蛾遊庵徒然草

おこがましくもかの兼好法師にならい、暇にまかせて日頃感じたよしなし事を何方様かのお目に止まればと書きしるしました。

認知症母子心中未遂事件温情判決!―今「高瀬舟」を思う―

2006-07-22 00:36:02 | 時事所感
7月21日(金) 曇り。19~23度、涼。

  ヤフーでニュース検索していたら下記の記事が目に止まった。一読、涙が溢れた。引用が長くなるが、事件の経過や背景、司法の判断等が良く分かるのでそのまま引用させていただく。

『認知症の母殺害に猶予判決 京都地裁 「介護の苦しみ」理解示す

 介護疲れと生活の困窮から今年2月、合意の上で認知症の母親=当時(86)=を殺害したとして、承諾殺人などの罪に問われた長男の無職、片桐康晴被告(54)=京都市伏見区=に対する判決公判が21日、京都地裁で開かれた。東尾龍一裁判官は「結果は重大だが、被害者(母親)は決して恨みを抱いておらず、被告が幸せな人生を歩んでいけることを望んでいると推察される」として懲役2年6月、執行猶予3年(求刑・懲役3年)を言い渡した。
 判決によると、片桐被告は今年1月末、介護のために生活が困窮し心中を決意。2月1日早朝、伏見区の桂川河川敷で、合意を得た上で母親の首を絞めて殺害し、自分の首をナイフで切りつけ自殺を図った。
 論告や供述によると、片桐被告の母親は父親の死後の平成7年8月ごろに認知症の症状が出始め、昨年4月ごろに症状が悪化。夜に起き出す昼夜逆転の生活が始まった。
 同被告は休職し、介護と両立できる職を探したが見つからず、同年9月に退職。その後、失業保険で生活している際に、伏見区内の福祉事務所に生活保護について相談したが受給できないと誤解し、生活苦に追い込まれて心中を決意した。
 殺害場所となった桂川河川敷では、家に帰りたがる母親に「ここで終わりやで」と心中をほのめかし、「おまえと一緒やで」と答えた母親の首を絞め、自らもナイフで首を切り自殺を図った。前日の1月31日には、母親を車いすに乗せ、京都市街の思い出の地を歩く“最後の親孝行”をしたという。
 判決理由で東尾裁判官は「相手方の承諾があろうとも、尊い命を奪う行為は強い非難を免れない」としながらも、「昼夜被害者を介護していた被告人の苦しみ、悩み、絶望感は言葉では言い尽くせない」と、追いつめられた片桐被告の心理状態に理解を示した。
 また、判決文を読み終えたあと、片桐被告に「朝と夕、母を思いだし、自分をあやめず、母のためにも幸せに生きてください」と語りかけた。同被告は声を震わせながら「ありがとうございます」と頭を下げた。
     ◇
【視点】介護支える社会整備を
 認知症の母親を殺害した片桐康晴被告に、京都地裁は執行猶予付きの“温情判決”を下した。裁判をめぐっては、検察側も「哀切きわまる母への思い。同情の余地がある」と、最高刑懲役7年に対して求刑は懲役3年と、被告の情状面に理解を示していた。
 公判では、冒頭陳述や被告人質問で母子の強いきずなが浮かび上がり、聞き入る東尾龍一裁判官が目を赤くする場面すらあった。
 「生まれ変わっても、また母の子に生まれたい」と母親への強い愛情を吐露した片桐被告。公判では、介護のために仕事をやめざるを得なかった現実や、生活保護受給を相談した際に行政側の十分な説明がなく生じた誤解など、誰もがいつ陥ってもおかしくない介護をめぐる現実が浮き彫りになった。「人に迷惑をかけずに生きようと思った」という片桐被告の信条さえも“裏目”に出た。
 介護をめぐり経済的、精神的に追いつめられ殺人や心中に至る事件は後を絶たない。160万~170万人ともいわれる認知症患者は、約10年後には250万人にまで増加するとの推計もある。反対に少子化のため介護者の減少は必至で、介護をめぐる問題は極めて現代的な課題といえる。
 “母親思いの息子”が殺害を選んだ悲劇を繰り返さないために、法整備を含め、社会全体で介護を支える仕組みづくりが求められる。(京都総局 藤谷茂樹)
     ◇
【用語解説】承諾殺人
 加害者が被害者の承諾や同意を受けて殺人に至った場合に適用。殺人罪の量刑が死刑から3年以上までの懲役であるのに対し、承諾殺人罪は6月以上7年以下の懲役または禁固刑となっている。心中を図り、心中実行者が生き残ったケースに適用されることが多い。
(産経新聞) - 7月21日15時55分更新』
 
◆◆◆ー以下、蛾遊庵コメントー

 このところ、光市事件にしろ、広島での木下あいりちゃん事件にしろ、被害者の数がたりないから死刑には及ばない、無期だとか、まともな素人には理解しがた理屈で捏ね上げた判決に辟易の思いをさせられていたところ、本件論告求刑、判決はともに人間らしさの感じられる大岡裁きに思われた。

 私も、数年前に、長年一人暮らしをしてきた母が、80歳の時、胃癌にかかり手術後、麻酔から醒めた後おかしなことを言うようになり、譫妄(センモウ)が始まり、我が子が(私たち兄弟)の分別もできない認知症になった。

 その母の認知症を少しで軽くできないかと、せめて譫妄に苦しめられているらしい母の苦痛を少しでも和らげられるアドヴァイスが得られないかと、都内近郊の精神病院、老人病院を連れ歩いたが、どこにも適切な助言、治療を示唆してくれる医療機関や専門医はいなかった。

 私はそれ以来、精神科医に対して、何か犯罪が起きると、もっともらしい分析を聞くにつれ、何を訳知りの後講釈がと、いつも不信の念で聞き捨てている。

 弟は、ほとんど母のアパートに朝晩は泊まりこみの状態で、日中は、デイケアにお願いしということで二年を過ごした。その後は、私の退職を機に、現在の山梨に移転し、母を直ぐ近くの老人ホームにお願いし、日中は私が様子を見に行くということで、最後を看取った。

 この間、弟は、夫婦親子関係が悪化し、一人残されて離婚にいたった。
 それでも、私たちは、兄弟ともに安定した仕事をもち、老人介護施設への入所もでき、時期的にも定年とかさなることで何とかしのげた。
 しかし、仕事が不安定で、兄弟もいなかったとしたら、今回の事件のケースは決して他人事とは思えないのである。

 そして、本件事件の経過のなかで、行政は、被告の生活保護申請の訴えを聞きながら、何故もう少し親身な相談にのってあげられなかったのかと言うことである。
 被告が腕に職があり、年齢的にもまだ50歳代ということで、生活保護の本人への支給は無理があったにしても、行政措置として母親を特別養護老人ホームなり、なんなりに緊急入所を手配してあげるなり、母親だけでも生活保護を認めるなり、行政の裁量でできることは、いろいろあったはずである。

 もし、この被告が、日本○産等や○明党、何とか学会のメンバーで、その筋の有力議員の口添えがあったらどうだろうか?決してこんな木で鼻を括ったような扱いはしないはずである。
 この被告、本当に不器用な誠実な人柄なのである。こうゆう人が泣きをみる行政とはなんだろうか。京都というところは、昔から革新が強いと聞くのにそれは、一定の支持者にたいしてだけのものなのか?

 そして、担当者に訊きたい。貴方々は一体誰のための公務員かということを!。自分は安泰な高みにいて、尺(シャクシ)定規に法律の番をするだけなら、そんなものはさっさと廃職にして、自動申請交付機と交換してしまえと!。

 ところで、この四月から政府は、市町村に07年度末までに、中学校区に一箇所の割合で「地域包括支援センター」の設置を義務付けた。
 今後は、ここを拠点に、公正・中立な立場から。地域における高齢者の①総合相談・支援 ②介護予防マネジメント ③包括的・継続的マネジメントを担う中核機関とするとのことである。

 今日市役所に電話したところ、わが市の場合、一箇所で11人体制で発足していると聞いた。その内訳は保健婦・経験のある看護士、社会福祉士、主任ケアマネジャーで構成されるという。
 また、ここで全ての用が足りるようワンストップ・サービスを目指すという。

 どうか、仏作って魂入れずとならぬよう、願わくは本件事件の二の舞を見ないよう関係者の皆様のご活躍を願いたいものである。

と、思うこの頃、さて皆様はいかがお思いでしょうか?

―追 記―

 上記事件経過、判決を読んで、私は一瞬、森鴎外の短編「高瀬舟」を思い浮かべた。
 時代は江戸、寛政の頃、場所は京都、高瀬舟。その日暮しの孤児育ちの、兄弟ふたりきりの身の弟が病に倒れて、兄の負担を思い、兄が仕事に出ている留守に喉を剃刀で掻き切って死に切れず、もがいている所へ、帰ってきて驚く兄に、早く剃刀を抜き取って楽にしてくれと懇願する。
 ためらう兄、しかし、断末魔に苦しむ弟を見て、終に引き抜く。その瞬間を、隣家の老婆に見咎められて役所に訴えられる。遠島の刑と成り、高瀬舟に載せられて高瀬川を下る。兄の名を喜助という。兄弟もまた西陣で空引(カラビキ)職人として働いていたのである。
 本件の被告もまた、西陣の腕の良い職人であったと聞く。

 この事件をみて、「おかん(若狭方言、母親の意)」想いの今は亡き水上勉なら、どんな哀切な平成の「高瀬舟」を書いただろうかと思ってみた。

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4 コメント

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泣きました。 (さくら)
2006-07-22 11:43:09
わたしも「高瀬舟」が浮かんだのですよ。



真面目に生きている弱者に対しては、今の日本はあまりにも冷たいですね。

昨晩は主人ともこの事件の悲しさ、行政の対応の悪さについて話し合いました。



この男性(被告と言いたくないです)から相談を受けた福祉事務所が、真剣にアドバイスをしたり、生活保護支給に特例対応で対処出来ないかと、など少し時間はかかっても希望を持たせてあげていれば・・と思わずにはいられません。



強い者には弱く、弱い者には《妙に強気な》行政です。

税金はこのような援助にこそ使って欲しいと思います。



わたくし事で恐縮ですが・・・・

先日、管理するマンションの敷地内に洗濯機が不法投棄されていました。

社長の指示で市の担当係長に相談に行きました。

「市は回収しません」の返答にはまぁ納得しましたが、ではどうしたらいいのか、は教えてくれませんでした。

わたしも忙しかったので、会社に戻ってから電話で「どう処分したらいいか」を聞きました。

「○○産廃業者なんかに頼んだら良いんじゃないですかぁ~」との答え。もう少し深く知りたいので自分で過去の市報から「家電リサイクルの処理の仕方」を探しあてました。



買い替えの場合は別として、今回の場合は郵便局でリサイクル券を購入する。料金はメーカーにより少し違います。そして持ち込みの場合は2業者に。これもメーカーが分かれています。引き取ってもらう場合は市の委託業者に。ただし運搬賃がかかります。



担当係長はなぜここまで教えない!こちらが聞かなくても教えるべき!それで係長とは信じられない!



わたしは皆にこの話をしています。



話しが逸れてすみません。

でも福祉事務所の対応もこんな感じだった?のではと思います。こちらが突っ込んで聞かない限りは必要最小限の対応。



公務員は行政のプロでなければなりません。

いろんな場合に的確な返答、相談する市民に最高の情報を与えられなければ『税金泥棒』です。



この男性が気持ちをしっかり持って生き抜いてくれる事を祈ります。















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できないは、言い訳にすぎません! ( 蛾遊庵徒然草)
2006-07-22 13:32:20
 この件で、さくら様も高瀬舟を想いうかべられましたか。嬉しいですね。



 ところで、洗濯機の問題、大変でしたね。他人の敷地に捨てていく。それを行政ではなく、捨てられた被害者が自費で処理しなければならない。こんな馬鹿な話はありませんね。まるで、これも昔の奈良での鹿のはなしみたいですね。朝起きて自分宅に前に鹿が死んでいたら、その人の罪か何かになるので早起きしては、他所に運んでおくとか…聞いたことがあります。



 行政が小手先の細かな法律を作れば作るほど、バカを見るのは律儀で真面目な市民たちです。



 私も公務員をしていた経験で言いますと、お役人と言うのは、やる気になればけっこういろいろ出来るものだと思います。

 そのためには、自分で役所の中を横へ上へと結構歩き回り了解を取り付けなくてはできません。それが億劫でめんどくさくて、法律を杓子定規に盾にしての、つっけんどんになるのではないでしょうか?



 採用されたとき、「私は全体の奉仕者として、職務に専念いたします」と宣誓書に署名捺印するわけですが、三日もたつとみんなそんなこと忘れてしまうのでしょうか?



 情けない限りです。どうにかして、こういう横着なお役人選別排除する仕組みできないものでしょうか?



 こちらこそ、一度採用されたら先ず首にならない、それがおかしいのではないでしょうか。裁判官と同じで任期10年、そこで再任審査にかける、自分が辞めておいてからこんなことをいうのもなんですが、そうとでも言わないときがすまない輩も多すぎると思います。
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「木下あいりちゃん事件」 (ティエラ)
2006-10-09 16:14:32
はじめまして!突然すいません。「木下あいりちゃん事件」でアメリカ在住の安子さんが「小さな風」運動をしています。もしご協力いただけたら嬉しいです。よければ覗いて下さい。よろしくお願いします。
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拝見しました。しかし… (蛾遊庵徒然草)
2006-10-10 22:14:09
 コメント、拝見しました。

 確かに、本件について無期懲役はないかなとも思いますが、まだ一審段階の判決であり、今後の控訴審を待ちたいと思います。

 裁判官が死刑を判決する分には、そうだったかと思いますが、無期の判決では軽いから、死刑になるよう検察に頑張れと、ハガキの申し入れをしようということに対しては、一人の市民としての立場では、そこまで積極的に行動することについて、遺族の方にはお気の毒なことと思いますが、いささか抵抗を感じます。

 悪しからずご了承ください。
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