Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

デトロイト美術館展

2017年01月14日 | 美術
 アメリカのデトロイト美術館の収蔵品展。

 印象派、ポスト印象派、20世紀のフランス絵画(エコール・ド・パリその他)という構成は定番のものだが、20世紀のフランス絵画の前に「20世紀のドイツ絵画」が挟まる点がユニークだ。当時のドイツ表現主義の作品が来ている。

 ドイツ表現主義は、大雑把にいうと、ミュンヘンで活動した「青騎士」のグループと、ドレスデン(後にベルリン)で活動した「ブリュッケ(橋)」のグループに分かれるが、本展では「青騎士」からは中心人物の一人、カンディンスキー(1866‐1944)が、また「ブリュッケ」からは、おそらくもっとも才能のあった画家の一人、キルヒナー(1880‐1938)が来ていた。

 カンディンスキーの作品は「白いフォルムのある習作」(1913)。カンディンスキーが抽象画に突入して2~3年たった時期の作品だ。まだ具象の痕跡をとどめている。具象から抽象への移行に際しての緊張感がうかがえるこの時期の作品が、わたしは一番好きだ。

 上方に見える白い四角形は何だろう。垂直に立つ黄色い柱のようなものに直角に当たっている。わたしは雲ではないかと思った。カンディンスキーが恋人のミュンターと生活したバイエルン地方のムルナウは、自然の豊かなところだ。黄色い柱のようなものは見上げるように高い木で、そこに雲の切れ端がかかっているのではないだろうかと思った。

 一方、キルヒナーの作品は「月下の冬景色」(1919)。キルヒナーは第一次世界大戦に従軍して精神を病み、スイスのダボスで療養生活に入った。その頃の不安な精神がうかがえる作品だ。

 アルプスの雪山が青く描かれている。底知れないほど深く澄んだ青色だ。たしかに夜明け前の雪山はこういう色に見える。手前の樹林がピンク色に描かれている。強烈な色だ。これは朝日に照らされた樹林ではないだろうか。不眠症に苦しむキルヒナーが見た夜明け前の一瞬の光景のように思った。

 「青騎士」とも「ブリュッケ」とも隔たった位置で活動したパウラ・モーダーゾーン=ベッカー(1876‐1907)の作品が来ていることは望外の喜びだった。「年老いた農婦」(1905頃)という縦75.6cm×横57.8cmのパウラとしては比較的大きい作品。はっきりした輪郭線が、農婦の人格をはっきり主張し、またパウラ自身の個性を主張しているようだ。
(2017.1.12.上野の森美術館)

(※)「白いフォルムのある習作」と「月下の冬景色」の画像(本展のHP)

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