、どの部隊を、どの地域へ、どの支援と共に投入させるのか、という指揮を如何に行うのかが重要となってくることは間違いないでしょう。この点で、かなり大きな問題となるのは現在の指揮通信車が通信能力が充分ではない、というものです。
Nimg_3908 上記のとおり、82式指揮通信車は四基の音声無線機で得た情報を順次地図ボードへグリースペンで書き込んでゆくという方式で情報を集約するのですが、現在の時代となりますと、もう少し優れた情報処理手段は無いのか、という点が気になってきます。もちろん、基幹連隊指揮統制システムを採用している部隊においてはもう少し進んでいるようですが、車体をもう少し大型化させたもので、画像情報を含め一定以上の通信帯域を衛星通信を含め確保し、画像情報、映像と地図情報を一致できるようしなければなりません。
Nimg_8873 特に無人航空機の一般化により自衛隊は小型無人機による上空からの情報を今後多数共有するようになります。無人機を以て上空から情報収集を行ったとしても、情報収集した情報を操作端末を有する場所まで展開して把握しなければならない、というのは余りに非効率ですし、連隊の管区は一都道府県という広大なものですので、情報を伝送し受信できなければなりません。
Nimg_5558 また、無人機からの情報伝送は、勿論師団通信大隊からの支援を受けなければならないのですが、駐屯地から前進し、運用を行う場合においては、被災地へ向かい走行中であっても情報を得て指揮官の判断に必要な情報を得ることが出来たならば、他管区から増援部隊として派遣される状況に際しても、到着後時間をおかず即座に救助人へ加入することが出来るでしょう。
Nimg_7984 東日本大震災では、被災地近傍の駐屯地が停電により電源喪失し、発電能力も喪失したため指揮官は無線情報を順次ボードに書き込む方式で情報収集に当たったのですが、情報の濃霧というべき状況に落いり隔靴掻痒という苦境の中で任務に当たったようです。ここで発電能力が充分ある指揮車において任務を展開していたならば、もう少し情報は得られたかもしれません。
Nimg_6012 このほか、これは先ほど記載しましたが、被災地へ急行する途中の部隊であっても車内において情報を収集し指揮統制を発信し受信することが出来たならば、例えば被災地へ遠方の駐屯地より、取り敢えず現地へ急行せよ、という英霊を受けると共に展開する車内にて派遣部隊の展開地域の命令を受け、必要であれば派遣される車上において戦闘序列を画定、大まかな現地での任務と捜索手順を構築することが出来るでしょう。
Img_0002a 理想的な状況は、指揮官が被災地へ向かう途中に、被災地の具体的展開地域を配分され、その後に連隊長が車内から、被災地上空の観測ヘリコプターや無人偵察機からの情報をリアルタイムで入手し、必要な支援部隊の要目を上級司令部へ要請すると共に、防災無線を通じて現地の自治体防災担当者と情報を得たうえで車両の待機位置等を把握する、こうした方式がもとめられるところ。
Nimg_2546 自衛隊としては、指揮通信車の新型は結局のところデータ通信能力を欠いている状況は問題となりますし、防災用として重要な車両と言う点を強く推すことで、ある程度予算査定において強みを持つことが出来るかもしれません。ただ、車体が大型となっていますので、戦闘時の生存性については考慮するべき部分が出てくるのかもしれませんが、派遣部隊の迅速な任務対応へ必要性は大きいと考えます。

北大路機関:はるな

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