日刊イオ

月刊イオがおくる日刊編集後記

「従軍慰安婦」、日本軍「慰安婦」、日本軍性奴隷という名称について

2012-07-25 09:00:00 | (K)のブログ

 少し前の話になりますが、アメリカのクリントン国務長官が日本軍「慰安婦」の名称について「性奴隷」という名称を使うべきだと指摘したことが、日本ではほんの少しだけ話題になりました。それを伝える記事がこれです。

 「9日付の韓国紙、朝鮮日報は、クリントン米国務長官が最近、国務省高官から日韓両国の歴史について報告を受けた際、旧日本軍の従軍慰安婦について「性奴隷」との名称を使うべきだと指摘したと報じた。ソウルの外交筋の話としている。
 慰安婦の名称をめぐっては、韓国の市民団体や国際人権団体などが、実態を反映していないとして「性奴隷」を使うよう求めている。
 高官が報告で「慰安婦」という言葉を使ったのに対し、クリントン氏は「慰安婦という表現は間違っている。強制的な日本軍の性奴隷だった」と述べたという。(共同)」

 月刊イオでも創刊当時から日本軍「慰安婦」問題を何度も扱ってきて、「」をつけた「従軍慰安婦」などの名称を使っていたこともありました。現在は日本軍「慰安婦」という名称でだいたい統一しています。しかし私自身、日本軍「慰安婦」という名称が良いものとは思っていませんでした。

 「韓国挺身隊問題対策協議会」の常任代表である尹美香さんが書いた「20年間の水曜日日本軍「慰安婦」ハルモニが叫ぶゆるぎない希望」(東方出版)に名称について大きくページを割いて説明があります。少し長くなりますが、ところどころ引用しながら、その内容を紹介したいと思います。

 まず次のように書いて、どのように呼ぶのかはたいへん重要な問題であることを強調しています。
 《日本によって性奴隷とされた女性たちを、ある人は「慰安婦」と呼び、ある人は「挺身隊」と呼びます。結論から言うと、この二つの名称はどちらもあまり良い意味ではありません。
 《どんな名称で呼んだとしても、日本軍がはたらいた蛮行は厳然たる事実で、その事実は決して変わらないと考える人もいるでしょう。でも、それは違うと思います。日本軍「慰安婦」問題が知られ始めた当初、名称について様々な議論がありました。日本軍「慰安婦」被害者を、自分の価値観に基づいて自分勝手に名称をつけて呼ぶようなことがよくありました。そのせいでハルモニたちが傷ついたことは言うまでもありません。

 そして、「慰安婦」という呼称の問題点を次のように指摘しています。《もう一つ、この「慰安婦」という呼称は、被害者の立場から見た用語ではなく、加害者、軍人の立場からつけた呼称だということです。軍人たちから見たら、この女性たちが自分たちを慰めてくれる女性だということでしょう。》

 同書によると、名称に関する議論が本格的に行われたのは、19928月ソウルでの「第1回挺身隊問題アジア連帯会議」から。そのときは当時日本で使用していた「従軍慰安婦」の前に「強制」をつけて「強制従軍慰安婦」と呼ぶことに決定したとしています。しかし、これもおかしいということになり、「第2回アジア挺身隊問題連帯会議」(東京)で、必ず「」をつけ犯罪の主体である日本軍を前につけて日本軍「慰安婦」ということに決定、英語では「Military Sexual Slavery by Japan」(日本軍性奴隷)という名称を使うことを決議しました。この後、日本軍「慰安婦」という名称で統一されます。国連人権委員会などの国際機関でも日本軍「慰安婦」に対して、「Military Sexual Slavery by Japan」(日本軍性奴隷)と表記するようになりました。

 20045月の「日本の過去清算を要求する国際連帯協議会」で、再び名称問題が持ち上がります。その理由を日本のマスコミと政府が相変わらず「従軍慰安婦」という名称を使用していたからだと書いています。そのときの協議会での合意は、日本軍「慰安婦」制度という言葉をそのまま使い、「日本軍性奴隷制度」という言葉も同時に使っていく、また、被害者を指すときは「日本軍性奴隷制被害者」「日本軍「慰安婦」制度被害者」と呼ぶことにしたというものです。
 日本軍「慰安婦」という名称を使っている理由を、尹さんは《被害者を適切に表現する他の名称が見つからないからだけでなく、突然呼び方を変えると多くの混乱が生じると思うから》としています。

 あらためて最初に引用した日本のマスコミ報道を読むと、「」も何もつけず、従軍慰安婦、慰安婦という言葉を使っています。被害者たちへの思いなどまったくなく、ハルモニたちを今もなお傷つけ続けているという自覚もない報道だと言えます。
 日本軍「慰安婦」問題に正面から向き合おうとせず、被害者のハルモニたちが毎週水曜日に1000回以上もソウルの日本大使館前で抗議行動を行っても無視し侮辱し続けてきた日本政府の態度が報道に現れたものだと言わなければなりません。

 この件に関してはクリントン国務長官の指摘は当然のものです。このブログでも紹介したことがありますが、尹美香さんの「20年間の水曜日日本軍「慰安婦」」という本をぜひお読みください。被害者たちの証言を読むと、彼女たちの置かれた状況が「性奴隷」以外の何ものでもなかったことがよくわかります。私も、日本軍「慰安婦」という呼び方よりも、はっきりと日本軍性奴隷と呼ぶほうがより良いと思います。
 月刊イオでもこれから、日本軍「慰安婦」という名称を使う場合でも日本軍性奴隷という名称を併記したり、日本軍性奴隷という名称を積極的に使っていかなければと思っています。(k)


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