北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える② 広大な被災地へ災害派遣部隊の通信確保問題

2012-05-01 23:07:47 | 防災・災害派遣

◆情報優位へ通信確保帯域確保
 南海トラフ地震の想定ですが、四国太平洋岸と紀伊半島から東海道沿岸が津波被害の想定となっています。この場合、陸上自衛隊は災害派遣において通信基盤を維持できるのか、という問題が生じるでしょう。
Yimg_4776 陸上自衛隊は師団通信システムDSCSを装備しています。通信網に複合的な結節点を通信搬送設備により師団隷下に通信大隊を置き、中心の合通機能をもとに星形ネットワークを構築します。師団通信大隊のほか、旅団隷下に通信中隊を配置、このほか方面隊直轄部隊として通信部隊を有しています。通信大隊は二個中隊編制で通信搬送中隊と合通中隊を構成、通信中隊は小隊規模でこの任務を実施し、合通部隊が師団乃至旅団司令部通信を、通信搬送部隊は連隊ごとの無線通信を分散し実施します。
Yimg_1693 しかし、このネットワークに対して被害想定範囲が大きすぎる可能性が危惧されるのです。特に浜岡原子力発電所津波対策において東日本大震災後に新しく想定された津波規模を上回る21mの津波が襲来するとの想定、静岡県でこの被害ですので中京地区と阪神地区、場合によっては京浜地区への津波被害も想定しなければなりません。阪神港、名古屋港、東京港が被害を受ける事で我が国の物流は海上輸送に関して事実上第二次大戦以来の規模で潰滅することとなり、民間通信インフラの恢復まで、工事車両の通行が制限を受けますので大きな問題が生じることは確実でしょう。
Yimg_1934 この地震被害において想定しなければならないのは、津波被害が東日本大震災の倍以上の海岸線に深刻な被害を与え、特に阪神地区と中京地区の被害は人的被害だけでも未曽有の規模に達することが予想されます。もちろん、想定される最大の規模の地震であり、次の南海トラフ地震が想定される最大規模であるのかは別問題とはなるのですが、都市部に加えて閑散地域、復旧に必要な道路や作業要員の派遣基盤がぜい弱な閑散地域の被害が非常に大きな規模となることを忘れてはなりません。
Yimg_1874 東日本大震災では携帯電話基地局が地震と津波被害により電力供給を断たれた状態であってもしばらくは自家発電装置により津新吉局としての機能を維持することが出来、災害の情報通信や避難誘導に対して最後の、しかし最大限の能力を発揮することが出来ました。電波は直進し、見通しの良い場所に配置されることから高い場所に配置されることが多く、これが一つの生存性に繋がったことにもなるのでしょう。しかし、時間と共に自家発電能力には限界が生じ、情報空白地帯が生起、これを中央からの復旧能力による回復が補えないという事案が生じたわけです。
Yimg_2875 あの東日本大震災において大きな教訓として、自治体の通信能力さえも破綻してしまい、災害派遣要請を行おうにも情報孤立というべき状態に陥った、という事例も今後の課題として挙げられるべきです。震災発災後には総務省により全国のアマチュア無線愛好家へ通信機器の供出要請が為され、せめて音声無線による情報基盤の再構築が行われていましたが、近年は画像搬送の能力が平素から充実しており、これに依拠する形での防災基盤が構築されていますので、インフラ、通信インフラが破綻した場合においてもこれらを補足する能力、どうするべきなのでしょうか。
Yimg_5975 南海トラフ地震が想定される長大な海岸線の津波被害ですが、如何に被害が巨大なものとなろうとも、我が国は国家として災害に立ち向かわなければならないことは言うまでもありません。さしあたって重要なのは情報収集で、この必要性は無人偵察機や観測ヘリコプターの充実などにより担保されるべき命題ですが、同時に個々の地域の救命救難活動に必要となるのは地上での災害派遣部隊の任務となります。ここで、もちろん主力となるのは文字通り即応となっている自治体の消防吏員や都道府県警察の地域密着となった活動ですが、動的に、他の地域からの運用は自衛隊の機動力に依存するところが大きくなります。
Yimg_2878 さて、阪神大震災において、陸上自衛隊の部隊に合って最も多く人命を瓦礫から救助したのは信太山駐屯地第37普通科連隊でした。伊丹駐屯地第36普通科連隊は文字通り震災と共に近傍災害派遣として出動し、わずか数十分後には倒壊した阪急伊丹駅、駅員に犠牲者が出たあの伊丹駅において近傍災害派遣を実施しています。この第36普通科連隊が最初の派遣を行ったのですが最も多くの人命を救助した第37普通科連隊、この背景には部隊の集中投入を行う地域の選定を最大限獅子したのが第36普通科連隊であり、この情報を即座に共有し師団一斉捜索任務に情報を間に合わせたことが、この成果に繋がりました。
Yimg_9920 今回想定される南海トラフ地震は、阪神大震災よりもはるかに大きな被害地域が想定され、東日本大震災においても想定されない規模の範囲での津波災害が想定されるものです。想定される地震において、こうした広範囲において、特に通信インフラが大きな被害を受け、帯域が制限される中において自衛隊が通信基盤を維持するには、現状の通信部隊だけで十分に実行することが出来るのでしょうか。月並みな表現ですが、自衛隊の通信部隊において通信搬送能力をもう少し拡充しなければ、第一線に展開した多くの部隊から寄せられる情報を充分に集約できなくなるのではないか、ということ。
Yimg_5984 電波は直進しますので、通信部隊は通信搬送装置を適宜中継点となる見通し線上に確保しなければなりません。通信部隊は、特に被災想定地域が大きいという部分で、陸上自衛隊の師団や旅団が想定していた戦域通信網の広さを凌駕する場合において、通信搬送装置を配置する、いや分かりやすく表現すれば南海トラフ地震被災想定地域全体で喪失する通信基盤を、音声回線だけであっても全域に広く迅速に復旧させなければならない、ということを忘れてはなりません。通信会社の移動k地局では民間の通信インフラの復旧御ままならない以上、自衛隊が民間通信基盤を利用する、という構図は成り立たないのですから。
Yimg_6484 通信大隊の増勢、中隊数について通信搬送中隊を強化すると共に後方支援連隊の支援基盤をさらに強化して、通信科部隊が基本として車両整備や電子整備の依存度を後方支援連隊にさらに支援を受けられる体制を強化することで、師団通信大隊の能力を強化する、という方式が考えられますが、何よりも師団が想定する師団通信システムの通信は二、面積の面でこれをより広範な範囲に展開させる運用が求められる、いわば師団の作戦能力の範囲を拡大させる、これが一つの必要性と言えるやもしれません。
Yimg_4148 それだけにととまらず、電子戦能力が陸上自衛隊では第一電子隊など限られている状況において、通信システムの再構築など電子戦能力は有事における通信基盤の恢復にも能力が発揮できるものだ、という認識、通信網の再構築を同時に担うという意味合いも含め通信大隊の二個中隊編制を三個中隊とし、電子戦中隊を編成に盛り込むことで、その能力を災害派遣における搬送任務の支援に充てるという試みも行われるべきでしょう。誤解を招かないよう記載しますが電子妨害を行うことは災害派遣に寄与しないのですが、搬送装置の人員が元々不足するのですから、その予備人員に充てられるよう構築するべきではないか、ということ。
Yimg_4261 もちろん、電波は有限資産ですので、帯域を有事の際に確保できる体制を確立しなければなりません。電波帯域の非常時における中央への集約態勢は、確かに確保されているのですが、防衛出動と災害派遣では集約した帯域の配分がどの程度なのか、という問題も生じてくるでしょう。特に携帯電話など一時的に発電設備の限界などにより間隙が生まれる通信帯域なども、手続きによる煩雑な移管措置を予め省く制度を予め設定し、必要な通信を行う自衛隊の帯域を確保できるよう防災法制整備なども行わなければならないでしょう。
Yimg_4793 このほか、駐屯地の基地通信部隊についても能力が求められるところが大きいです。防衛マイクロ波回線を早い時期から整備し、基地通信能力は一定の規模で配置されていますが、もちろん駐屯地が、和歌山駐屯地や徳島駐屯地のように沿岸部にある駐屯地には被災する危険性もあるのですが、駐屯地通信能力は、駐屯地において最も遠くから見ることが出来る施設が通信塔であることからも分かるように、その能力はかなり大きなものがあります。自衛隊施設の通信能力というものももちろん考えておくべきです。このほか、通信方式は異なりますが海上自衛隊の艦船や航空自衛隊の航空機による通信搬送、場合によっては無人機の積極的な運用も考えられるべきと信じます。
Yimg_8443 全国の自治体防災訓練、特に指揮所訓練は地震発生の第一報を電話で受け、FAXで通知するという通信インフラありきの想定で構築されています。しかし、通信インフラが破壊された場合に、情報を収集できないという最悪の状況が生じるわけです。そして自治体には通信基盤を自前により再構築する余裕を持っていません、警察や消防も中枢が被災した場合にはその能力を失います。特別車両機動隊はあっても特別警察機動通信隊はありません。もちろん、他の優先度があり、有事に備える必要はあるものの有事だけに備える軍事機構と自治体や治安機関は異なるわけです。地味ではあるのですが、通信が無ければ何も為しえません、広域が被災地となる想定の南海トラフ地震、通信を如何に確保するのか、もちろん防衛出動に際しても通信基盤は堅固なものでなければなりません。通信を如何に維持するのか、重要な問題です、次の災厄に備えて。

北大路機関:はるな

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