北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える⑨ 津波と地盤沈下、市街地長期浸水への対処

2012-07-03 23:15:29 | 防災・災害派遣

◆大阪水没という厳しい現実へ如何に備えるか
 宗谷海峡をロシア艦26隻が通過したという情報が入ってきましたが、艦種などは情報収集中で、本日は防災記事の方を予定通り掲載します。南海トラフ地震への備え、この特集記事はそもそも津波対策へ高機動車の水陸両用型の必要性を提唱したところから始まりました。
Nimg_2366_1 我が国は湖沼地帯と河川が少なくはなく、その点もう少し推理雨量用装備があってもいいと思うのですが、今回改めて、水陸両用車両としてBV-206の導入、その必要性を強く提示したいと考えます。78式雪上車、資材運搬車の後継車両としてBV-206を導入する、という必要性の提示。何故改めて、と問われるでしょうが、大阪が水没する危険性があるためです。具体的には大阪市大正区と此花区、尼崎市臨海部、堺市臨海部の海抜ゼロメートル地帯、ここが地震と津波被害により長期浸水の被害を受ける危険性に着眼しなければならない。
Nimg_0704 BV-206,全地形車両。手元に撮影した写真が無いため恐縮ですが、航空自衛隊が佐渡と輪島という険しい地形の防空監視所に配備し、山頂のレーダーアンテナ部分への補給と交代人員輸送に活躍させている車両です。幅広の履帯を有する連接車両で、操縦区分と兵員室が二両編成のように連接構造を採った連接車両構造であることから屈曲させることで車体の超壕能力が高く、傾斜地においても重心が低いため横転の危険性は他の車両と比較すれば非常に低い。そして雪上車ですが、湿地帯での運用を想定しているため水陸両用性能があるのです。
Nimg_6654 大阪が沈んでしまう、信じがたいことではありますが、大阪市のある位置がどのように都市開発が行われたかを思い起こしますと、全域ではありませんが中心部について、沈む可能性は無視できないのです。南海トラフ地震は、これまで、想定される最大規模の水準を過去最大ではなく有史以来最大規模という念頭に依拠したものであり、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震は、貞観三陸地震という千年前の地質学的情報ではなく、明治三陸地震を念頭に歴史上の地震への対処を主眼としたことに、想定外という単語を使わなければならなくなったという厳しい実情を忘れてはなりません。
Nimg_7454 さて、大阪、です。水の都大阪、と呼ばれる大阪はそもそもかつては難波まで海でした。難波、という地名が全てをものがっていまして、上本町と大阪城周辺が緩やかな丘陵地帯になっているほかは豊臣秀吉の土地改良により発展した街です。かつては難波まで船で行けたので、その名前が付けられたのですが、難波はいまや大阪の中心地です。そして、中世以降、大阪が直接大被害を受ける津波被害というものは存在せず、我が国の防災対策は大阪水没という危険性を度外視して防災計画を構築してきました。
Nimg_0949 しかし、南海トラフ地震は最大規模で発生した場合、梅田と難波まで津波被害を受けるという想定を政府や大阪府が示したわけです。記録が残るという意味での有史以来発生していない規模の津波ではありますが、地質学の観点からは過去に発生しており、今後についても地質学上は発生する津波ということ。大阪市大正区の人口は68000名、此花区の人口は66000名、発生した津波に対して大阪は大都市であることから中層建築物へ避難することにより大半の住民は津波から逃れることはできるでしょう。一方で道路は破壊自動車と崩壊木造建築物の瓦礫により完全に封鎖されます。
Nimg_1914 警戒しなければならないのは、海抜ゼロメートルという地形、ここで地震による地盤沈下が怒ったならば、市街地の最も低い部分、つまり道路が長期間にわたり冠水し、自動車の通行が不可能となるでしょう。陸上自衛隊が災害派遣する場合、高機動車はもちろん、軽装甲機動車も水密性が無く水上航行はできません。仮に水上通行が可能な水陸両用車を準備したとしても、水面下には瓦礫と自動車が沈んでいるため、これを乗り越えることが可能な不整地突破能力がなければ、道路を突破することはできません。
Nimg_6426_1 被害を受ける都市は、紀伊水道両岸と豊後水道両岸に四国太平洋岸と広大で、列挙すれば和歌山市、鳴門市、徳島市、小松島市、阿南市、高知市、宮崎市、阿南市と思いつくだけでこれだけあるため、兎に角数が必要になります。専用装備を方面隊直轄で少数装備という方式は成り立たない、というわけです。津波被害は広域被害を引き起こしますから、同時に生じる被災地域の海岸線は非常に長く、それなりの準備が無ければなりません。特に長期浸水、地盤沈下による都市の水没は可能性ではなく実際に東日本大震災により沿岸部水没として現実になっています。
Nimg_2257_1 渡河ボートを用意することで、喫水が浅いことから市街地であっても障害物を突破し前進することはできるでしょうが、市街地には標高の若干な差異がある地形があることを忘れてはなりません。全て水没しているわけではないのです。こうしたばあい、水没している地域としていない地域を複数の渡河ボートにより中継する方式を対処法として挙げることが出来ますが、しかし、これでは乗継に時間と手間を要し急患や重篤負傷者輸送に問題を抱えていますし、水没箇所の数によっては渡河ボートと操作要員が成りなくなる、という可能性は無いでしょうか。
Nimg_3888 96式装輪装甲車が水上浮航能力をもていればよかったのですが。すると、BV-206の出番、ということになります。BV-206は全地形車両として連接車体を用いた不整地突破能力が非常に高い車両です。BV-206であればコンクリート建造物が倒壊して道路を塞いでいる場合であっても、垂直でなければ瓦礫を乗り越えることが出来ますし、長期浸水で水没した道路上に障害物となる自動車だっても、これはもちろん車内の捜索を行った上で、という前提が必要ですが、そのまま破壊して乗り越えることが可能、これならば水没した大都市であっても救援活動が可能です。
Nimg_1361 初動で絶対に救助しなければならない緊急性の高い救難輸送を行い、同時に食糧や電池といった消耗品の輸送に用いれば、続いて展開する、数の上では絶対的に多い消防や警察のボート、徴発したゴムボートや公園のボートで破壊を免れたものを集中させ、後続とすることが出来るでしょう。民間の能力は偉大ですが、危機管理を前提とした余裕、言い換えれば無駄を営利組織として省略していますので、本格始動まで時間を要するのです。だからこそ、この間を自衛隊が支えなければならない、ということ。
Nimg_4404 水陸両用車両は、移動に河川を使うことが出来るということ、これは大きな利点です。道路が壊滅的被害を受けた場合であっても、河川に沿って展開することが出来ます。山岳崩壊は別として、市街地の建造物倒壊が河川を完全に塞いだ、という事例は今のところなく、もちろん津波被害が生じているのであれば、流れの遅い河川などは浮遊瓦礫が滞留し行動を阻害する可能性は無視できないのですが、流れと共に車両が展開できる程度に瓦礫が流れてしまったらば、非常に有力な経路となり得ます。もちろん、津波警報が解除されなければ遡上津波の危険から展開できないのではありますが。
Nimg_8702 BV-206、資材運搬車の後継としての導入ですが、取得費用は間違いなく高くなります。ただ、用途が広く、特に有事の際には相手が到達出来ない地域を迂回できるのですから、野砲以外の直接きゅおういに曝されにくいという利点がありまる。資材運搬車に水陸両用性能を付与してもいいのですが、最高速度が小さく被災地までの進出所要時間に大きな問題があり、結論として適している車両とは必ずしも言い切れません。資材運搬車を水陸両用型とし、エンジン出力を強化して高速性能を付与する選択肢はあるでしょうが、基本はトラック輸送の車両、限界はある。
Img_5898 取得費用が大きなBV-206ですが、自衛隊が導入する場合、災害派遣以外の面での活躍の幅が大きいという点は特筆しておかねばなりません。先ほど少し記載しましたが、全地形車両ですから地図に道路がない地形を突破することが出来、通常の高機動車や軽装甲機動車が進出出来ない峻険な地形を突破することが出来、登坂能力も装輪装甲車はもちろん、装軌装甲車と比較しても高いものがあり、例えば120mm重迫撃砲のような重装備であっても、相手が想定していない地形まで展開させることが可能、意図しない地域を防御線に代えることが出来るのですから、機動防御への重要な装備となるのです。
Nimg_8233 現状で長期浸水地域へ孤立の要救助者が多数残される状況、それも都市部で、と考えますと最悪今津や日本原から戦車を展開させ、渡河装備で使用しなければなりませんが、BV-206であれば使い道は多く、そして防衛出動ではこのほか高機動車から降ろして運用可能な新装備中距離多目的誘導弾も、BV-206により機動運用を行えば、直接照準の誘導弾であることから地形障害によってはその能力を発揮できません。・・・、まあ、中距離多目的誘導弾は発射器以外の位置からの遠隔誘導が可能ですから、無理に全地形車両まで用いて山頂などへ展開させる必要はないのだ、とは言われてしまうのかもしれないのですが。
Img_4266 ヘリコプターが多数あれば、こうした車両の必要性はそこまで大きくないのではないか、とも思うのですが、ヘリコプターは各部隊ではなく師団や旅団、方面隊の装備で展開する駐屯地も数は決して多くありません。加えて、ヘリコプターと比較しますと、ヘリコプターが高いということはあるのですがまだ取得費用は小さくなるわけですが。このほか市街地は電線などヘリコプターの飛行を拒む人口地形障害があるということを忘れてはならないわけで、同時に普通科連隊などに広く配備し、震災への初動能力を高める、という意味ではBV-206に軍配が上がるでしょう。
Gimg_2232 これまで無視されていた地質学上の警告としての大規模津波災害、如何に孤立地域の住民を救出するのか、という問題は、検討されるべきです。同時に前述のとおり、重機関銃のほか人力搬送できない重迫撃砲や中距離多目的誘導弾の運搬と自衛隊の本来任務である防衛警備任務にも寄与するもの、予算的措置は必要ではありまして、なによりも此処が難しいのですけれども、大阪水没という危険性を念頭に、必要なのは各部隊に一定数のBV-206を、文字通り広く薄く配備しなければならない、そう考えるのですがどうでしょうか。

北大路機関:はるな

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コメント (2)
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