A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【Disc Review】ペル・ウブ『20イヤーズ・イン・ア・モンタナ・ミサイル・サイロ』〜アートパンク42年の年輪を刻んだ重量作。

2017年11月03日 11時55分53秒 | 素晴らしき変態音楽


Pere Ubu / 20 Years In A Montana Missile Silo
CHERRY RED

Tracklisting:
1. Monkey Bizness
2. Funk 49
3. Prison Of The Senses
4. Toe To Toe
5. The Healer
6. Swampland
7. Plan From Frag 9
8. Howl
9. Red Eye Blues
10. Walking Again
11. I Can Still See
12. Cold Sweat

Pere Ubu is:
David Thomas (1975-present) vocals
Keith Moliné (2005-present) guitar
Gary Siperko (2016-present) guitar
Kristof Hahn (2017) steel guitar
Darryl Boon (2012-present) clarinet and more
Robert Wheeler (1994-present) analog synths, theremin
Gagarin (2007-present) digital synths
Michele Temple (1993-present) bass
Steve Mehlman (1995-present) drums and more

石の上にも桃栗三年柿八年、アヴァンガレージ四十二年。

1975年オハイオ州クリーヴランドで結成されてから42年。アートパンク/アヴァンガレージ/オルタネイティヴムジーク街道を歩み続けるペレ・ウブ(ユビュ親父)の新作が届いた。オリジナル・メンバーはヴォーカルのデヴィッド・トーマスだけになってしまったが、不条理ロックの権化として異能ワールドをクリエイトする意欲は衰えることなく、錆び付いた侘び寂びの砂漠を灌漑するかの如く、パタフィ汁を滴らせている。

デイヴィッド・トーマスによれば“タンジェリン・ドリームと手を組んだジェームズ・ギャング”と形容される新作は、「前2作の基礎になった“伝言ゲーム理論”はやり尽くしたので、今作では“暗室理論”を採用した。明かりの無い部屋にミュージシャンたちを閉じ込めて、未知の物体の一部となるにはどうしたらよいか理解させるやり方さ」とトーマスは語る。当初『ブルース・スプリングスティーンは糞野郎』または『ロバート・デ・ニーロは下衆野郎』というタイトル案もあったというが、最終的に付けられた『モンタナ州のミサイル格納庫で20年』というアルバム・タイトルは、暗室理論の形容とも考えられる。

'Monkey Bizness' by Pere Ubu


前作『Carnival Of Souls/魂の謝肉祭』(2015)の後、新たに二人のギタリスト(スティール・ギターのクリストフ・ハーンはスワンズのメンバー)を加えたアンサンブルの厚みがアルバム全体を覆う。彼らが“暗室”の中で聴いたのは、閉塞感に窒息しそうな現代社会の呻き声だったに違いない。暗澹たる世界の重みを引き裂くように、年輪を重ねブルージーな哀感を深めたデヴィッド・トーマスのヴォイスが稲妻のように駆け抜ける。管楽器やエレクトロニクスが堆積する時代の塵を四方八方に霧散させる。次第に晴れ渡る景色の先に見えるのは、抜けても抜けても到達しない終末の予感だろうか。

Prison Of The Senses by Pere Ubu


非ハードロック/非パンク/非オルタナ/非インプロ/非ノイズ。是とするのはユビュ王の教典のみ。42年に亘り醸造されたペレ・ウブのエキスは、光の当たらない地下のミサイル格納庫からの脱出を試みる音楽の囚人の心を濡らす魂のムードミュージックなのである。

暗室を抜けたら
そこはユビュ王の
宮殿だった

独自の世界を一貫して追求し続ける姿勢は、極東の地にて活動を続けるヒカシューとのシンパシーを感じる。いつの日か両者のコラボレーションが実現することを願いたい。
ヒカシュー『あんぐり』Disc Review「即興とソングの共存」のカタルシス、ここに極まれり。世界随一の雑食性バンド、ヒカシューのブラックホール黙示録。

The Pere Ubu Story with David Thomas
コメント
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