ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『罪の余白』

2015-08-20 21:32:29 | 新作映画

大塚祐吉監督『罪の余白』に圧倒された。
内野聖陽の針を振り切った演技。
そしてそれさえも飲み込まんばかりの吉本実憂
断言できる。
この女優は将来、大器となる。


----この映画、どんなお話?
今までまったく聞いたことがなかったニャあ。
「う~ん。
一言で言えば、
学校内で亡くなった娘。
その死の真相を追求しようとする父親と、
ある女子高生との対決の映画」

----え~っ。
それって、少し前に話題になった
『渇き。』に似てニャい?
「ぼくも最初その映画が頭をよぎったけど、
あれは映像のギミックが目につきすぎて、
テーマが絞り切れていなかった気がする。
それに比べてこちらはもっとオーソドックス。
直球勝負の映画だね」

----いじめがモチーフの映画というと
『問題のない私たち』なんていうのもあったよね。
「うん。
あの映画は、
それまでいじめられていた側の生徒が
いじめる側になったり。
あるいはその逆に
いじめの首謀格だった生徒が
いじめの対象になったりと、
クラス内のいじめの構造に焦点を当てていた。
ところがこの映画は、
そういう、いじめの手練手管(?)や、
そこからどう逃れるかなどといった
校内サバイバルものとは趣を異にする。
『桐島、部活やめるってよ』で有名になった言葉、
校内カースト>を使えば、
この映画の主人公は
クラスの頂点に立つ美少女・咲(吉本実憂)。
その子がかけた、ある“圧力”がもとで、
同級生の香奈がベランダから落ちてしまったところから物語は始まっていく」

----えっ?
じゃあ、それって事故じゃニャい。
「そこが難しいところで、
これは一種の罰ゲーム。
そしてここがこの映画の新しいところでもあるんだけど、
犠牲者・香奈は咲のグループに属している。
つまり“選ばれた”一員でもあるんだ」

---えっ?
だったらどうして?
「そこがこの映画のポイントだね。
咲は生まれついての美貌を持ち、
将来は女優を目指している。
その彼女のプライドを傷つける
ちょっとした言葉を香奈は口にしてしまったんだね。
実は、映画の中盤で
咲が芸能プロダクションの面接を受けるシーンが出てくる。
そしてここがそれまでの映画のトーンとはまったく違うんだ。
でも、その違和感が逆に
観る者の心に強く残る仕掛けとなっているんだ」

---ニャるほど。
物語の主軸は、その
咲って女の子にあるんだニャ。
「そう。
この強烈な個性をいやというほど見せきるところが
この映画の凄さ。
咲は、自分が周りからどう思われているかを熟知。
かつ、その先の先まで読むことができる。
だからちょっとした情報を基に、
香奈が日記を残していることをつかむと
クラスの別の女性との名前を使って
香奈の父親・安藤(内野聖陽)のもとに乗り込んだりまでする。
結局、それによってで安藤は咲の存在を知り、
彼女と対決することになるわけだけど…」

---ふむ。
周りはみんな咲の味方…ってことだニャ。
「そうなんだ。
まあ、相手は“美貌という鎧を持つ悪魔”。
娘を亡くして身なりも生活もズタボロの
くたびれた親父の言うことなど周りは聞きはしない。
そして咲はまたそれを巧みに利用するわけだ。
もう観てて、何度、怒りで震えたことか。
案の定、父親はキレちゃう。
この傷心から復讐へと転じていく父親を演じた内野聖陽の演技は鬼気迫るものが。
そしてそれにもまして、
俳優イメージに傷がつく危険を冒してまで
咲という役を完璧に演じきった吉本実憂には、
ただただ感服あるのみ。
このダーティイメージを覆したとき、
そこには役者としてのさらなる栄光が待っているんだろうな」



フォーンの一言「谷村美月との対面シーンもスゴいらしいのニャ」身を乗り出す

こんな美女に目をつけられたら終りだ度


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猫ニュー

『名もなき塀の中の王』

2015-08-17 23:32:52 | 新作映画
(原題:Starred Up)

ここまで狂暴な囚人が主人公の監獄映画はおそらく初めてでは?
『名もなき塀の中の王』
それは音楽ばかりか音響効果さえない。
なのに一時たりともスクリーンから目が離せない。
刑務所内の利害、権力関係が複雑に入り組み、着地点が読めないのだ。
それでいてラストの微かな救い。これは忘れられない。

----音楽ばかりか音響効果もないって⁉
そういう映画、苦手なんじゃなかった?。
「そうだね。
本来なら、ぼくの好みじゃないはず。
第一、この映画、
最初から最後まで、塀の中=つまり舞台が刑務所で、
お世辞にもきれいな映像とは言えない。
Twitterでも呟いたように、
主人公の少年エリック・ラブ(ジャック・オコンネル)ときたら
すぐキレて、
暴力沙汰ばかり起こしてしまう。
しかもその手口ときたら、
これまでお目にかかったことがないようなもの。
たとえば、看守の急所にかみついたりとかね…。
もう、野獣そのもの」

----へぇ~っ。
よくそんな映画を紹介する気になったニャあ。
「うん。
もちろん、それには理由があってね。
というのも、この映画、
どう転がっていくか、全く先が読めないんだ。
これまでに観てきたいくつかの刑務所映画を思い起こし、
“脱獄”のパターンや“更生”のパターンなど、
いくつ、想定していたんだけど、
実際に観てみると、
この主人公が、とても簡単には更生するとは思えない。
途中、心理療法士(ルパート・フレンド)によるグループ療法」のようなものもあるんだけど、
このセラピストがとてもじゃないけど、
この凶暴な男たちを変えられるようには思えないんだ。
そしてもうひとつのポイント。
それがこの刑務所に、前から入っている父親ネビル(ベン・メンデルスゾーン)の存在。
この父親が、主人公に輪をかけたようなワル。
刑務所内を見回り目を光らせている」

----どういうこと?
その父親って
この刑務所のボスってわけ?
「う~ん。
そうじゃないんだ。
この刑務所を売らせ仕切っている
影のボス、デニス(ピーター・フェルナンド)にくっついているんだね。
つまりネビルとしたら、
その片腕のような存在にいることで
自分の身を守っている。
で、そのボスから
お前の息子は、ここの秩序を乱すからよく見張ってろみたいな指令を受ける」

----う~ん。
それって
エリックにしてみたらオモシロくないよニャあ。
「だよね。
衝動的に暴力をふるうとはいえ、
そこは思春期の少年。
父親のそんな態度は汚いものにしか映らない。
そこで当然のようにこのふたりは、
何度も衝突を繰り返す。
そしてある事件が起こる…」

---ゴクッ。
「この恐るべき事件が何かはここでは言わない。
しかし、それによって物語は急展開していく。
そして、この刑務所の、
いやこの映画の中に隠されていた、
ある“真実=心理”があきらかになったとき、
映画にかすかな希望がのぞく。
主人公が最後にボソッと呟いたある言葉。。。。
う~ん。これは心に響いたね」



フォーンの一言「このお父さん、刑務所内に愛人もいるらしいのニャ」身を乗り出す

「なんだか、ドキュメンタリーを観ているような緊迫感だった度

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猫ニュー

『エール!』

2015-08-08 13:35:36 | 新作映画



(原題:La famille Belier)

たとえば観てから何十年も後にある映画のタイトルを耳にして
「あっ、それぼくも観たよ。よかったなあ」と
記憶の底から手繰り寄せてくることがある。
そしてぼくの場合、いまそれが #1日1本オススメ映画 に。
昨日試写で観た『エール!』はまさにそういうタイプの映画だった。
10月31日公開。


----へぇ~っ。
昨日、観たばかりというのに
もうブログに…。
「うん。
このペースだと『ジュラシック・ワールド』
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』
喋らないままになりそう…。
でも、こういう
下手するとあまり話題にならない可能性もあって、
でもぼくとしては惹かれた映画くらいは
記録に残しておこうと…」

----それが
最初に呟いていた
記憶の底に眠っている映画…ってことだニャ。
「うん。
うまいこと要約してくれてありがとう(笑)。
この映画『エール!』は、その設定がまずうまい。
ヒロインの高校生ポーラ(ルアンダ・エメラ)は
父親、母親、それに弟と
彼女を除く全員が耳が聞こえない家庭に生まれ育っている。
そんな中、ポーラは手話で家族と会話し、
周りの人にその言葉を伝えている」

----ニャるほど。
「ポーラの性格はとても明るく、
家族もみんな前向き。
家は酪農を営み、
青空市場にそこでできたチーズを売りに行ったりもしている。
父親に至っては
障害をものともせず
村長選挙に打って出ようとしているんだ」

----へぇ~っ。
でも、いくら明るくても普通の高校生と同じ、
悩みくらいはあるんじゃニャいの?
男の子のこととか、進学とか…。
「そうなんだ。
ドラマはそこから動きだしていく。
前から気になっていた男の子がコーラスの授業を取ると知ったポーラは、
自分もも同じ授業を…。
そこで彼女の歌声を聴いた音楽教師はビックリ。
あまりの美声に、
パリの音楽学校のオーディションを受けることを進めるが…」

---う~ん。
普通のお話になってきたニャあ。
「いやいや、そんなことはないよ。
ここにはいくつもの仕掛けがある。
ひとつはポーラの才能の目覚めが“歌”だということ。
しかしその声は家族に伝わることはなく、
どれだけ彼女がうまいのかが
実感として分からない。
そしてもうひとつ。
娘がパリに行ってしまうということは、
外への媒介となる人を失うわけで、
ただでさえ、
親にとってはつらく寂しい子供の一人立ちが、
より現実的な問題として一家に降りかかってくる。
ポーラもそのことは十分に分かっている。
だからこそ悩むし、
音楽教師による個人レッスンも、こっそりと受けている。
だけど親はその“秘密”さえも
ボーフレンドができたんだろう?くらいにしか予想していない」

----ニャるほど。
「さて、
ぼくがうまいなあと感心したのは、
さっきのふたつの障壁。
ポーラの声の素晴らしさが家族には分からない
ポーラの旅立ちの思いが伝われない。
これをいずれも“歌”に乗せて乗り越えていること
もちろん、ストーリーの流れの中でね」

----う~ん。
でも、できすぎたお話だニャあ。
ちょっと現実離れしているような…。
「確かにそれはあるね。
でも、この映画のオープニングを観たら
なるほどと思うよ。
のどかな緑の村の中の酪農家を
俯瞰でとらえた映像。
ちょっとソフトフォーカス気味の映像は、
さあ、これからファンタジーが始まりますよ…
と言っているかのよう。
ヒロイン役のルアンダ・エメラもだけど、
父親役フランソワ・ダミアン、母親役カリン・ヴィアール
聴覚障害ではない。
その分、少しアクトオーバー気味。
でも、それがこの映画の楽しさという意味で
いい方にplusしているんだ。
そう、ちょっとミュージカルのような趣もあったね」



フォーンの一言「ミシェル・サドゥというシンガーソングライターの歌が使われているらしいのニャ」身を乗り出す

「オーディションで伴奏のピアニストが
彼の曲を弾けなかったことからも
その歌手のポジションが分かる度


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