Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

松本市美術館の田村一男記念展示室

2017年06月01日 | 美術
 先週末は山に登る計画だった。土曜日に上高地に入り、一泊した。翌日は徳本峠(とくごうとうげ)を越えて島々に下る予定だったが、上高地に着いた頃から、同行した妻の体調が悪くなった。夜になるとさらにひどくなった。翌朝、妻はそれでも登る気でいたが、大事をとって中止した。午前中に松本市内に戻った。

 その日は近隣の温泉に宿を取っていた。キャンセルするのももったいない‥ということで、早めに宿に行ってゆっくりすることにして、それまでどこかで静かに過ごすことにした。こういうときには美術館にいるのが一番安心なので、松本市美術館に行った。

 松本市美術館は、じつはかねてから行ってみたい美術館だった。同館には洋画家の田村一男(1904‐1997)のコレクションがあるので、それを見たかったからだ。妻とわたしは、いつのことだったか、都内で開かれた田村一男の個展を見に行ったことがある。そのとき以来、その作品が目に焼きついているのだ。

 松本市美術館には田村一男のための一室が設けられていた。わたしは初めてそこに入ったが、まず板張りの壁面に好感を持った。田村一男は山の絵を描いた画家だ。板張りはその作品にふさわしいと思った。

 展示室には15点の作品が並んでいた。没後20年の企画として「山、眠る②」というテーマで冬山の作品が展示されていた。どんよりと曇った灰色の空の下で、白く雪を被った山々が連なっている作品。あるいは褐色に冬枯れた高原の茫漠とした風景の作品。その他諸々だが、どの作品にも人の気配がない。見る人によっては、寂しいと感じるかもしれない。でも、わたしの心象風景にはぴったり合った。

 どのような心象風景かというと、広大な雪原に立って、暗い曇天を見ながら、この世界には自分一人しかいないと感じるような風景。寂しいというのではなく、ある絶対的な孤独という感覚だ。

 先ほど触れた個展は知人に誘われて行ったのだが、その知人も田村といった。妻とわたしはその知人から「親父が画家で、個展をやっているから、見に来ないか」と誘われた記憶がある。会場ではお姉様(?)に紹介されたことを覚えている。

 だが、今回、展示室で見た田村一男の年譜には、その知人の名は出てこなかった。なぜだろう。「親父」というのは聞き違えだったのか。その知人は何年か前に亡くなったので、もう確かめるすべはない。
(2017.5.28.松本市美術館)

(※)本展の主な作品の画像

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