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愛知で証人尋問! ―愛知無償化裁判第25回口頭弁論

2017-09-15 10:00:00 | (理)のブログ

 9月13日、愛知では無償化裁判の第25回口頭弁論が開かれました。今回の内容は証人尋問。裁判所の前には、90弱の傍聴席を求めて153人が並びました。また法廷内には記者席が設けられ、日本人記者たちも取材に訪れていました。

 証人として法廷に立ったのは、愛知朝鮮学園の金伸治理事長と原告1番です。
 金理事長は、無償化制度から朝鮮学校が除外された2010年度、また次の年の2011年度に愛知朝鮮中高級学校の校長を務めていました。金理事長には、愛知朝鮮学園が無償化適用を求めて文科省に提出した書類の中の、教員数の誤記についての質問がありました。

 愛知朝鮮学園は、2010年度、2011年度、2012年度と文科省に無償化適用のための申請書類を提出しています。最初の2年は問題ありませんでしたが、3年目、金理事長が校長を退いた後に引継ぎなどの関係で、教員数の記載にミスがあったといいます。実際に教員数が足りていたにも関わらず少なく記載されていたのです。文科省はこれをもって(他にも理由はありますが)愛知朝鮮学園を「不指定」としました。
 どうしてこのようなミスが起きたのか、またこの時の文科省の対応がいかに不自然なものだったか、原告側弁護団による金理事長への尋問の過程で明らかになりました。

 続いて、被告側代理人から金理事長への反対尋問がありました。金理事長がすでに答えたことを再び繰り返すようなものに加え、朝鮮総聯との関係性を意図的に強調するような質問が執拗になされました。昔の資料などを持ち出し、青年同盟や教職員同盟、その他の団体について基礎知識もないままにされる質問に、傍聴席からは何度も「関係ないだろう!」「だからなんなんだ!」「答える必要ないよ!」といった強い声が飛びました。その度に裁判官はたしなめていましたが、傍聴席の苛立ちは止みませんでした。
 「この団体は…総聯の傘下団体ですよねえ?」。―私の印象も入っているかもしれませんが、妙に含みを持たせた意地悪気な質問の仕方がとても耳に残りました。金理事長は冷静に一つひとつの質問に答え、長時間にわたる尋問に最後までしっかり臨んでいました。

 一度休憩が持たれると、法廷内にはパーテーションが設置されました。開廷後、原告1番が入廷しました。原告1番は、2010学年度当時に愛知中高の高級部3年生だった当事者です。弁護団の裵明玉弁護士の質問に答えながら、幼い頃から感じていた日本社会の差別意識、自身の家庭環境、朝鮮学校での生活、無償化問題を通して経験したこと、適用に対する思いなどを一つひとつ話していきました。

(裵弁護士の「朝鮮学校に通ってよかったことはなんですか」という質問に)
「民族のアイデンティティ、誇りを持てたことです。朝鮮人であることに何の不安もなくいられました。日本学校に通っていたら、葛藤を感じていたと思います。今、日本社会では朝鮮人というだけでネガティブなイメージが先行している。その中でも、自分は恥ずべき存在じゃないんだと思わせてくれました。悪いことをして差別されているわけじゃないと知ることができました」

(「無償化闘争で一番辛かったことは」という質問に)
「街頭宣伝をしている時に、『そういうのはもういいんだよ』と言われたことです。罵声を浴びせられるより、無関心にされる方が辛かったです。これからいくら自分が頑張っても解決しないのではないかと思いました」
 当時の悔しさを思い出したのか、何度も言葉が詰まり、声を絞り出すようにして一生懸命話していました。傍聴席からもすすり泣きが漏れました。

 最後に、「裁判官へ伝えたいことはありませんか」という質問を受けた原告1番。
「母校に帰ってきて、変わらず街頭宣伝に立つ子どもたちを見た時、涙が止まりませんでした。いつも笑顔で明るい子どもたちが不安そうに日本社会に訴えている姿が痛々しく、自責の念に駆られます。子どもたちのために設けられた無償化制度は、日本の差別によってまた新たな子どもたちに傷を負わせています。一方で、マスコミや政治に流されずに助けてくれる日本の方たちの姿にはとても励まされました。裁判官の皆さん、もうこれ以上子どもたちを傷つけないでください」と、切々と訴えました。



 証人尋問が終わると、場所を名古屋朝鮮初級学校に移して報告集会が開かれました。いつもより遅い時間にもかかわらず、約100人が参加しました。
 裵明玉弁護士が今回の内容について解説したほか、この日も各地からさまざまな人が足を運んだということで、たくさんの連帯のメッセージがありました。



 福岡から来た、九州無償化弁護団の安元隆治弁護士は、「九州でも今後、原告本人の証人尋問を予定しているので、その参考として傍聴に来た。原告の話を聞いていると、そもそも差別されているという前提、当事者が感じる日本社会に蔓延した差別意識というものが、リアルに裁判官に伝わったと思う」と話し、証人尋問に立った二人に労いの言葉を送りました。

 また、東京朝鮮高校生の裁判を支援する会のメンバーは、「裁判中に東京では不当判決だというメールが入って憤りと悔しさを感じた。子どもの学ぶ権利を全く顧みない判決だ。これで諦めず、これからも全国の裁判と一緒に取り組んでいきたい」と強く話しました。



 無償化連絡会・大阪の藤井幸之助さん。「志を同じにしている人は話が通じるが、一旦外に出ると朝鮮の話に関しては否定なことばかりだ。自分は普段、大学で教鞭を執っている。メディアで流さない朝鮮や在日朝鮮人に関する話を学生にすると、『嘘だろう』という声も上がるが、言うことを止めずに自分の回りから伝えることをしていきたい」。



 大阪からは、オモニ連絡会の代表たちも駆けつけました。柳暎恵さん(写真右)と金文子さんは、「先週の『オモニたちのアクション』に参加して、全国のオモニたちが連帯、連携、団結して子どもたちを守ろう、朝鮮人として日本で堂々と生きていく権利を守ろうという気持ちがより一層強くなっていると感じた。日本の方々や韓国の支援者たちも含め、今後ももっと力を大きくして一緒に頑張ろう」と激励のメッセージを送りました。



 静岡朝鮮学校友の会で支援活動をしている林弥千代さんは、「今日原告が、嬉しかったことの一つとして『日本の人々の支援があったこと』と話してくれた。この言葉に、私たち自身が励まされた」と話していました。



 また、県内からは愛知県立大学3年生の坂口和泉さんという方が発言。「在日朝鮮人について知りたいと思い、いろいろ調べる過程でこの裁判があることを知った。なぜこんな差別が行われているんだろうと疑問が生まれ、現在勉強中だ。山本かほり先生の研究室を訪ねて話を伺っているとどんどん興味がわいてきて、愛知朝鮮高校にも足を運んだ。本当に元気でいい子たちだなという印象を受けた。また、私自身は差別をしていないつもりだったが、メディアの情報にしか触れていないため偏見があったことにも気づいた。これからも携わり続けていきたい」とあいさつすると、会場から拍手が送られました。

 またこの日、弁護団は東京で不当判決が出たことについても言及。送られてきた判決文を急きょ読みながら、判決の内容について解説しました。



 中谷雄二弁護士は、「本当にひどい。これは国に代わって、国以上の言い訳をしてやっている判決。広島判決を超える、国を擁護する立場に立った判決だ」と憤りを示し、「愛知訴訟は、今このまま普通にいけばこのような判決が出る可能性があると思ってやっている。それを出させないようどうするか。歴史を知ること、戦前から戦後にかけて日本社会が在日朝鮮人たちにどのような関与をしてきたのか。このことについて当事者として目を覚ませとずっと裁判所に突きつけてきた。これを無視すると今の日本社会の中に蔓延している風潮から逃れられない。私たちは、裁判官にこのような判決を書かせないような裁判をしてきたつもりだし、今後もしていく。そして必ず勝訴を勝ちとる」と力強くのべました。

 最後まで徹底してたたかう―。改めて、そのような気持ちに満ちた場になりました。(理)

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