APECでやるみたいですね、日中首脳会談。
といっても会談にはまだ間があるようですから、中国外交部の記者会見をここ1カ月ばかり振り返ってみることにしますか。
以下、緑色は記者、青は外交部報道官の章啓月女史です。
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●10月11日
「靖国問題が解決されない限り、日中首脳会談はないのですか?」
「わが国は以前からずっと日本との関係を非常に重視していまして(中略)……日本側が『歴史を教訓にして、未来へ向かって前向きに』の精神に基づいて(中略)……具体的な努力を示してほしいと(後略)」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2004-10/12/content_2082563_2.htm
――靖国問題について真正面から質問してきた記者に対し、外交部側は歯切れの悪い回答です。歯切れが悪いのは、この件に関して「靖国神社」という単語を使うことが許されていないからでしょう。
「具体的な努力を示すこと」が恐らく靖国参拝中止を意味するのだと思いますが……御苦労様です。
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●10月19日
「日本の小泉首相がきのう国会で、靖国神社を参拝するのは日本が戦没者を哀悼するというやり方だ、哀悼の仕方は各国によって異なる、中国がなぜ参拝に反対するのか、その理由が理解できない、と発言しました。この件に関する中国側のコメントをお願いします」
「中国側は以前からずっと、中日関係の政治的な基礎はあの時期の歴史を正確に認識し向き合うことだと考えています。日本の指導者が中日関係という大局に鑑み、中国人民の感情を傷つけるような言行を慎むよう願っています。この問題をどう処理するかは中日関係が前向きに発展できるかどうかに影響を及ぼします。日本の指導者には慎重に事に当たってほしいところです」
http://news.xinhuanet.com/zhengfu/2004-10/20/content_2113546.htm
――王毅が駐日大使に就任したころですね。そのための挨拶回りや記者会見を王毅がしている間に、小泉首相は上の発言。王毅ひいては中国にとって、顔に泥を塗られた気分でしょう。
が、いよいよ「靖国」を前面に押し立てて迫る記者に対し、章女史は抽象的な言い回しに終始します。
もちろん前回同様、「靖国神社」を口にすることはできません。
どうしてかって?多分そのカードを切ったら最後、中国の手元には何もなくなってしまうからでしょう。
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●11月11日
「で、今度のAPECでの首脳会談はあるんですか?」
「両国首脳の接触や会談は中日関係にとって重要ですが、我々としては、日本側がそのために良好な雰囲気と条件をつくり出してほしいと考えています」
「いまは両国間の雰囲気が悪いから、首脳会談を行うことはできない?」
「さっきお答えした通りです。同じことを2度繰り返したくはないですね」
http://news.xinhuanet.com/zhengfu/2004-11/10/content_2197930.htm
――このあたりからAPECでの首脳会談が焦点になってきます。原潜で領海侵犯をしておきながら、「日本側が」云々とは盗人猛々しい理屈です。最後の発言も冷たいですねえ。章啓月女史、虫の居所が悪いのでしょうか?今日の体育は見学ですか?
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●11月12日
「APECの期間中に日中の首脳が会談するかどうかについて、中国政府はもう何らかの決定をしてます?」
「前回も言いましたが、中日両国首脳が国際会議の期間中に会談するかどうか、これは双方の努力によるものです。我々としては、日本側がそのために良好な雰囲気と条件をつくり出してほしいと考えています」
http://news.xinhuanet.com/zhengfu/2004-11/12/content_2208576.htm
――相変わらず日本側に要望するばかりなのですが、一方で「これは双方の努力によるものです」という一句が目をひきます。原潜問題で風向きが悪くなってきたのを反映しているのでしょうか。
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●11月16日
「APECの期間中、中日両国の首脳会談は行われますか?もし会談が行われなかったら、中日関係はより悪化するということでしょうか?」
「会談の問題については、もう何度も言っていますが、我々中国側は、両国首脳の接触や会談を重視しています。ただそのためには良好な雰囲気と条件が必要です」
http://news.xinhuanet.com/zhengfu/2004-11/17/content_2226998.htm
――何度も同じことを尋ねられる章さんも大変ですねえ。でも、ここにきて「両国首脳の接触や会談を重視しています」がついに来ましたね。「首脳会談、本当はやりたいんだけどさ」ってことのようです。「ただそのためには良好な雰囲気と条件が必要です」とは言うものの、日本側の努力が肝心という従来の物言いは消えています。
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●11月18日
「日本政府はAPEC期間中の22日に日中首脳会談が行われると明らかにしていますが、この件について、中国側からのコメントをお願いします」
「日本のメディアがその件に非常に注目していることはわかっています。中国側としては、両国首脳の接触や会談を重視しています。ただ何度も言っているように、首脳会談には良好な雰囲気と条件を整えることが必要です。それについて、両国の外交当局が話し合いを重ねているところです」
「首脳会談には良好な条件が整うことが必要、とのことでしたが、現在の状況はその条件を満たしていると考えますか?」
「中日関係をどうやって安定的かつ前向きに発展させるか、これについて中国側の立場は非常に明確です。中国は日本と長期にわたる安定的な善隣友好関係を築いていくことを重視しています。「歴史を教訓に、未来へ向かって前向きに」という精神に基づいて関連する問題を処理していくべきだと思います。両国首脳の会談を実現するにあたっては、良好な雰囲気と条件を整えることが必要だと考えます」
http://news.xinhuanet.com/zhengfu/2004-11/19/content_2235597.htm
――これが現段階で最新の記者会見です。一気に雰囲気が高まったという感じですね。こうして時系列で並べてみると、中国側の対日姿勢の微妙な変化がわかって面白いです。
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で、どうやら19日の日中外相会談などによると会談実現の運びとなるようですね。
章女史は首脳会談の実現について、「良好な雰囲気と条件を整える」ことが肝心、と再三力説していましたが、その機は熟したということなのでしょうか(笑)。
19日の人民網及び新華網から関連記事を出しておきましょう。どちらも中国に都合よく書かれた内容なので読まない方がいいかと思いますが、首脳会談開催を暗示した内容となっています。
●中日会談:小泉氏がこの善意に応えんことを待つ(人民網)
http://www.people.com.cn/GB/shizheng/1026/2999640.html
●李肇星外相が日本外相と会談(新華網)
http://news.xinhuanet.com/world/2004-11/19/content_2236852.htm
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こうした流れをみてきて印象的なのは、本来色々あった筈の日本をいじめるカードが、気がついたら中国にはもう「靖国」しか残っていなかった、ということです。
その「靖国カード」にしても切るに切れないで、結局は首脳会談開催の前提条件にも使えなかった(現時点の情報によれば)。だって小泉首相がまた参拝すれば意味を持たなくなるばかりか、中国国内における胡錦涛政権への支持率がガタンと落ちること請け合いですからね(靖国参拝を止められなかった、という理由で)。カードというより、アキレス腱。
それから、ひとつには日本が従来と違って毅然とした態度を見せたこと。
もうひとつは日本国内で中国に和する勢力が退潮の一途をたどっていること。
この2つの変化も現在の日中関係に深く影響しているように思います。
考えてみれば今年は中国にチョンボが多かったですね。尖閣上陸者の逮捕、アジアカップ、東シナ海での資源紛争、原潜の領海侵犯……など、日本側を利する出来事が多かったように思います。
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何か「ゆく年くる年」モードになりつつあるようなので、気合いを入れ直す意味で燃料を投下しておきます。
●対中関係における日本の本末転倒(中国青年報)
http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2004-11/18/content_990229.htm
はい、胡錦涛御用達の広報紙『中国青年報』に出た評論です。内容は、まあ章女史が口を濁した部分を言いたいだけ言っているという感じですね。プロの記者が書いているとすれば、若手で電波ゆんゆんな江沢民チルドレンが書いたんだろうなあ……というのが率直な感想です。
でも腐っても『中国青年報』ですからねえ。現時点で日中首脳会談を行うことに賛成しない向きもある、つまり指導部内での意思統一がなされていない、と読むことができなくもありません。
この文章が指導部内の主流意見なら、首脳会談は中国がドタキャンすることになるでしょうね。
あくまでも、「もしこの文章が指導部内の主流派の声を代弁しているなら」、ですけどね。
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ちなみに上の文章を基に『毎日新聞』が記事を書いています。
●<原潜領海侵犯>「日本は騒ぎ過ぎ」中国青年報
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041118-00000129-mai-int
あの原文をどう読むとこういう記事になるのか、理解に苦しみます。
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