本年はこだわりの趣味人に何人もお逢いできてお話を伺った。どの方
も趣味とはいえその道を究めようと少年のように目を輝かせて思いを
熱く話してくれた。こうしたお気持ちは肉体を若く維持する特効薬だ
と思い知らされている。
さて今週は世界産業遺産に登録されて大きな注目を集めた富岡市製糸
場にでかけた。目的はここで蒸気の力で実際に動いている蒸気エンジ
ン(ブリュナエンジンという)を見るため。1週間前に行ったのだが
運転時間を終了していて動態は見ることができなかった。
その時の話で、お好きなら始動時を是非見てほしいと言われ、今回は
9時半には現地に着いた。さすがまだ火は入っておらず、警備員が一
人見守っていた。製糸場内を一巡して戻る。このお二人が始動の準備
をしていた。ブリュナエンジンはSLとは違った原理で動く蒸気機関と
思っていたが、原理的にはSLと変わらず。創業時のフランスの技術者
の名前と知った。展示場外のプレハブ小屋に現代の家庭用小型のボイ
ラーで灯油を燃やして蒸気を作る。できた蒸気を導管でここに繋げる。
お二人で各部に注油している。始動点検だ。回転部分にボールベアリ
ングは使われておらず、すべてメタル軸受となっているので潤滑油は
かかせない。やがて蒸気も所定圧力に近づき始動開始だ。
クランクの先には直径が3m近いフライホイール(重量3t)が付く。
自力では始動しない。お二人がかなりの力を込めてホイールにぶら下
がるように初期回転を助ける。周りはじめは実にゆっくりした感じで
何か心細い。
5分くらいで回転が滑らかになってきた。お二人はホイールから手を
放す。機関は自力で回転するようになった。
そうなるとお二人に話かける時間ができたので、快調に回る機関の横
で詳しい説明を受ける。迫力ある回転の模様を動画で紹介したいとあ
れこれいじってみたが、わが才能では無理と思い断念します。要はピ
ストンの往復運動がクランクを押して回転運動に変わるだけです。
自動車のエンジンには詳しいので、専門的なことも聞いてみた。まず
質問したのは出力。17馬力ということ。 馬力は回転力(トルク)
と回転数の関数。回転数は一秒一回転程度なのでトルクは意外に大き
いようだ。道産子馬のような鈍重だが力持ちといった感じか。更にし
つこい質問に誠実に答えていただいた。今年お逢いした趣味人の皆さ
ん同様に質問されることが嬉しくてしかたないようだった。
製糸場創業時のエンジンは愛知県の明治村に保管されていて、今見て
いるのは完全なレプリカだとの説明。退職後の技術者が可能な限りの
原型に忠実に作り上げた。したがって各構成部品は新品。潤滑油で磨
き上げられた鉄塊は私の感覚では銀色に鈍く光り輝き得も言われぬ雰
囲気を醸し出していた。この鉄の存在感がたまらない。いずれの日に
か、この動力を使用して一部で構わないので、紡績機械が動くことを
念じる。そうると世界遺産も一層価値あるものになるのではないか、
などと思いながら帰途につく。
次の土曜日は大晦日となりなにかとあわただしいで、更新はこれが本
年最後とします。1年間ご覧いただき感謝申しあげます。どちら様も
良いお年を迎えられることを祈念申し上げます。 toboketaG 拝