平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

坂の上の雲 「広瀬、死す」

2010年12月27日 | 大河ドラマ・時代劇
★広瀬(藤本隆宏)はロマンチストですよね。
・アリアズナとの恋
・船に書いたロシアの友人たちに贈るメッセージ
・危険を顧みず部下を助けに行く行為
 すべてが詩的で、ロマンチック。まるで小説の世界から飛び出したかのよう。
 こういう日本人がいたこと自体が驚きだ。
 夏目漱石なんかはロンドンで引きこもり生活を送っていましたからね。
 僕はこういう人物、なかなか好きです。

★広瀬の死の描き方もいい。
・カッターに乗って福井丸から離れる広瀬。
・おそらく夜明けが近かったのだろう、アリアズナと<朝日>の話をしたことをふと思い出す。
・すると敵の砲弾。
・広瀬の体は一瞬にして消える。
・海底に沈んでいくアリアズナの懐中時計。

 ここには何の感傷もない。
 <朝日>と<懐中時計>はいささか感傷的だが、適度なさじ加減。
 平凡な作家なら海底に沈みゆく広瀬がアリアズナや真之(本木雅弘)にメッセージを語ったりする所だが、それをしない。
 一瞬にして消え去るだけだ。
 それが実に非情で無機質。
 逆にすごく心地いい。
 せりふで饒舌に語るより多くのことを伝えている。

★さて歴史の話。
 戦前の国語の教科書では、広瀬の死を次のように描いている。

『広瀬中佐
 とどろく砲音、飛び来る弾丸
 荒波洗うデッキの上に、やみをつらぬく中佐の叫び。
 「杉野はいずこ、杉野は居ずや」
 船内くまなくたずぬる三度、呼べど答えず、さがせど見えず、船は次第に波間に沈み、敵弾いよいよあたりにけし。
 今はとボートにうつれる中佐、飛び来る弾丸に忽ちうせて、旅順港外うらみぞ深き、軍神広瀬と其の名残れど』

 杉野を助けに行った広瀬の行為自体はヒューマニズムに溢れる立派な行為だ。
 しかし権力者はこれを利用する。
 まず彼は<軍神広瀬>という神にされた。
 戦後GHQによって壊されたが、<広瀬神社>が造られ、現在の神田と秋葉原の間にあった万世橋駅には、広瀬と杉野の<銅像>があった。
 この様に権力者は広瀬を<神>に祭り上げたが、この作品で描かれたような<アリアズナとの恋>や<ロシアの友人たちの話>は国民に知らせていない。
 広瀬の真意は<グラマラスティ>=<人がお互いを慈しみ合う>ことにあったのだが、それも語らない。
 権力者は自分に都合のいいことしか伝えないのだ。
 自分の死がこのように利用されて、広瀬としては浮かばれなかったことだろう。

 またラストのボリスやマカロフによって広瀬が埋葬されるエピソードは史実かどうかわからないが、まさに<グラマラスティ>。
 この作品は広瀬の死を<グラマラスティ>として描いている。
 権力者に利用され<軍神>となった自分とロシアの友人達によって埋葬された自分、広瀬にとってはどちらが嬉しかったのだろう。
 僕には後者の方だと思えてならない。


※追記
 広瀬神社のことを書いていて、<乃木神社>と<東郷神社>のことを思い出した。
 これらの神社は現在も明治神宮の近くにある。
 これの意味する所は<明治天皇を乃木希典と東郷平八郎が守っている>ということらしい。
 歴史は様々な形で残っているんですね。

 余談だが、明治神宮は<陰>、神宮外苑は<陽>の場所として設計されたらしい。
 明治神宮には<陰>を意味する針葉樹・常緑樹が植えられ、神宮外苑は<陽>を意味する絵画館や洋式庭園、青山練兵場などが造られた。
 結局、明治神宮は針葉樹が足りなくて広葉樹も植えられたようだが、その設計には<陰と陽>が考慮されていた。

 初詣で明治神宮に行かれる方もいらっしゃるだろうが、そんなことを考えながらお参りするのも面白い。



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非「軍神」化 (TEPO)
2010-12-27 12:03:29
「赤旗」を講読する知人によると「龍馬伝」についてはよく紹介があったのに「坂の上の雲」については完全に黙殺だそうです。しかし

>前回の広瀬といい、入れて来ますね、恋愛話を。(12/13コウジさん)
「赤旗」が認めるところまではゆかないにしても、これがNHKとしての「毒抜き」の工夫なのだろうと思いました。一般に女性の視点が強調されると反戦色が強くなります。

>このラブストーリーは原作にはなく(←司馬遼太郎がこんなラブストーリーは書きませんよね)、ロシアでの広瀬武夫を描いた本をシナリオライターがアレンジしたものらしい(12/6)

ひたすらアリアズナを描き込んで最期はアリアズナとの追憶と懐中時計。さらにはボリスに代表されるロシア軍人との友情を描くことにより、広瀬は「軍神」というよりは「引き裂かれた悲劇の人」、そしておっしゃるとおり<グラマラスティ>の人となりました。

季子についても原作以上に描き込んでいるのではないかと想像します。「愛する夫を戦場に送る妻」として。
父稲生真履も娘の身を案じて季子を訪れているが、男なので「真之君の大手柄」と建前論しか言えず、律に気を利かせて「散歩」に出る。
女二人となったところで律が「嘘じゃろ」と季子の本音を引き出す。

それにしても、律と季子との関係はいい感じですね。三角関係の枠は残っているのでしょうが今や季子は律にとっては可愛い妹のような存在。律は季子ごと真之を愛している感じです。

律と季子 (コウジ)
2010-12-27 12:22:30
TEPOさん

いつもありがとうございます。

僕も「坂の上の雲」が映像化されることを危惧していた人間ですが、「赤旗」の対応は残念ですね。
先入観があってドラマの本質を見ていない気がします。
今回の広瀬の<グラマラスティ>な描き方もそうですし、結局<閉塞作戦>も失敗に終わったわけで、戦争というものの空しさ・愚かさをよく描いていると思います。

律と季子との関係は上手いですよね。
まさに
>律にとっては可愛い妹のような存在。律は季子ごと真之を愛している感じです。

ここまで律を掘り下げて描いてくれると、お見事!と言いたくなりますね。

広瀬といい、律といい、この作品は登場人物の掘り下げのお手本みたいな作品です。

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