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大阪と九州で無償化裁判

2015-07-21 09:00:00 | (K)のブログ
 7月15日と16日、大阪と九州で連日、高校無償化裁判の口頭弁論が行われた。二つの裁判を取材したので報告したい。



 大阪での無償化裁判の口頭弁論は第12回目となる。7月15日、大阪地方裁判所には多くの保護者や日本人支援者が集まった。特筆すべきは大阪福島朝鮮初級学校の6年生児童、9人が傍聴に駆けつけたことだ。
 裁判では、弁護団の三好吉安弁護士が意見陳述を行った。原告の朝鮮学園側は新たに、藤永壮大阪産業大学教授、田中宏一橋大学名誉教授、伊地知紀子大阪市立大学教授の3名の鑑定意見を提出しており、意見陳述ではその3つの鑑定意見書の内容が語られた。

 藤永壮教授の鑑定意見書は、「在日朝鮮人の民族教育に対する日本の政策(1920年代~1960年代前半)に関する意見書」と題されている。その中で次の部分がのべられた。
 「下村大臣は、朝鮮学校が『第1条校化すれば済む話』、すなわち朝鮮学校が1条校になれば高校『無償化』制度が適用されるとも述べているが、このような主張は日本国家が繰り返してきた朝鮮学校抑圧の方針を下村大臣自身が継承していると宣言したに等しい。朝鮮学校に対して1条校になることを要求することは、『日本語』科目以外のすべての授業を朝鮮語で実施するなどの、これまで長きにわたって朝鮮学校が培ってきた民族教育の方針を放棄させることを意味している」「すなわち下村大臣が示した『第1条校化』とは、朝鮮学校の実施する民族教育を骨抜きにし、これを日本の国家権力の管理、統制下に置こうとする、旧態依然とした同化主義的発想にほかならないのである」

 田中宏名誉教授の鑑定意見書では、1960年代半ば以降の朝鮮学校の状況が語られた。すべての朝鮮学校が各種学校として認可されたこと、地方自治体から朝鮮学校に補助金が交付されるようになったこと、03年の大学受験資格問題などを挙げて、朝鮮学校での教育は、日本学校での教育と同じ「普通教育」であり、「教育の同等性」が承認されたことを意味すると分析、「問題の核心は、いうまでもなく、朝鮮高級学校が、高校無償化法にいう『高等学校の課程に類する課程』に該当するかどうかである」としている。

 伊地知紀子教授の鑑定意見書は、大阪府内にある朝鮮学校全10校の保護者を対象としたアンケートなどを踏まえ、保護者の世帯状況、就労状況、朝鮮学校や教育に対する意識などを調査し、高校無償化制度や補助金の不支給といった事態におかれた子ども、保護者の状況について分析した結果をまとめたものである。
 鑑定意見書では、保護者が多様化している事実がまず語られ、日本で出生し、日本で一生を送る世代が大部分を占め、国籍が多様化し、日本学校の経験者も一定割合存在している、このように多様化した保護者が、無償化制度から除外されてもなお朝鮮学校を選択しているのは、朝鮮学校における民族教育、自分の歴史や文化、言語の承継に重きをおいているからだと指摘した。
 次に、保護者たちは、無償化制度からの除外により、他の学校にはない経済的負担を強いられていること、他の学校の保護者と同じように税金を支払っているのになぜ差別されるのかと疑問を呈していることが語られ、アンケートの自由回答欄でも、差別であるとの意見が圧倒的多数を占め、政治と教育は別であるとの意見、無償化制度からの除外は、在日朝鮮人や朝鮮学校を差別してもよいとの意識を、公的に、一般市民に植え付けるものだという意見があったことが指摘された。今回、アンケートの回答はすべて裁判所に提出された。

 裁判の最後、弁護団団長の丹羽雅雄弁護士が、裁判官に対して、朝鮮学校を訪問し子どもたちや教員、保護者の姿、学校の様子を直接訪問してぜひ見てほしいと検証申請した。

 裁判終了後には報告集会がもたれた。準備書面の内容が紹介され、伊地知教授がアンケートを分析したことについて報告した。最後に、参加した大阪福島朝鮮初級学校の児童から弁護団に感謝の気持ちを込めた千羽鶴が贈られた。弁護団の金英哲弁護士が大阪福島初級の卒業生で、前の週に金弁護士との座談会も持たれ、子どもたちは裁判の勉強も重ねてきたという。

 大阪での無償化裁判では、今回、月刊イオ編集部が編集した書籍「高校無償化裁判~249人の朝鮮高校生 たたかいの記録」が証拠の一つとして裁判所に提出された。

 大阪の無償化裁判の第13回口頭弁論は、10月14日午前11時から大阪地方裁判所で開かれる予定だ。



 九州での無償化裁判は、7月16日、福岡地裁小倉支部で行われた。第6回口頭弁論となる。保護者や日本人支援者、そして九州朝高の生徒たちがたくさん傍聴に詰め掛けた。

 裁判ではまず、原告のひとりの生徒が意見陳述を行った。生徒は、小学生の時に無償化のことを聞いたが、朝鮮学校も対象になるということで母親がすごく喜んでいたことを覚えている、しかし、除外されてしまったと話を始めた。除外されたことにより経済的な負担が強まり、子ども3人を朝鮮学校に送るため、母親は朝早くから夜11時まで働かなければならないこと、自分もアルバイトをせざるをえず、幼い弟と妹が留守番をしなければならずさびしい思いをしていることを語った。朝鮮学校除外は自分の将来にも大きな影響を与えており、大学進学を希望しているが、それが正しいのか、働く両親を楽にさせなければならないのではないかと考えていると心のうちを吐露した。最後に、弟が高1になる時には必ず適用になってほしい、政治的なことではなく朝鮮学校で私たちがどのように学んでいるのかを見て判断してほしいと訴えた。

 引き続き、弁護団の安元隆治弁護士が準備書面を読み上げた。
 安元弁護士は、国が排除の理由の一つとして「規程13条に適合すると認めるに至らなかったこと」を掲げていることに関して、「規程13条に適合すると認めるに至らなかったことという判断が無償化法により与えられた文科大臣の裁量を逸脱しており、朝鮮高校の生徒の学習権に関し不当な差別をもたらしていると論じた。その理由として、文科大臣の裁量と言っても、あくまで無償化法により与えられた権限であり、当然、無償化法の趣旨に則って行使される必要があり、完全なフリーハンドでの判断が許されるものではないとしながら、次の3点を挙げて、裁量を逸脱していて不指定処分は国賠法上違法であるとした。
 一つは、裁量権行使のあり方が無償化法の趣旨に反し許されないこと。二つ目は、事実誤認に基づく判断は許されないこと。三つ目は、政治・外交的配慮を持ち込むことは許されないこと。
 そして、「不当な支配」などの国の持ち出した論理や、朝鮮学校だけに「支援金が確実に充当されるか」と不当な「懸念」をかけていることなどが指摘された。

 裁判終了後には約200人の参加のもと報告集会が持たれた。九州無償化裁判の第7回口頭弁論は、11月12日午後11時より、福岡地裁小倉支部で行われる予定だ。(k)

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