北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える⑤ 被害評定、補給と補給路をどう確保するのか

2012-05-26 00:43:08 | 防災・災害派遣
◆戦場監視機は必要、予算限界と必要性の狭間で
 南海トラフ地震ですが、そもそも東日本大震災以前、航空自衛隊にE-10統合指揮管制機のような機体があれば、と記載していました。必要なのですが、予算の限界を考えると難しいところです。
Nimg_0070 E-767の補完に、E-2Cの後継機に、米空軍が開発中であったE-10統合指揮管制機があったならば、E-8の戦場監視能力後継機能を有していたことから当時災害としてはもっとも我が国に対する脅威であった東海地震に対して、被害状況の迅速な把握に寄与するだろう、と考えてはいたのですが、E-10の開発そのものが中止となったことから、導入は画餅に帰しました。もっとも、最新鋭のセンサーを備えた航空機が、E-3AのNATO供与のように日本に対して行われるのかということには疑問符もないわけではないのですが。
Nimg_8340 航空自衛隊のE-2C早期警戒機は旧式化が始まっていて、E-767を増勢するにも肝心のAPY-2レーダーが生産終了となってしまっており、結局のところ供与されるかは別として米海軍空母艦載機であるE-2Dを導入するのか、それとも航空自衛隊の装備体系には無い機体なのですがE-737AEW&Cを導入するのか、というところ。米空軍はE-8戦場監視機を延命し運用を継続する計画ですので、E-8の原型機、KC-135などに多用された機体ですが、既に終了したボーイング707が遙か昔に生産終了となっており、導入できる余地はありません。
Nimg_0043 戦場監視機、例えばヘリコプターに搭載するオリゾンシステム、フランスのトムソン社が2000年代初頭に開発を進めていた航空戦場監視システムですが、これですとEC-225規模の機体に搭載するセンサーで、機体下部に展開方式で搭載し高度4000mに滞空し悪天候時で150km、晴天時で200km四方の移動目標監視や地形把握が可能、得た情報は地上の情報処理装置を搭載した大型トラックに搭載し分析と把握が可能となっています。これが、中央即応集団に1セットあれば、かなり変わってくるのでしょうけれども。
Nimg_0995 イギリスのASTOR計画、米英共同開発の戦場監視機系あくですが、米空軍が完成した機体が余りに小型すぎるとして導入を拒否したため計画が破綻したものですが、こちらも考えられるでしょう。15000mという高高度を飛行可能なビジネスジェットを基本とした航空機に戦場監視レーダーとともに赤外線感知装置を搭載し、複合的に稚樹の状況を把握する装備で、特に米英共同開発ながら米軍が導入を拒否し、英軍が予算面から導入できない状況に際して、ある程度安価に取得できる部分があるかもしれない。
Nimg_0270_1 どれにしても取得には費用を要します。しかし、被害状況の把握は何よりも重要です。橋梁はどの程度使用可能なのか、津波被害はどの地域まで達しているのか、高架橋道路の状況は、長期浸水の結果生じている新しい海岸線は何処まで到達しているのかその境界線は、道路上の津波漂流物の状況は車両の通行に支障はあるのか、山岳崩壊などの地震ダム湖の発生や山岳道路の使用可能状況は、倒壊家屋の集中状況はどの程度なのか、これは自衛隊の部隊展開や、展開した部隊の活動を支える補給部隊の通行をどこまで対応させることができるのか、これを左右する情報です。
Img_5999 首都圏などでは平時から防災道路を確保しているため、首都圏直下型地震に対しても迅速な救援体制の確保を念頭に置いてはいるようですが、今回想定する地震は津波災害を伴うため、防災道路を確保する場合でも防災道路そのものが被災する可能性、また過疎地域では防災道路そのものが地域と地域を結ぶ数少ない幹線道路である場合があり、仮に防災道路指定道路が無事であったとしても、こちらを防災部隊と補給部隊が占有した場合には、避難誘導さえもできなくなる可能性があるわけで、この問題は単純ではないというもの。
Nimg_4772 ヘリコプターによる航空偵察を行うことで一定の情報は得られるのでしょうが、狭小道路は一本の橋梁破壊が根本的な交通の支障に繋がります。とにかく一本一本道路をたどるには、偵察隊を進出させるか、情報小隊を前進させることとなるのでしょうが、何よりもこれら部隊は被害状況の把握に一番必要な部隊であり、輸送隊の上級部隊たる後方支援連隊の本部に情報小隊を置く、ということも考えられなく、は無いのですが、しかし、情報取集に展開して橋梁が破壊されていた場合はどうするのか、視点まで戻るのか、渋滞回避への交通規制をどうするのか、難しい。
Nimg_8397 補給路、橋梁一つとっても、難しいものがあります。本当に緊急時ならば一定程度の瓦礫や山岳崩壊による道路封鎖は施設大隊だけではなく、二日連隊の施設作業小隊が運用するドーザでも対応はできるでしょう、しかし橋梁は別です。陸上自衛隊は60m程度の応急橋梁ならば数時間で、もちろん可能ならば測量に一日は欲しいとのことですが、応急橋梁ならば迅速に展開させることは可能です。しかし、師団施設大隊や旅団施設隊では橋梁は一セット、方面隊でも92式浮橋やパネル橋など合わせて数本を架橋するのが限界ですから、極力橋梁が無事な道路を選ぶことが必要でしょう。
Nimg_8921 ヘリコプターによる空中応報収集ですが、予めデジタルマップを広範に作成し、AH-64D戦闘ヘリコプターが搭載するミリ波レーダーにより大規模災害に際して迅速に進出し被害状況をデジタルデータとして伝送、災害以前に作成されたデジタルデータとの相違点を照合することが一つの方法となるでしょう。多用途ヘリコプターなどでは震災時に重要な輸送任務があり、多くを転用することはできませんが、AH-64D戦闘ヘリコプターであれば、流石に震災時に輸送任務に誦等させることは、・・・、スタヴウイングの兵装架に物資を搭載することはできなくもないのですが、まあ、情報収集に専念できるでしょう。もっとも、AH-64Dをどの程度そろえることが出来るかは未知数ですが。
Nimg_1720 しかし、住宅などの倒壊状況は、予め作成したデジタルデータでは日常的に更新しない場合には建て替えや取り壊しと被害状況の比較はできません。震災以前には、航空写真から倒壊家屋と非倒壊家屋の色調の相違点から迅速に被害状況を把握する研究が防災研究所などにより実施されていたようですが、被害状況の把握は、被災者の人命を左右するという72時間の壁、問題があるのです。民間の情報をそのまま自衛隊に伝送する能力、というものは、例えば連絡調整員とデータリンクなど、考えられるものではあるのですけれども、とにかく航空情報収集では道路状況や地形変化以上のものを行うには難しい部分もあります。しかし、限界はあっても、必要性はある、これは事実忘れてはならないものでしょう。
Nimg_0842 防衛の面からは、戦場監視機、一応導入の意義はあります。もちろん、例えば中国軍との全面戦争、というような状況になれば、航空優勢確保の面で戦場監視を行うには少々問題があることは否めませんが、かなり遠距離まで側方監視が可能ですし、なによりも航空攻撃や渋滞状況の把握など、用いる用途はかなり広い部分にあります。国際平和維持活動に用いることも当然可能でしょうし、用途は広いのです。予算の限界と必要性の狭間で、戦場監視機、難しいものはあるでしょうが、それならば代替手段、考えておかなければなりません。
北大路機関:はるな

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