ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『クライマーズ・ハイ』

2008-05-05 17:42:08 | 新作映画
----ゴールデンウィークも、
もう残りあと2日。
今日の邦画は?
「『クライマーズ・ハイ』。
今年観た日本映画の中では
『アフタースクール』と並ぶぼくのオススメだね」

----監督は原田眞人だよね?
「うん。この監督は
他の人には決してマネできないハリウッド仕込みの手法を駆使して、
彼独自のエンターテイメント世界を生み出す。
と言っても、その昔、
デビュー作『さらば世界の友よインディアンサマー』で
原田監督にインタビューしたときは
『あまりエンターテイメント、エンターテイメントと言わない方がいいよ』と
逆にたしなめられたものだけど……。
でもその後『金融腐蝕列島[呪縛]』で、
それまでの山本薩夫ら社会派の巨匠とはまったく違うアプローチで
社会派エンターテイメントの新たな領域を開拓。
その才能は万人の知るところとなった」

----あ~あ。あれは大ヒットしたよね。
普段はあまり映画を観ないサラリーマンが
昼間からどっと映画館に押し寄せたっけ。
「そう。あの映画が新鮮だったのは、
腐敗した金融界の内幕というそのテーマもさることながら
大胆なカメラアングルと細かいカッティングで
体をわしづかみにされるような
映画的快感を与えてくれたことにあった。
この『クライマーズ・ハイ』は、
その彼の中でも最高となる2541カットを重ねたというんだから、
それによって生まれる興奮は押して計るべし…だ」

----でも、カット数が多いからいい映画ってワケでもないよね。
相米慎二監督のような例もあるし…。
「それはそうだよ。
結局はその手法が
映画が描こうとしている素材や
方向性にあっているかどうか…だからね。
カット数が多いということは
映像内の緊張を高め、観る者を興奮へといざなう。
そこには、
映画に手間ひまをかけることを惜しまないという、
作家の基本姿勢があるからね。
もちろん、
闇雲にカット数が多ければいいというものでもないけどね。
やはりきちんとした
感情のうねりの計算がなされていないと……」

----話が、技術の方にばかり走っているようだけど、
肝心の内容はどういうものニャの?
「これは1985年8月12日に起こった
日航機墜落事故の悲劇を追う地元新聞記者たちの姿を描いたもの。
その中心となるのは全権デスクを命じられた悠木(堤真一)。
映画は、混乱する現場に取材に向った県警キャップ・佐山(堺雅人)、
かつて連合赤軍事件や大久保事件を取材して以来、
社内でにらみを利かせている社会部部長・等々力(遠藤憲一)、
編集局次長・追村(蛍雪次朗)らの嫉妬、確執。
さらには、広告局や販売局局長(伊東康男)との軋轢をも描いていく」

---へぇ~っ。新聞社って一枚岩じゃないんだ。
マスコミ、特に新聞はみんな目的が一緒かと思っていた。
「いやあ、何のかんのいっても企業に変わりはない。
根っこを支えるのは結局はお金だからね。
締め切りをどこまで伸ばせるか、
広告あっての新聞か、編集あっての新聞か…。
ぼくも雑誌社で、編集と広告の両方に携わったことあるから
ここは手に取るように分かったね。
でもそれに加えて
この新聞社は社長(山努)が絶対君主のワンマン。
社員同士の恋愛さえ許せない」

----えっ、どうして?
「社員は『自分のモノ』。
それが他の『自分のモノ』にとられるのは許せないんだ」

----それはスゴい論理。
そんな中での仕事はやりにくいだろうね。
「うん。でもだからこそこの映画はオモシロい。
見えない圧力を肌で感じながら、
一人ひとりの個性が
それぞれエゴむき出しでぶつかりあう。
当然のように仕事場には怒号が飛び交う。
おそらく、この映画で多くの人は
それまでイメージしていたのとはまったく違う
役者それぞれの別の顔を観ることができる。
全員がクライマーズ・ハイにかかっているみたい。
なかでも堺雅人の演技には、だれもが驚くだろうね」

----これも原田演出のなせる技ってワケか。
そういえば、この日航123便って…。
「そう。
実はさっき話した雑誌社に
まだぼくがいた頃、
同僚がこの日航123便に予約していた。
しかし彼は、直前になって一便早い飛行機に振り替えて助かったんだ」

----それってスゴい「運」の強さだよね。
そういうことあるんだ。
「あの頃はバブルだったからね。
会社から羽田までの交通はみんなタクシー。
今だったら、電車でその便にあわせて行くのが普通だろうけど、
そのタクシーが空港に早く着いたため、
彼は一便早い飛行機に乗ったわけだ。
仕事熱心で時間をムダにしたくないと思ったからか、
それとも何らかの別の理由があったのか。
ラジオで流れた事故の速報の後、
彼から電話が入ったときには
社内に安堵の空気が流れたよ」


           (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「これは期待してよさそうだニャ」いいねぇ

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20 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (のらねこ)
2008-06-15 01:58:37
こんばんは。
この映画、長さを全く感じさせずにグングン引き込まれました。
普段は邦画ってちょっと敬遠しがちなんですが、これは良かったです。
新聞社内の人間関係とか、普段知らない世界が興味深くて。
堺雅人さんの演技も、強く印象に残りました。

返信する
■のらねこさん (えい)
2008-06-15 11:17:24
こんにちは。

ぼくもこの映画には引き込まれました。
日本映画は、どちらかというと
小粒な単館系の作品の方が好きなのですが、
この映画は別。
その醍醐味がたまりませんでした。
返信する
えいさん♪ (ルールー)
2008-06-27 15:20:19
こんにちはー☆
一昨夜の試写会で観てきました。
NHKのドラマでやった時も非常に興奮したストーリーでしたが、映画も臨場感たっぷりで、とっても引き込まれてしまいました。
ドラマの佐藤浩市と大森南朋もすごく良かったけれど、映画の堤真一と堺雅人もメチャよかったですねー
わたしは遠藤憲一と、販売部のガムをくちゃくちゃやっていたオッサンの演技も圧倒されました。
あと、小澤征悦が演じた親友の息子の役柄が、山男のイイところ全部持ってる感じですごく好きでした。(^^;;;;;

ところで、えいさんの同僚の方はタッチの差で事故機には乗らなかったのですね・・・
わたしの知り合いの親友という方は予定通りだったのか乗っていて、連絡を受けたその知り合いが号泣してその場で泣き崩れたというのを、あとから聞かされていたたまれなくなりました。。
運命を感じてしまいますね。。

あ、全然違いますが、明日『ネコナデ』舞台挨拶付観てきます♪
猫ちゃんも登場するといいんですけども。
返信する
■ルールーさん (えい)
2008-06-28 16:31:41
こんにちは。

>わたしの知り合いの親友という方は予定通りだったのか乗っていて

ほんとうに運命というのは怖いですね。
あの頃はぼくも出張で大阪へ飛行機というのは多かったです。
そういえば、あれから新幹線が増えたような…。

>販売部のガムをくちゃくちゃやっていたオッサンの演技も圧倒

皆川猿時、
あれはうまかったですね。
部屋にゴルフセット。
もう、これ以上ないくらいに憎らしかったです。

『ネコナデ』、大好きです。
猫ちゃん、挨拶してくれるかな。
ご報告、楽しみです。
返信する
こんばんは (ノラネコ)
2008-06-29 22:20:18
あれ、上の方に同名の仮名違いの方がいますね。
ようやく記事をアップしました。
そうですか2500カット以上もありましたか。
「魍魎の函」の時は、正直勘弁してくれと思いましたが、これはズバリと内容と演出スタイルがはまっていました。
二時間二十五分もの間緊張感が持続し、観終わったら本当に山でも登ったかのように、ぐったりと疲れました。
原田眞人の作品ではベスト3に入るかな。
堺雅人は今年ノリノリですね。
返信する
■ノラネコさん (えい)
2008-07-01 10:29:51
こんにちは。

原田監督は、作品によって
自分の中の好き嫌いの幅が大きく揺れます。

この映画は、
役者の全てがクライマーズ・ハイ寸前。
編集以前に、その空気を現場に生み出した
監督の演出手腕に感服です。
返信する
Unknown (たいむ)
2008-07-05 15:27:33
えいさん、こんにちは。
あの事故は子供?ながらにテレビに釘付けだった覚えがあります。(特に生存者収容のところなど)

それにしても、社内喧騒はともかく、あんな社長って本当にいるのかしら?と、その時点でリアル感が3割引になってしまいました。
返信する
■たいむさん (えい)
2008-07-05 18:27:17
こんにちは。

>あんな社長って本当にいるのかしら?

います(笑)。

セクハラはともかくとして、
ああいう、利益第一、大事なのは自分の一族だけの社長は…。
そういう会社で、結局は手の上で踊らされている社員。
社長が現れると、
それまで好き放題に言いあっていた彼らの間には
緊張が走って小さく縮こまってしまう。
そこが観ていてなんとも悲しくやるせなかったです。
あれは戯画化でもなんでもありません。
いかにも日本的な風景に映りました。
返信する
断言ですねw (たいむ)
2008-07-05 20:36:56
再びお邪魔しますw

>利益第一、大事なのは自分の一族だけの社長
一世一代で築いたもの社長、もしくは「華麗なる一族」のような感じならば分ります、ってか、知ってます(笑)
でも、出版社ならばまだしも、戦後の新聞社でってトコロがびっくりでした。
返信する
こんばんわ☆ (ノルウェーまだ~む)
2008-07-05 23:43:18
えいさん、出版社にお勤めだったのですね!?
こういった世界にいる人って、すごいなーと思っていましたが、あそこまで足の引っ張り合いって怖いですね…
よく理解できない部分も多かったですが、充分ハイテンションなところが伝わってきました。

販売局長をやった皆川さんは、グループ魂の港カヲルさんですよね。
かなりいい味出していましたが、いつもより緊張してて、ぐっと大人しいかんじがしました。
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